crumiiを応援する バナー

婦人科での麻酔まとめ【後編】

産婦人科での診察や処置の痛みについて~後編:産婦人科医が解説~

注射針とワクチンの瓶

前編の記事では、子宮という臓器の構造的な特性、麻酔そのもののリスク、混合診療の制度上の制約など、婦人科の処置に麻酔が使われにくい背景について解説しました。

後編では、「どうすれば少しでも診察や処置の痛みの痛みを軽減できるか」を考えていきます。処置の内容によって麻酔を使える施設もあり、患者さん本人にできる工夫もあります。産婦人科の受診をためらっている方にも、ぜひ読んでいただけたらと思います。

どの処置でどんな麻酔が使えるの?

処置の内容によっては、複数の麻酔を組み合わせて使うこともあります。また、標準的に麻酔を使う場合もあれば、「希望すれば追加できる」ケースもあります。麻酔を希望される場合は、受診する前に電話等で確認しておくと良いでしょう。婦人科で行う代表的な処置ごとに、どのような麻酔が選ばれることが多いのか、実例とともにご紹介します。

基本は麻酔を使わずに行う処置

● 採血やワクチンの接種 

これは産婦人科に限らず、他の診療科でも行う医療行為ですが、ワクチン接種や採血の際には麻酔を使うことは少ないです。小児の方や透析のときなどに痛み止めのテープなどを使用することがあります。

● 子宮頸がん検査(細胞診、組織診、コルポスコピー) 

1. 細胞診(PAP)
一般的に子宮頸がん検診(子宮頸がん検査)では、麻酔を使わないことが多いです。
 子宮頸部をブラシでこすり細胞を取る検査で、1~2分で終了します。
2.組織診(コルポスコピー下生検)
子宮頸部の組織を採取する際、局所的な痛みを伴うことがあります。軽度の処置であれば無麻酔または浸潤麻酔(子宮の入口に麻酔のゼリーを塗布する方法)、痛みに不安がある方には笑気麻酔(鼻や口から酸素と窒素を吸う方法)を併用することもあります。麻酔が使えるかどうかは施設の方針や希望に応じて決まります。

● 子宮体がん検査(子宮内膜細胞診、子宮内膜組織診、子宮内膜掻爬) 

子宮の奥まで器具を挿入する必要があり、強い痛みを伴うことがあります。施設にもよりますが、子宮の入口に浸潤麻酔をしたり、または子宮頸管ブロックが使われることもあります。以前に検査を受けて、痛みが非常に強かった方の場合、外来で検査をせずに日帰り手術のような形で麻酔をするケースもあります。

● ミレーナ挿入・抜去 

通常は無麻酔で行うことが多い処置ですが、出産経験がない方や痛みに敏感な方には、浸潤麻酔や笑気麻酔の併用が勧められることもあります。また、痛みに強いトラウマや経験がある方は、事前に麻酔の希望を伝えておくことで対応してもらえる可能性があります。

● 経腟超音波(内診)での強い痛み 

一般的に麻酔は使用しませんが、過去のトラウマや慢性的な痛みがある場合、事前に予約時や問診票に記載しておき医師へ伝えておくことをおすすめします。麻酔の使用は難しいことが多いですが、潤滑ジェルの使用や内診時の声かけや姿勢などの工夫で痛みを軽減できることもあります。

内診台に座って診察を待つ女性のイラスト
Photo:PIXTA

基本は麻酔を使って行う処置

● 初期流産手術(子宮内容除去術) 

子宮内の内容物を取り除くため、痛みを伴う処置です。多くの場合、静脈麻酔が使われます。場合によっては、静脈麻酔ではなく子宮の入口の局所麻酔や子宮頸管ブロックが使われることもあります。短時間で終わるものの、精神的な負担も大きいため、できる限り痛みや不安を軽減する対応が求められます。

● 初期中絶手術(12週未満) 

日本では多くの医療機関で静脈麻酔が使用されています。患者さんは寝ていて意識がない状態で処置を終えることができ、痛みや記憶が残りにくいように設計されています。静脈麻酔で痛みが残る場合、必要に応じて局所麻酔やブロック麻酔と併用することもあります。

施設によっては麻酔を使える処置

ここでは、施設によって違いはあるものの、患者さんが申し出ることで自費で麻酔を使用できるケースをいくつか紹介します。

● ミレーナ挿入に局所+笑気麻酔が使われる例 

ミレーナの挿入では、子宮頸部(腟と子宮をつなぐ通り道)の通過時に鋭い痛みが出ることがあり、一部の施設では子宮の入口に局所麻酔を注射する「子宮頸管ブロック麻酔」が使われています。また、痛みの不安が強い方には笑気麻酔を追加することで、処置への恐怖感を軽減し、リラックスした状態で臨むことができます。こうした組み合わせは施設によって対応が異なるため、予約をする際に確認・相談を行いましょう。

● 初期中絶や流産手術に静脈麻酔が選ばれる理由について 

子宮内容除去術を行う妊娠初期の人工妊娠中絶や流産の処置では、肉体的な痛みだけでなく、精神的な負担も非常に大きいため、意識を落とした状態で行える静脈麻酔が第一選択となることが多いです。鎮静・鎮痛効果が高く、処置中の不安や恐怖を感じにくくなります。
また、中絶手術は自由診療のため、静脈麻酔の設備・人員・回復室の確保にかかるコストを含めた費用設定が可能です。

逆に、保険診療で行われる検査や処置では、診療報酬の点数があらかじめ決まっており、麻酔を加えたとしても十分なコスト回収が難しいという現実があります。混合診療ができないため、麻酔部分を医療機関の負担で行っているところもあります。
そのため、保険診療においては、施設によって麻酔を使うか使わないか大きな差がうまれています。

天国へ旅立つ子供の天使
Photo:PIXTA

● 検査でも希望すれば麻酔が可能なケースも 

子宮頸がんの組織診(コルポスコピー下生検)や子宮体がんの検査など、短時間で終わる検査であっても、強い痛みがあったり、過去に辛かった経験があるといった場合には、医師と相談の上で麻酔を併用できる施設もあります。

たとえば、腟の入口部分の局所麻酔や笑気麻酔の利用で、緊張を和らげながら痛みも軽減できるため、必要に応じて遠慮せず申し出ることが大切です。ただし、基本的に保険は適用にならず自費診療になるため、価格を含めて事前に医療機関に問い合わせるのがおすすめです。また、笑気麻酔は、笑気の配管などの設備がない施設では実施できない麻酔になります。

費用と保険適用の違い|麻酔の料金目安

「麻酔を使ってほしいけれど、費用が心配…」という方は多いかもしれません。麻酔の種類によって、保険が使えるものと自費になるものがあります。ここでは、麻酔ごとの料金の目安や、検査・処置全体の費用の考え方について解説します。

麻酔の種類ごとの料金相場は?(自費・保険の差) 

麻酔にかかる費用は、処置の内容や医療機関によって異なります。局所麻酔は保険適用となることが多く、追加費用は比較的少額です。一方、笑気麻酔や静脈麻酔は自費診療扱いとなり、数千〜数万円程度の追加料金がかかることもあります。自費で麻酔を使用する場合は、保険が併用できませんので、麻酔の料金だけではなく、処置そのものの料金も全額自費となることに注意しましょう。
医療機関によっては「麻酔オプション」として事前に選択できるようになっている場合もあります。

検査や処置に付随する費用

麻酔の費用は「処置に付随する費用」の一部であり、検査や処置全体の費用とあわせて事前に確認する必要があります。とくに中絶や流産手術などでは、処置料・麻酔料・診察料・薬代などが手術料とは別に請求されることがあり、合計で5万円〜10万円前後になるケースも。

心拍の確認ができていれば、流産や中絶に至った場合でももらえる助成金もあります。自治体の補助制度や医療保険の適用範囲を事前に確認しておくと良いでしょう。

参考:妊婦支援給付金  こども家庭庁

よくある質問(Q&A)

実際に婦人科の処置を受けた方、あるいはこれから受ける予定の方からは、麻酔に関してさまざまな疑問が寄せられます。ここでは、よくある不安や質問に対して、医学的な視点からできるだけわかりやすくお答えします。

①笑気麻酔だけで本当に痛みは減るの? 

笑気麻酔は鼻や口から笑気(亜酸化窒素)を吸う方法で、痛みをとるための麻酔ではありませんが、痛みの感じ方を和らげ、リラックスした状態を作るのに有効です。局所麻酔や鎮痛薬と併用することで、より効果的な鎮痛が期待できます。吸入をやめれば数十分ほどで意識もはっきりするため、安全性が高いことも特徴です。

②静脈麻酔はどれくらいの時間で覚める?

静脈麻酔は点滴から麻酔薬を投与する方法です。短時間作用型の薬剤が使われるため、処置終了後20~60分ほどで意識が回復します。ただし、完全に回復するには数時間を要することがあり、当日は安静に過ごし、運転など機械の操作は避けましょう。個人差があるため、回復には余裕を持ったスケジュールで臨むことが大切です。

③市販の鎮痛薬は本当に効くの? 

ロキソプロフェンやアセトアミノフェンなどの市販の鎮痛薬は、子宮頸管を通過する処置での痛みをある程度和らげる効果が期待できます。処置の20〜30分くらい前に内服しておくと、内診台に座る頃には効果が出てくるので、ミレーナの挿入や子宮体がん検査など、痛みの伴う処置や検査を受けに来る方に飲んでおいてもらうこともあります。

ただし、完全に痛みをなくすものではなく、痛みを和らげる効果は補助的なものとなります。持病がある方や他の薬を服用中の方は、事前に医師や薬剤師に相談するのを忘れずに。

水でピルを飲む日本人女性
痛みのある処置の前に痛み止めを飲んでおくことも。Photo:PIXTA

④内診で毎回強い痛みがある場合、どうすればいい?

毎回の内診が痛い、という場合、まずは医師に痛みの程度や過去の経験を正直に伝えることが大事です。麻酔の併用、器具(クスコ、腟鏡診)のサイズ変更、検査方法の工夫などが可能になることもあります。特に、過去の診察や治療でトラウマがあったり、性暴力被害の経験がある方は、問診票に記載しておくことをおすすめします。

まとめ|痛みに不安があるときは、遠慮せず相談を

前編では、婦人科で行われる処置の痛みの実態と麻酔の種類、そして麻酔が使われにくい背景にある医学的・制度的な事情について解説しました。後編では、実際に麻酔を使う場合の処置別の選択肢、受診側にできる工夫、費用の目安についてご紹介してきました。

婦人科の処置は痛くて当然のような態度が現実にあったという声がSNS上にありました。現代では少しずつ状況が変わってきています。適切な配慮が、良い医師の条件のひとつとして認識されるようになり、自費にはなりますが、笑気麻酔など医療サービスとしての麻酔の選択肢も増えています。

嫌な思いをしたら、遠慮なくクリニックを変えましょう

予約時の説明や、初診時の説明内容に「痛みへの配慮」や「麻酔の有無」が含まれている医療機関は、患者の痛みに配慮した診療を行っている可能性が高いと考えられます。

口コミに加えて、これらの情報を参考にしながら、医師との相性も含めて、自分に合った婦人科を探しましょう。地域によっては、選択肢が限られることもあるので難しいところですが、相性のよくない医師には、早めに見切りをつけるという選択肢もあります。

小さな行動が、診察の体験を大きく変えることもあります。多くの産婦人科医は、女性の力になりたくて医師をやっています。安心して通える婦人科に出会うことができれば、生理や妊活の相談、妊娠時の健診、更年期など、今後のさまざまなライフステージにおいて、健康な生活の支えになってくれると思います。

crumiiは、婦人科受診へのハードルが少しでも下がり、女性が必要な治療を受けやすい社会づくりに、少しでも貢献できたらと思い、これからも活動を続けていきます。

【参考文献】
産婦人科外来診療・小手術の局所浸潤麻酔・伝達麻酔 竹田省 メジカルビュー社,2022
 

柴田綾子

この記事の監修医師

医長

柴田綾子先生

産婦人科

世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修し2013年より現職。女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動。著書:女性の救急外来 ただいま診断中!(中外医学社,2017)、産婦人科ポケットガイド(金芳堂,2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社,2021)明日からできる! ウィメンズヘルスケア マスト&ミニマム(診断と治療社,2022)

監修チームについて知る
crumiiを応援する バナー

シェアする