産婦人科医やっきーのトンデモ医療観察記⑬
なぜフェムテックはうさんくさいのか?
読者の皆様は「フェムテック」にどのようなイメージをお持ちでしょうか。
女性の健康情報サービス『ルナルナ』を運営する株式会社エムティーアイは、2022年に「フェムテック」に関するアンケートを実施しました。
その結果、フェムテックサービスや商品を選ぶ際に困ったり悩みを抱えたことがある人が57.8%と過半数を占め、さらにその悩みとして「本当に効能・効果があるかわからない」が52.7%、「商品の安全性がわからない」が38.3%という懐疑的な声が寄せられたのです。
要するにどういうことか、一言で乱暴にまとめると「うさんくさい」という声が少なからずあるわけです。
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フェムテックは玉石混交です。女性の健康問題解決にしっかり寄与するフェムテックも存在しますし、逆に「ただフェムテックと付けただけ」と言っても過言ではない、医学的根拠を放り投げたヒドい商品やサービスも存在したりします。
特に、Instagramは「こんなステキな女子になれる☆」的な投稿と写真・動画メディアの相性が良いためか、フェムテックとは名ばかりの疑似科学商品の宣伝だったりすることが珍しくありません。
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というわけで本日のテーマは「なぜフェムテックはうさんくさいのか?」です。
本来は真っ当な思想のもとに作られたはずの「フェムテック」という概念が、どうしてこんなことになってしまったのか。
それを探るべく、フェムテックの歴史について遡ってみましょう。
フェムテックとは何か?
「フェムテック(Femtech)」という言葉を作ったのはデンマークの起業家イダ・ティン氏です。
"Female"と"Technology"を組み合わせた造語として、2016年に月経管理アプリ「Clue」の資金調達のためのプレゼンで「Femtech」と命名したのが始まりです。
フェムテックムーブメントの発祥となった月経管理アプリはもちろん、最近だと生理用品の残数を管理してくれるIoT収納ケースなどもあったりします。
産婦人科医の重見大介先生が主宰する、産婦人科医や助産師に相談ができる『産婦人科オンライン』(提携している自治体や企業の対象者であれば自己負担ゼロで利用可能)というサービスがありますが、これはもう純然たるフェムテックです。フェムテックの中のフェムテックであり、テックテクのフェムテックなのです。
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フェムテックに関連する概念として、「フェムケア」についても触れておきましょう。
「フェムケア(Femcare)」に正確な定義はなく、一部はフェムテックと境界が曖昧なものも多いですが、実質的にはフェムテックの上位概念のような、女性の健康課題を解決するもの全般を指すことが多いです。
極端に言えば、生理用ナプキンもフェムケア製品のひとつですし、医療・ヘルスケア情報サイトであるこのcrumiiもフェムケアの一環と言えます。ケッアケアのフェムケアなのです。これ発音しづらすぎるな……
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というのはさておき、フェムテックとフェムケア、どちらも概要を見る限りは非の打ちどころがなさそうです。
にもかかわらず、なぜフェムテックはうさんくさくなってしまったのか。
前述したイダ・ティン氏の月経管理アプリ・Clueは、「フェムテック」という言葉のキャッチーさも手伝ってか、資金調達に成功します。
2015年の時点でUnion Square Venturesらが合計700万ドルの巨額出資を行っていたのですが、さらに2016年11月には様々な投資家から2000万ドルの資金が集まったことで、累積出資総額は3000万ドルとなりました。(参考:TechCrunch)
2016年当時、月経関連サービスがこれほどの出資を集めた例は存在せず、これはまず大成功と言って良い成果でしょう。
あるいは、後のフェムテック業界の体たらくを見た上で振り返ると「成功しすぎてしまった」と言っても良いのかもしれませんが……
創業当初は一介のベンチャーに過ぎなかったClueがこれだけの資金調達を達成したことは、投資家・ベンチャーキャピタル界隈にとっても衝撃でした。
これ以降、多くのスタートアップ企業が、あるいは既存の大手企業がフェムテック分野に進出する動きが活発化します。
端的に言えば「女性の健康問題は金になる」と認識されてしまったわけです。
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結果、フェムテック関連事業への資金流入はとどまるところを知らず、2022年第3四半期時点でフェムテックカテゴリの投資額は160億ドルに達し、2027年までに約1兆2,000億ドルになると推定されています。
確かに、こうした事業を行う上で資金があるに越したことはないとは言え、2016年に3000万ドル集められて盛り上がっていた時から考えるとわずか10年ほどで市場規模が膨らみすぎであり、完全に「バブル」と言っていいレベルです。
こうして、海外でにわかに湧いたフェムテックブームは日本にも到来しました。
日本では経済産業省が2020年を「フェムテック元年」と位置付けたほどです。
セルフプレジャー製品とフェムテックの拡大
そんな中、フェムテックブームの波に乗ることで躍進につながったのが女性向けセルフプレジャーグッズ(自慰行為に使う道具)です。
これらの製品にとって「フェムテック」の概念が持ち込まれたことは、まさに絶好のビジネスチャンスでした。
いまや一大市場となったセルフプレジャーグッズ Photo:PIXTA
こういう性的グッズは、長らく広告や売り場の制約を受けやすい商品でしたが、セクシュアルウェルネスやセルフケアという考え方が広がるにつれ、百貨店や一般的な商業施設でも扱われやすくなります。芸能人を広告に出すことも格段に容易になりますし、投資家からの資金調達の難易度も下がります。
まさに企業側からすると、フェムテックはこれ以上ない追い風になったのです。
私は、こうした製品が「フェムテック」を標榜して売り出されること自体、肯定的に捉えています。
それまではアダルトグッズ専門店で細々と買うしかなかった製品が、大々的に売り出されたおかげで買いやすくなり、人生の満足度が上がった女性も少なからずいるわけですから。
しかしこのムーブメントは同時に、良くも悪くも「フェムテック」という言葉の範囲を広げることに繋がりました。
実際のところ、こうしたセルフプレジャー製品も「セクシュアルウェルネス」というフェムテックの一分野に分類されます。
ただ、それを消費者も企業側も十分に理解しないまま、「セルフプレジャー製品もフェムテックなら、女性に関連する商品は何でもフェムテックと呼んでいいのでは?」という拡大解釈も生まれてしまいました。
以降、フェムテックや女性ヘルスケアに関して浅い理解のまま、女性への配慮をアピールするため、あるいは市場の成長性に目を付けて参入した企業が、見当外れなフェムテック商品を売り出したり、キラキラ系インフルエンサーが謎のフェムテック講座を開設したりする、言わば「フェムテックの濫用」が始まってしまいます。
こうした経緯で「フェムテックはうさんくさい」というイメージが形成されるに至った……というのが、フェムテックの成り立ちと発展を踏まえた個人的考察です。
まとめ
以上、「なぜフェムテックはうさんくさいのか?」に関する考察でした。
繰り返しますが、フェムテック・フェムケアという概念自体は素晴らしいものです。
女性特有の健康課題を解決するというのは大事です。そこに異論はありません。
フェムテックは、良い方向に向かえば女性の心身を支えてくれる、まさに我ら産婦人科医と共通の理念を持った商売敵(と書いて友と読む)です。
残念ながら、わけわからん商品を出す商売敵(と書いて尻ぬぐいと読む)が少なくないのが現状でもあるのですが。
Photo:PIXTA
よって読者の皆様には、「フェムテックだから全て信用」「フェムテックだから全てうさんくさい」というイメージを持ちすぎることなく、是々非々で商品・サービスの良し悪しをご判断いただければと思います。
というわけで、素晴らしいフェムテック製品・サービスを見つけた時は「これはテックテクだな」「これはケッアケアだな」と絶賛してあげてください。
あんまり伝わらない気がすることに目をつぶれば問題はありません。
<参考文献>
標葉靖子 日本ソーシャルメディア空間における「フェムテック」表
JETRO「AIで安全なお産をサポートするフェムテック系スタートアップの挑戦」
Unlocking the trillion-dollar female economy | World Economic Forum
経済産業省「令和4年度商取引・サービス環境の適正化に係る事業(当事者参画型開発モデルの発展に向けた調査事業)成果報告書」
















