山田ノジルのドラマレビュー #6 『ファーストクライ』第6話
話題のドラマにみる母性愛という名の「視野狭窄」~“愛と責任”が判断を狂わせる時~
「お母さんの愛に浸ってた」
第6話ラスト、主人公がつぶやいたセリフは、ドラマの根底に流れるテーマを表しているかのようでした。多様な立場の母たちと、それを支える人たちの愛と情熱。そして社会の在り方。
今回描かれたのは、「母体の命か、お腹の赤ちゃんの命か」でした。産婦人科ドラマにおける鉄板展開であり、避けては通れぬ大一番のテーマともいえるでしょう 。
母親が「自分の命はどうなってもいいから、この子を助けてください」。そう懇願し、周囲は尊い母性愛に涙するーーフィクション作品で、私たちが幾度となく目にしてきた光景であります(医師たちは現場で目にしているんですよね。すごい)。
しかし、ドラマ『ファーストクライ』第6話では、そうした綺麗なストーリーの裏側に潜む、もっと生々しくて危険を孕んだ「母性のリアル」が描かれていたように思えます。
Photo:PIXTA
今回登場したのは、まさに命がけの出産に直面したふたりの妊婦。10代の高校生と、セレブ妻。どちらの母親も、胸の中にあるのは間違いなく、我が子への深い愛情であり、親としての苛烈(かれつ)なまでの責任感。特にセレブ妻の態度には「自分を後回しにする必死さ」ゆえの、危うさが詰まっていたように見えました。
「自分は後回し」という愛情トラップ
母親は、必要にせまられると自分のことを後回しにしがちです。育児の現場では、食事や睡眠を削るどころか、尿意までを極限まで我慢するシーンも珍しくありません。体調不良でも病院はおろか、横になる余裕すらないという声もよく聞きます。
日常の小さな場面から、命に関わる重大な局面まで。そこには愛や責任感に加え、「だって母親だから」という社会的プレッシャーも同居しているでしょう。
しかしこうしたメンタリティは、時に強烈な“視野狭窄(きょうさく)”も発動させます。「私が耐えればこの子が助かる」という考え・選択は、客観的で冷静な判断力を奪い去ってしまうものです。今回はそんな妊婦の姿が印象的でした。
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現実でも、「我が子を守る正義」に固執するあまり、周囲の声が耳に入らなくなり、結果としてかえって我が子を危険にさらしてしまう場面を見かけることがあります。
私がこれまで観た作品の中からピックアップすると、映画『ハングリーハーツ』(2014年)がその典型例でした。子どもを守りたいという気持ちから乳児にヴィーガン食しか与えずに悲劇が起こる……という物語です。
そこにあるのは悪意や毒親的な虐待ではなく、100%の純粋な愛と責任感です。だからこそブレーキが効かず、誰も止められないパニックや狂気へと変貌(へんぼう)していく、そんな怖さが描かれています。
さらに見逃せないのは、この「我が子を想う親心」につけ込む存在が、現実社会に過剰なほどあふれているという事実です。「我が子のために万全を期したい」という切実な想いが、結果的に科学的・医療的な妥当性から遠ざけられ、利用されてしまう構造。
第6話が描き出した母親たちの混迷は、決してドラマの中だけの極端な事例ではなく、現実のあちこちに潜む、搾取の構造と地続きなのです。
「動機の尊重」と「選択の妥当性」を切り離す視点
まず大前提として、我が子を想い、身を削ってでも守ろうとした母親たちの「動機」や「判断」そのものは、どこまでも尊重されるべきものだということは強調しておきましょう。
6話に登場したふたりの母親とそれを支える周囲のプロ、そして家族たちに、感動の涙を浮かべた人は多いでしょう(横で一緒に観ていたうちの子どもは大泣きしていました・笑)。
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しかし、「動機の尊さ」と「選択の妥当性」は、まったく別の話として冷静に切り離して考える必要があります。どれほど純粋な愛から出た行動であっても、客観的に見て命を危険にさらす選択であるならば、それは「妥当ではない」と指摘され、医療や周囲の手によってストップがかけられなければならないことが、ドラマでも描かれていました。愛があるからといって、間違った選択が正当化されるわけではないのです。
「お腹を痛めて産むのが美徳」「母なら命を懸けて当然」という過剰な母性神話は、こうした場面では、大変に罪深いものにうつります。母親たちに不必要な自己犠牲を強いて視野狭窄へと追い込み、その妥当な選択肢を奪ってしまうからです。
主人公が母性愛に思いを馳せながらも模索していたのは、単に母親の感情に同調することではなく、その深い愛を認めつつも、客観的で安全な道へと引き戻すための“手立て”でした。それでも失われた命があったのは、とてもリアルだと言えるでしょう。
すべての“ままならさ”を抱えつつ、人生を進めていく力強さを味わうことができた、第6話でした。
次回放送の視聴リンクはこちら。
山田ノジル
フリーライター。女性誌のライターとして美容健康情報を長年取材してきたなかで出会った、科学的根拠のない怪しげな言説に注目。怪しげなものにハマった体験談を中心に、取材・連載を続けている。著書『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』(KKベストセラーズ)ほか、マンガ原作や編集協力など多数の作品がある。 X:@YamadaNojiru
















