宋 美玄の炎上ウォッチ!
授乳がまさかの迷惑行為?!母乳はそんなに都合よく出ません
カテゴリー:SRHR・女性医療
「カフェで授乳ケープをつけて授乳していたところ、店員に『大勢の方がいますので・・』と注意され、反省した」という内容のSNS投稿がきっかけとなり、公共の場でケープをつけての授乳は是か否かということが論争になっています。
この論争自体は今回が初めてではなく、これまでにも新聞投稿やネット記事などをきっかけとして繰り返し話題になっています。2017年には、飲食店で授乳ケープを使って授乳する母親を見て「目のやり場に困る」「授乳は授乳室でしてほしい」と感じたという投稿をきっかけに、公共の場での授乳の是非が議論になりました。
(当時の論争について授乳服の会社モーハウスの光畑由佳さんが書かれた記事を読むと、今と論点が全く同じで、10年近く停滞しているのか・・・と思いました。)
その後も、カフェ、レストラン、公共交通機関などで、授乳ケープを使えば授乳してもよいのか、絶対に授乳室や車内など人目につかない場所を選ぶべきなのか、という形で議論が度々起こっています。
公共の場での授乳。賛成派、反対派、それぞれの言い分
主な賛否の意見は次のようなものです。
賛成意見
| ・授乳ケープは、そもそも人目のある場所で授乳するためのもので、ケープを使っている時点で配慮している。 ・赤ちゃんの食事・水分補給より、大人の「気まずい」「見たくない」が優先されるのはおかしい。 ・ミルクを飲まない子、哺乳瓶拒否の子もいるので、母乳以外の選択肢がないことがある。 ・授乳室が近くにない、混んでいる、探すのが大変という現実がある。 ・上の子がいると、授乳室に移動するだけでも難しいし、上の子が小学生くらいだと、授乳室に連れて入るのも難しいし、外で1人で待たせるのも危ない。 ・性的にみる人がいるせいで、授乳する側が遠慮するのはおかしい ・少子化と言いながら、赤ちゃんの存在を公共空間から排除するのは矛盾している。 |
反対意見
| ・カフェのような飲食の場で授乳されると、ケープがあっても気になる。 ・授乳はプライベートな空間でするものという感覚がある。 ・赤ちゃん連れで出かけるなら、授乳室やおむつ替えスペースがある場所を事前に調べるべき。授乳のタイミングも親ならだいたいわかるはず。 ・子連れに優しい店や商業施設を選ぶべきで、なぜ普通のカフェを選んだのか疑問。 ・他の客が不快に感じる可能性がある行為は、避けるのがマナーではないか。 ・目のやり場に困る。 ・盗撮される危険もあるので、本人のためにも公共の場での授乳は避けた方がいい。 ・9カ月の子なら、麦茶やおやつで対応できたのではないか。 ・授乳間隔も新生児期ほど短くないはずなので、カフェの時間に重ならないように時間調整できたのではないか。 |
時間調整やコントロールが難しい、母乳の現実
実際に母乳育児をしている人の中には、「出したい時に母乳を出す/飲んでもらう」ことや、「授乳できない時はミルクを飲ませる」ということはそれほど簡単ではないことを実感している方も多いと思います。
産後すぐの育児の悩みは、母乳に関するものがとても多いです。うまく吸啜(きゅうてつ)してくれなかったり、なかなか十分に分泌されなかったり、張りすぎて乳腺炎を繰り返したり、悩みやトラブルの内容もさまざまです。簡単にコントロールできるものならばどれほど楽なことでしょう。
私が母乳育児(混合)をしていたのはもう10年も前のことですが、最初はなかなか母乳が出なくて赤ちゃんが泣き続けたり、当直勤務の間に搾乳の間隔が空いてしまって分泌量が減ってしまったり、いろいろと悩みは尽きませんでした。

「泣き止まない時の切り札」という側面も
でも、寝かしつけや泣きぐずりの時に授乳すると、そのままおとなしく寝てくれるのでとても楽な面もありました。子連れで外出する時には、授乳服やケープを使って、子連れOKの場所で授乳をしていました。
ベビーカーで寝た瞬間に「やった!1人でゆっくりコーヒーが飲める!」と思ってカフェに入ったら、予想より早めに起きて泣き出してしまうということもしばしばで、さっとケープを出して授乳していました。泣き声が響き渡るよりましかと思っていました。
授乳を我慢しすぎると、トラブルにつながることも
「外出先や飲食店ではミルクにすればいい」「自分はそうしていた」というような意見も見ますが、哺乳瓶からはうまく飲めない・飲んでくれない子もいますし、授乳間隔があくと胸がカンカンに張って詰まって乳腺炎になってしまう人もいます。
また、母乳の中にはFIL(乳汁産生抑制因子) と呼ばれる、母乳産生を抑える物質が含まれていて、母乳が出されずに乳房内に残るほどFILもたまり、「もう十分あるので作る量を減らそう」となってしまい、母乳が出にくくなってしまいます。
母乳育児はみんなにとって簡単なものではなく、お母さんと赤ちゃんの調子がかみ合って安定していくものです。思想として「母乳で育てるべき」「こだわらずにミルクも使うべき」と他人が押し付けるのも違いますし、同様に「飲食店ではミルクにしろ」「授乳室がなければ諦めろ」とタイミングに口を出すのもおかしいと思います。

どんな社会を目指すのか。授乳中のママに行動制限を求める前に
そして出てくるのが極論で、「授乳している間はカフェに行くな」「自分はそうしていた」というものです。そうなると、「少しでも不快に思う人が存在するのだから、子育て中は迷惑をかけないよう行動を控えるべき」ということになってしまいます。
私が子育てをしていた時代から、「ほんの数年くらい自分の楽しみは諦めるべき」「母親なんだから」という論調はありましたが、息抜きにカフェで座ることも我慢しろというのは全くもって現実的ではないし、そんな極端な根性論に軍配を上げるような国には未来はないでしょう。
何事もいろいろな感じ方をする人がいるのは当然ですし、たとえ乳房や乳首が見えていなくても不快に思う人や、老婆心で落ち着かない思いをする人はいらっしゃることでしょう。でも、それで授乳中のママに行動を制限しろというのは全くおかしなことだと思います。かつて授乳をしていた1人の女性として、母乳育児がメカニズム的に簡単なものではないと知る医師として、ケープ授乳をしてよい社会を望みます。

















