
男性産婦人科医・重見大介の提言 #02
男性のプレコンセプションケア 4つのポイント【男性産婦人科医が提言】
子どもを望むための準備は女性だけのものではなく、男性にとっても非常に重要です。精子の健康は妊娠の成功率や子どもの将来の健康に直結します。
本記事では、男性が今日から取り組めるプレコンセプションケアのポイントを解説します。
食事・運動・睡眠から生活環境、ワクチン接種や遺伝リスクまで、パートナーと共に未来の健康を育む4つのヒントをお届けします。
(1)精子の質を高めるライフスタイル
精子のDNAや運動率は、毎日の暮らし方で大きく変わります。
まず意識したい基本は「血流・酸化ストレス・温度」の3つです。この3つを意識した生活を続けることは、プレコンセプションケアとしてとても大切です。
ポイント
●食事
野菜・果物をしっかり摂り、魚やオリーブ油など不飽和脂肪酸を意識すると、精子に良いとされています。ビタミン(C・D・E)や亜鉛も日頃から適量を摂取しておくと良いでしょう。
● 運動
週150分程度の中強度の運動(早歩きや軽いジョギングなど)は精子数と運動率を高めることが一部の研究で報告されています。
●睡眠
就寝前1時間の”スマホ断ち”と7〜9時間の睡眠確保で、睡眠の質低下・睡眠不足由来のテストステロン低下を防ぐことが期待できます。睡眠の質が悪いと精子濃度が下がってしまうことがわかっています。
● 禁煙・節酒
喫煙は1日10本未満でも酸化ストレスを上げますが、禁煙後3ヶ月程度で精液所見の改善が期待できます。アルコールの飲み過ぎにも注意です。
● 温度管理
膝上でのPC作業や長時間のサウナは精巣温度を過度に上げてしまう恐れがあるため、特に妊活中は控えめにしましょう。普段から通気性の良い下着を選ぶのもポイントです。
また、体型の指標であるBMI(Body Mass Index)が23〜25を超えるとホルモンバランスが乱れ、特に肥満男性では精子濃度が20%程度低下するという報告もあります。体重管理も重要なんですね。
そしてストレスも体内の活性酸素を増やすとされているので、最低でも週1回は趣味の時間や瞑想など、ご自身に合う簡単なリラックスタイムを取り入れましょう。カフェインは適量(目安:1日200mg未満)なら精子運動率に影響を与えにくいとされています。
精子が新しく形成されるには約2〜3ヶ月を要するため、妊娠を考える場合は少なくとも3ヶ月前から生活習慣を整え、悪い影響をリセットすることが有効です。パートナーと一緒にぜひ取り組んでみましょう。まだお一人でも、上記はいずれも健康に良いことですので生活に取り入れていくことをお勧めします。
(2)ワクチンで感染症から身を守る
妊娠を視野に入れている男性にとって、重要な感染症対策は「精子と胎児を守るための予防接種」と「無症状でも受けておく定期検査」の2本柱です。
性感染症の中には、不妊の原因になったり、妊娠中にかかると赤ちゃんの健康に影響を与えるものがあります。
少なくとも妊活開始の3ヶ月以上前から、下記をチェックしましょう。
妊娠前に確認したい主なワクチン
風疹(MRワクチン)
1962年4月2日から1979年4月1日までに生まれた男性は風疹の抗体保有率が低いことがわかっており、無料の抗体検査+追加接種の対象になっています。職場で受けられる自治体もありますので、ぜひご確認ください。
HPVワクチン
自身の咽頭がん・尖圭コンジローマ予防とパートナーの子宮頸がん予防に有効です。中高生だけでなく、26歳までの男性では特にメリットが大きいとされています。
その他
麻しん、水痘、COVID-19 のワクチン接種歴を母子手帳や接種記録で確認しておきましょう。未接種なら早めに医療機関へご相談ください。
性感染症について
検査対象
クラミジア、淋菌、梅毒、HIV、B型肝炎などが重要な性感染症です。尿・血液検査で簡単に判定でき、保健所では匿名・無料検査も実施されています。
性感染症の検査はなぜ必要?
例えば、クラミジア感染は精子濃度と運動率を低下させることが研究でわかってきています。女性にとってもクラミジア感染は不妊症のリスクになりますが、男性にとっても早期発見と早期治療が重要なんですね。
パートナーと取り組むコツ
1. カップルで一緒に母子手帳や接種記録を確認し「抜け」をチェック。
2. かかりつけ医か保健所で抗体検査を受ける(相談の上で、はじめからワクチンを接種するのもアリです)。
3. 普段から手洗いやマスクを意識し、性交時にはコンドームを使用することで、感染リスクを最小化する。
感染症対策は「自分と未来の家族への贈り物」になります。上記のような予防策は早めに終えて、安心して次のステップへ進みましょう。
(3)生活習慣病と遺伝リスクのマネジメント
肥満・糖尿病・高血圧などの生活習慣病は「体調の問題」だけでなく、精子のDNA損傷や運動率低下を通じて妊娠率を下げ、流産や先天性疾患(生まれつきの病気)の一因にもなってしまいます。
主な疾患と精子への影響
糖尿病
精子DNAに悪影響を与え、運動率が低下することが知られています。また、勃起不全の原因にもなり得ます。プレコンセプションケアの視点では、適切な血糖管理で改善が期待できます。
肥満
特にBMI30以上では精子濃度が約25%も減ってしまうというデータがあります。適切な減量で改善が期待できます。
高血圧
血圧の上昇は精子の形態異常を増やし、体外受精時の妊娠率を下げるという報告も。
遺伝リスクを知る
● 男性側の高年齢は、わずかに子どもの先天異常のリスクが増加することと関連していることがわかってきています。また、出生後の発達や長期的な健康にもわずかな影響を与える可能性が指摘されています。
● 家系に遺伝性疾患がある場合は、男女ともに「遺伝カウンセリング」を受けると、より客観的に状況が把握できますし、選択肢が広がります。
今日からできるアクションは?
1. 定期健診で糖尿病・高血圧・肥満の有無をチェックし、適切な治療を受けましょう。
2. 何かの薬を飲んでいる場合には、医師と相談し、妊活前に薬の調整をしておきましょう。
3. 男性の年齢も妊娠や胎児に影響することを知っておき、遺伝リスクについても考慮していきましょう。
(4)メンタルヘルスとパートナーコミュニケーション
妊活中は男性にも大きな心理的負荷がかかります。慢性的なストレスはコルチゾールを上昇させ、精子DNAへの悪影響を生じることが報告されており、妊娠率の低下や流産リスクの増加につながり得ます。
実際、うつ病男性を対象とした研究では、精子量、精子濃度、総精子数、運動率などが低下していたことが報告されています。
パートナーと乗り越えるコツ
1.週1回の「妊活ミーティング」
方針や不安、困りごとなどについて素直に話し合う時間を定期的に持つと、不安や辛さを軽減しやすくなりますし、相互理解が深まり、妊活も続けやすくなるはずです。
2.ストレス軽減に役立つ習慣を持つ
30分程度の軽い運動や深呼吸、趣味の時間をカップルで持つようにすると、相互のサポート効果が生まれやすいですし、ストレスを軽減できるでしょう。
3.「楽しむ」という気持ちを忘れずに
作業のようになってしまうと、ストレスは大きくなり、プレッシャーにもなってしまいます。できるだけ2人の時間を楽しめるような工夫をしながら妊活を続けることも大事なポイントです。
こころの健康と良好なコミュニケーションは、精子の質だけでなく夫婦(カップル)関係や将来の子どもの健やかさにも直結します。無理を抱えすぎず、小さな対話を重ねることを忘れずに。
本記事が、皆さんのプレコンセプションケアに少しでも役立てば嬉しいです。
【参考文献】
1. Lo Giudice A, et al. World J Mens Health. 2024 Jul;42(3):555-562.
2. Budihastuti UR, et al. Int J Fertil Steril. 2024 Jun 9;18(3):240-247.
3. 東京都. 風しん抗体検査及び予防接種について(第5期、追加的対策).
4. 厚生労働省. ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~.
5. Mazzoli S, et al. Eur Urol. 2010 Apr;57(4):708-14.
6. Ye YX, et al. Fertil Steril. 2022 Jan;117(1):86-94.
重見大介
産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。