
パンセクシャルとは?価値観、特徴、背景を解説
近年、「多様な性」という言葉を耳にする機会が増えました。そこにはLGBTQ+と呼ばれる様々なセクシャル・マイノリティの方への配慮や、ジェンダーのあり方についての議論が含まれます。その中で、「パンセクシャル」という言葉に触れたことがある方もいらっしゃるかもしれません。本記事では、パンセクシャルの意味や特徴、そしてカミングアウトやSRHRとの関係性について、できるだけ分かりやすく解説していきます。
※ここではセクシャル、セクシュアルは同一の意味で使用しますが、以下、セクシュアル、と表記します。
SOGI(ソジ)とは?
まず、パンセクシュアルを理解するうえで欠かせないのがSOGI(Sexual Orientation and Gender Identity)という考え方です。日本語では「性的指向と性自認」と訳されます。
crumiiがここで大切にしてほしいのは、これらは「グラデーションである」という意識です。性的指向や性自認はバチっと表で分類できるものではなく、同じ人の間にも世代によって揺らぎがあり、人との出会いによって変わったりもします。この点を念頭において、読み進めていってください。
Sexual Orientation(性的指向)
恋愛感情や性的魅力をどのような性別の相手に抱くか、あるいは抱かないかを表します。例として、ヘテロセクシュアル(異性愛)、ゲイ/レズビアン(同性愛)、バイセクシュアル、パンセクシュアル、アセクシュアルなどがあります。
Gender Identity(性自認)
自分の性別をどのように認識しているかを示します。例えば、男性、女性、ノンバイナリー(男性・女性という二元的な枠組みにあてはまらない/固定されない性自認)などが挙げられます。

SOGIは、その人がどんなセクシュアリティや性別観を持ち、自分自身をどのように理解しているかを広く捉える重要な概念です。これは一部の人だけに当てはまるものではなく、すべての人に存在する要素とされています。国連や公的機関でも広く使われる言葉であり、性の多様性を正しく理解し、お互いを尊重し合う社会づくりに欠かせない視点です。
パンセクシュアルとは?
パンセクシュアル(Pansexual)とは、 SOGIおける「性的指向」の部分で、あらゆる性別・ジェンダーの人に対して恋愛感情や性的魅力を抱く可能性があることを指します。
「pan」はギリシャ語で「すべて」を意味する言葉で、日本語では「全性愛者(ぜんせいあいしゃ)」とも訳されることがあります。例えば、相手が男性か女性か、あるいはノンバイナリーかといった性別の枠組みに囚われず、その人の人間性や魅力そのものに惹かれる、といったイメージです。
ただし、一言にパンセクシュアルと言っても、感じ方や恋愛のしかたは人によって本当に違います。「相手の性別をまったく意識しない」という方もいれば、「相手の性別は意識したうえで、それでも限定されずに好きになれる」と説明する方もいます。

「バイセクシュアル」との違いは?
一見、パンセクシュアルと混同されやすいのが「バイセクシュアル(Bisexual)」です。バイセクシュアルは、男性と女性、あるいは複数の性別を恋愛対象とする性的指向を指します。伝統的には「男性か女性」という二元論的な捉え方に基づいて「両性愛」と説明されることもありました。
しかし、近年はジェンダーの多様化が認識されるようになり、バイセクシュアルを自認する方の中でも「男性・女性に限らず、ノンバイナリーやトランスジェンダーの人も恋愛対象になりうる」と考える人もいます。こうした背景から、パンセクシュアルとの線引きは必ずしも明確ではなく、当人の自己定義によるところも大きいのが現状です。
「アセクシュアル」との違いは?
「アセクシュアル(Asexual)」は、他者に対して恋愛感情や性的欲求をほとんど、またはまったく抱かない性的指向を指します。
パンセクシュアルが性別を問わず恋愛感情を抱き得るのに対し、アセクシュアルは「恋愛・性的欲求を抱かない、または抱いても非常に少ない」という点で異なります。
ただしアセクシュアルの方の中には、「友情や愛情のような感情は持つ」「特定の状況や特定の相手にのみ性的欲求を抱く(グレイセクシュアル・デミセクシュアルなど)」など、多様なグラデーションがあります。
その他の「○○セクシュアル」との違いは?
現代では、多様な性的指向や性自認を表す言葉が増えています。たとえば、以下のようなものがあります。
デミセクシュアル(Demisexual)
強い感情的なつながりができた相手にのみ性的欲求が生まれる。
グレイセクシュアル(Graysexual)
性的欲求をほとんど感じないが、完全に無いわけではない。
ポリセクシュアル(Polysexual)
複数のセクシュアリティが恋愛・性的対象になり得るが、必ずしもすべてではない。
これらの「○○セクシュアル」とパンセクシュアルの違いは「性的欲求や恋愛感情の対象の幅」や「その人がどのように恋愛・性的欲求を抱くか」という部分で異なります。しかし、どれも個人の感覚や生き方、価値観によって、自己定義が大きく関係するため、厳密な境界線を引くことは難しいのも事実です。
パンセクシュアルのカミングアウトについて
自分の性的指向や性自認を公表することを「カミングアウト」といいます。自分がマイノリティであることを告白するとき、または周りの人からされたとき、どのようなことに気をつけておいたら良いでしょうか。
カミングアウトする時は
もしご自身が「パンセクシュアルかもしれない」と感じ、周囲に伝えたいと思ったら、まずは自分の安全と心の準備を大切にしてください。カミングアウトには、以下のようなポイントがあります。
信頼できる相手から伝える
最初は家族や親しい友人など、自分をきちんと理解し受け入れてくれる可能性が高い関係性の人に話すのが良いです。いきなり大勢に公表すると、予想外の反応に傷ついてしまうこともあるからです。「なぜカミングアウトしたいのか」「相手にどんなふうに理解してもらいたいか」など、事前に考えをまとめておくとスムーズに伝えられるでしょう。
カミングアウトをしない選択も尊重する
カミングアウトは義務ではありません。本人がいいたくなければ無理に公表する必要はないですし、他人がカミングアウトしないことを否定する必要もありません。自分の心の安定や生活における状況を優先しましょう。
カミングアウトされた時は
身近な人から「自分はパンセクシュアルなんだ」と突然打ち明けられたら、驚くと思います。ただ、伝えてきたということは、自分を理解をしてほしいという思いの現れ。以下のような対応を心がけてみてください。
相手の勇気に敬意を払う
カミングアウトは本人にとっては想像以上に大きな決断です。「話してくれてありがとう」と伝えるだけでも、相手は安心感を得られるはず。
否定やジャッジはしない
「どっちが本当なの?」「そんなの気のせいじゃない?」といった言葉は、相手を傷つけてしまう可能性があります。パンセクシュアルであることは病気や一時的な誤解ではなく、性的指向の一つ。世界保健機関(WHO)やアメリカ心理学会(APA)、イギリス心理学会(The British Psychological Society)も「性的指向は多様であり、治療の対象ではない」と明確に示しています。
SRHRとパンセクシュアル
crumiiが大切にしているSRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights)とは、「性と生殖に関する健康と権利」を意味する概念です。WHO(世界保健機関)は、すべての人が性的・生殖的健康を享受し、自らの身体や性的活動について主体的に決定できる権利を持つと明言しています。これは性的指向や性自認に関係なく、すべての人に等しく保障されるべきものです。
crumiiとしての見解や関わり方について
私たちcrumiiは、SRHRを推進し、女性の生涯にわたる健康を大切に考えるメディアとして、あらゆる性的指向・性自認を尊重することを基本姿勢としています。
パンセクシュアルをはじめとする多様なセクシュアリティの方が、安心して自分らしく生きるための情報発信やサポートを行うことが重要だと考え、crumiiでは、情報発信を通じて差別や偏見をなくし、一人ひとりに合った適切なヘルスケアへのアクセスができることを目指しています。

まとめ
パンセクシュアルとは、性別やジェンダーを問わず、人の本質的な魅力に惹かれる性的指向です。バイセクシュアルやポリセクシュアルなど、ほかの性的指向と見分けが難しい部分もありますが、最終的には自分自身がどのように感じ、どう自己定義するかに委ねられます。
カミングアウトの際には自分の安全と心の準備を大切にし、信頼できる人や団体に相談することがおすすめです。また、周囲の人からカミングアウトを受けたときには、相手の勇気を尊重し、否定やジャッジをしない姿勢で向き合いましょう。
SRHR(性と生殖に関する健康と権利)は、すべての人が自分の身体や性的活動に関して主体的に決定できる社会を目指す考え方です。
crumiiは、多様な性を尊重し、女性の生涯を通じた健康を支えるメディアとして、これからも情報を発信していきます。
【相談窓口】
性的指向(好きになる性)や性自認(自分の認識する性別)に関してお悩みの方へ
セクシュアルマイノリティ専門ライン
【参考文献】
原田 雅史.セクシュアル・マイノリティとヘテロセクシズム . ジェンダー研究 第8号 2005
米国心理学会 性的マイノリティの人々のための心理学的実践ガイドライン 2021