家庭ではいつから？ 子供にどう伝えたらいい？ 性教育のヒント
皆さんは、「性教育」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか？
性教育とは、性に関する正しい知識と健康的な態度を身につけるための教育全般を指します。日本で性教育というと、中高生に向けた「妊娠や性感染症に関する性行為の教育」というイメージが先行しがちですが、本来は性行為そのものだけでなく、身体の構造や変化、妊娠・出産、避妊、性感染症の予防、人間関係やコミュニケーション、ジェンダー・セクシュアリティなど、内容は多岐にわたります。
近年では、世界保健機関（WHO）や国連教育科学文化機関（UNESCO）などの国際機関が推奨するのは、包括的性教育（Comprehensive Sexuality Education, CSE）であり、これは「生涯を通じて身に付ける性に関する包括的な情報と能力」を指します。子どもから大人まで幅広い年齢に応じて段階的に学ぶことを重視しています。
また、crumiiがとても大切にしている、性と生殖に関する健康と権利（SRHR）という言葉があります。SRHRとは英語の “Sexual and Reproductive Health and Rights” の略で、「自分の身体と生殖に関して、自分の意思を尊重し、健康かつ安全であるための権利」を示します。
性教育は、このSRHRを実現するためにもとても重要な手段の一つでもあります。本記事では、主に家庭における性教育について、解説していきます。
SRHRについては別記事でも詳しく紹介していますので、こちらも参考にどうぞ。
日本における性教育
日本において、性教育は学校教育のなかで保健体育の授業や特別活動などを通して行われています。しかしながら、その内容は学校によってばらつきがあり、必ずしも十分に実施されているとはいいにくい状況です。特に、日本では「性」にまつわる話題をオープンに話すことに抵抗感を抱く文化的背景があり、家庭での性教育も必ずしも活発とは言えないのが現状です。
学校教育の現状
一方、厚生労働省や文部科学省などの行政機関が示すガイドラインでは、発育や発達に応じた適切な性知識の提供が推奨されています。たとえば、2019年度改訂の学習指導要領では、小学校低学年から身体の発達やプライバシーの大切さに触れる学習を行うよう記載されたり、教員に対する研修が行われるなど、少しずつではありますが組み込まれてきています。
全部学校任せはNG。体系的な性教育は大人も受けていない
ただ、性教育のすべてを学校教育だけに依存してしまうのもよくありません。学校へ行く前から知っておくべきことや、相談しにくいプライベートなことについては、最も身近にいる大人が家庭などで教える必要があります。ただ、その教育を担う親世代も、体系的な性教育は受けてきていないため、「子どもにどのタイミングで何を教えればいいのか分からない」という方も多いのが現状です。
その結果、望ましいタイミングで必要な情報を伝えることができず、ジェンダーやコミュニケーションの教育が不足したり、若年層での性感染症の増加や、避妊に関する知識不足、無理解による思いがけない妊娠などが問題となっています。子どもがインターネットなどで不正確な情報に触れてしまうケースも少なくありません。
性についての知識は、幼少期から「教養」として少しずつ伝えていくことが大切なのです。
幼少期〜小学校：男の人と女の人のからだ、プライベートゾーンを理解する
自分のからだは自分のものだ、と理解し、プライバシーを守る感覚を育む
多くの方が「性教育が必要なのは思春期からでは？」と考えがちですが、実は幼少期（おおむね小学校入学前〜小学校低学年頃）から、年齢や発達段階に合わせて少しずつ始めることが望ましいです。
幼少期は、子どもが自分の身体に興味や関心をもち始める時期でもあり、この頃に「身体は大切なものである」「プライバシーは守られるべきである」という感覚を育むことが重要です。
また、幼少期に正しい知識を身につけることで、子どもが自分自身を大切に思い、お友達にも配慮した行動をとる土台ができます。たとえば、「外陰部や胸などはプライベートゾーン（※）だから、人前でむやみに出してはいけない」「嫌なことをされたら断っていい、助けを求めていい」といった感覚を自然に身につけることで、性被害やトラブルを未然に防ぐことにもつながります。子どもが怪しいと思ったときにすぐに周囲の大人に相談できるよう、「困ったことがあったら必ず話してね」と声をかける姿勢を示すことも重要です。
さらに、「見せて、触らせて」といわれたり、触られて嫌だったりしたら「NO」「GO」「TELL」の合言葉を覚えておくように伝えましょう。
| ①NO『いや！やめて！という』 ②GO『その場から逃げる、離れる』 ③TELL『信頼できる大人に話す、相談する』（内緒だよ、と言われても話す） |
（※プライベートゾーン：下着で覆われている部分や、それに近い周辺を指し、性的なプライバシーを守るために大切な領域です）
子どもが身体に興味をもち始める頃、あるいは生活のなかで自然に疑問を持ったタイミングで包括的性教育を始めるのがおすすめです。たとえば、「赤ちゃんはどうやって生まれるの？」「男の子と女の子の身体はどう違うの？」という問いが出たときが、一つのスタートの合図になります。
無理に話を切り出す必要はありませんが、子どもの疑問に対しては曖昧な回答ではなく、年齢に合ったわかりやすい表現で応じることが大切です。もし親御さん自身が不安に感じる場合は、子ども向けの絵本やカードなどもうまく活用すると良いでしょう。
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恥ずかしい、いけないことだ、という態度や、踏み込みすぎはNG
幼少期における性教育で大切なのは、子どもの純粋な興味に寄り添うこと、過度な性的表現を避けることのバランスです。あまりに詳細な性交の話や、刺激の強い映像などは子どもの年齢にふさわしくありません。
一方で、「そんなこと聞いちゃダメ」「恥ずかしいからやめなさい」というように、子どもの疑問を否定してしまうと、性について隠すべきもの、後ろめたいものだと捉えてしまいます。親子の信頼関係を育む意味でも、適切な距離感をもって率直に答える姿勢が大切です。
また、小学校低学年くらいまでの時期に、男女のからだの違いや、性器の正しい洗い方などの知識を身につけておきましょう。プライベートゾーンは自分で洗うようにし、男の子は包皮を引いてやさしく洗う、女の子の場合はトイレでは後ろに向かって拭き取るなど、衛生面での正しい処置の仕方を教えておきます。
一方で、汚いというイメージを植えつけすぎないように、性器を汚いものであると言わないようにしましょう。大事な部分だからこそケアが必要だと伝えましょう。
女らしさ、男らしさに決まりはないことを伝える
まずは大人が、「男の子だから」、「女の子だから」といった価値観にとらわれないように気をつけましょう。性別には、からだの性（身体的な性別）、こころの性（自認している性）、好きになる性（どの性別の人を好きになるか）、ふるまう性（服装や仕草などで表現するふるまい）の4つがあり、性別にはグラデーションがあること、見た目や好みにも多様性があることを伝えます。
この前提を共有しておくことで、自分が「普通じゃないのかも？」と一人で悩むことを防ぐことができます。
性的同意について伝える
自分の体のどこを、いつ、誰に触られても良いかを決めるのは自分です。手をつないだり、ほっぺにキスをしたり、好きな人と近づきたい、触れ合いたいという気持ちはとても素敵なことですが、嫌な時には、NOといっていいのです。嫌よ嫌よも好きのうち、という汚名高い言葉がありますが、これは性的な映像や動画、小説やマンガなど、コンテンツの演出におけるフィクションです。嫌よ嫌よは、明確に嫌なのだという理解が必要です。
相手がいいよ、と言ってはじめて、同意が成立することを伝えます。お互いを思い合う関係であれば、断ったとしても関係が悪化することはありません。
性的なふれ合いについては、さっきまでは良かったけど、今は嫌になった、ということも十分にありえます。二人きりでホテルに入った後でも、性的な行為をしたくなくなることはありえます。これは、紅茶を飲むことを例にして性的同意のことを教えてくれる有名な動画です。わかりやすいのでぜひ見てください。
この日本語の吹替版は、函館性暴力防止対策協議会が作成したものです。北海道警察函館方面本部生活安全課より許可を得て転載しております。
思春期：生理・射精についての具体的な知識、避妊法や性感染症予防を学ぶ
思春期（おおむね小学校高学年〜高校生頃）は、身体の成長が進み、ホルモンバランスの変化により心身ともに不安定になりがちな時期です。この時期には、女子の場合、胸の膨らみや月経の開始、男子は射精、夢精の経験など、自分自身の身体にも変化が起こり、本人も戸惑いがちです。正しい知識がない状態で思春期を迎えると、「自分の身体の変化が普通なのか分からない」「どう対処していいか分からない」といった不安を抱えてしまいます。
また、思春期は性的関心や欲求が高まる時期。避妊の知識や性感染症の予防法を適切に学ばないまま性行為をすると、大きなリスクを伴います。
したがって、思春期における性教育は、将来の健康や人生設計にも大きく影響する重要なステップなのです。
生理・射精について伝えること
思春期の子どもたちに対する性教育は、学校教育のなかでは小学校高学年から中学校にかけて学ぶことが多いです。（実際に、理科の授業などでは、お母さんのお腹の中の赤ちゃんの大きさなどを学ぶ授業があります）保護者の立場では、子どもが初経や初めての射精を経験する前に、ある程度の知識を事前に伝えておくことが本人の安心感につながります。
自分の体が成長すると、生理や射精が起こること、それが妊娠できる（させられる）体になったサインであること、始まりの時期には個人差があることも合わせて伝えておきましょう。
生理や射精、そして妊娠については、生物学的な事実として科学的に伝えましょう。「どうして生理が起きるのか」「射精とは何か」「妊娠とはどのようなものか」といった仕組みを、説明することが大切です。たとえば、「生理とは妊娠に備えて子宮内膜が厚くなり、妊娠しなかった場合に剥がれて血液と一緒に排出される」プロセスであることや「射精は精子を含む精液が体外に排出されるしくみ」であることを伝えます。そして、精子と卵子が受精した場合に妊娠することを伝えます。この時、精子と卵子がどのようにして出会うのかについては、聞かれなければ伝えなくても構いません。
可能なら、経験談や失敗談などを踏まえながら、同性の親などから伝えるのが望ましいでしょう。
このとき、赤ちゃんを授かる仕組みを学ぶことで、性交によって妊娠が起こることや、避妊方法を自然に理解しやすくなります。月経や射精は「恥ずかしいこと」「隠すべきこと」と捉えられがちですが、本来は生殖につながる身体の正常な働きであるため、罪悪感を感じることのないように伝えるのが大事です。
また、初経や初めての射精を迎えたときに困らないよう、生理用品の使い方などの対処方法については事前にどこかのタイミングで説明しておき、いざ本番を迎えた時には落ち着いて教えられるよう、親子で話ができる環境を整えておきましょう。
初経や射精を迎えたときには、洗濯物などの対処について、マナーも含めて話し合っておきます。下着に精液や経血がついてしまったら、最低限の汚れは落としてからお洗濯カゴに入れておこうね、生理用品は丸めてパッケージにくるみ、トイレに流さずに捨てようね、といった家庭内ルールを作っておくとよいでしょう。
また、生理がつらかったり、性器についてのトラブルがあったりした場合には、産婦人科や泌尿器科など、適切な医療機関にお子さまを連れて行ってあげることも、周りの大人の大切な役割です。
生理に関しては、別記事でも詳しく解説しています。
思春期の子供に性的なことを伝える際の注意点
思春期は、プライバシーが気になる時期ですので、親から子どもにむやみに踏み込みすぎると、逆にコミュニケーションが閉ざされてしまうことがあります。子どものプライバシーを尊重しつつ「もし困ったことや心配なことがあれば、いつでも聞いてね」というスタンスで安心感を与えておくことが大切です。
また、避妊や性感染症の予防など、実際に将来の性行為に直結する話題については、できる限り正確な知識を伝えることが必要です。「恥ずかしいから」という理由で曖昧な回答をしたり、話題を避けたりしていると、子どもが不正確な情報をSNSや友人間の噂などから得てしまうリスクもあります。
もちろん、大人とはいえ照れや恥ずかしさがあるかもしれませんが、未来のお子さんやそのパートナーのために、正しい知識を教えてあげましょう。
避妊法や性感染症予防、セックスについて伝えること
セックスをする大前提として、パートナーと健全な関係であることはとても重要です。パートナーときちんと話し合い、お互いの希望を伝えましょう。自分のからだは自分のもので、さらに相手のからだも相手のものだ、という認識をしたうえで、自分は、相手はお互いにどう思っているか、したいのか、したくないのかを尊重する姿勢が必要です。
そして、性感染症の予防と避妊も大事です。コンドームは性感染症の確率を下げるために有効です。必ず使う様にしましょう。しかし、コンドーム単独では妊娠する確率がそこそこあるので、避妊に対しては低用量ピルを内服することをお勧めします。
また、性行為によって妊娠する可能性があることを自覚することも大切です。日本で主流となっている男性用コンドームを使用した避妊の年間妊娠率は2-18％、腟外射精では4-22％、排卵日付近を避けていわゆる安全日にセックスするリズム法では9-25％程度とされており、絶対に妊娠できない時期に安心して使える方法ではありません。一方で低用量ピルは年間の妊娠率が0.3％と非常に低くなっています。
セックスへの興味が増すのは自然なことですが、その上で、妊娠という責任とリスクが伴う行為であるということ、お互いに責任が持てる関係かどうかを、改めて確認しておく必要があります。
女の子は生理痛対策として低用量ピルを服用しておくと、望まない妊娠を避ける効果も期待できます。感染症予防としてコンドームを併用し、かつ、低用量ピルを服用しておけば、コンドームが外れたり破れたりした場合でも安心です。低用量ピルを飲んでない場合に、万が一避妊に失敗したときは「緊急避妊薬」という手段があるということを伝えておきます。ただし、緊急避妊薬での妊娠率は結構高いので、あくまで緊急時にのみ使う薬だと知っておきましょう。
若すぎる出産もリスクであり、性行為をしないことは様々なリスクを避けること、また性的なふれ合いはセックスに限らず様々な段階があることなどを理解すると、子どもたちもそれを行動にうつしてくれます。
実際に、禁欲的な性教育に比べて、包括的な性教育を受けた若者には、性行為の開始を遅らせたり、性行為の頻度を減らしたり、性的パートナーの数を減らすなどの行動の変化がみられたとの様々な報告があります。
男女で性教育の区別はあるの？
よく「男の子にはコンドームの使い方だけを教えればいい」「女の子には生理について教えればいい」といったイメージを持たれることがあります。
しかし、男女ともに生理や射精の仕組み、避妊と妊娠のプロセス、性感染症の予防などは共通して学ぶべきです。自分と異なる性の身体を知り、お互いを思いやり尊重できるようになることは、これからの社会を生きるうえで大切な要素になるからです。
さらに、ジェンダーや性的指向など、多様な性のあり方を学ぶことも必要です。「男性はこう、女性はこう」と固定的に決めつけるのではなく、人にはさまざまな性のあり方があることを伝え、それぞれが自分の身体や心を大切にできる環境を作っていくことが大切です。
また、性器の洗い方や、お互いにリスクのある病気のことなど、異性のパートナーを理解する上で、また将来自分の子供に伝えるうえで、必要になってくる知識でもあるのです。
crumiiにとっての性教育
crumiiは、生涯を通じて女性の健康や性に関わる情報を正しく、やさしく提供するメディアを目指しています。どの世代の方にとっても、性に関する正しい知識を持っておくことは、自分自身を守り、将来の選択肢を広げるうえで欠かせません。
日本では依然として性教育に対するハードルが高い現状があり、学校や家庭のなかでも扱いづらいテーマとしてタブー視されがちです。
私たちcrumiiは、「性は決して恥ずかしいものではない」「正しい知識をもつことで心身の健康が守られる」という思いから、できるだけ難しすぎない情報発信を行い、皆さんの悩みや疑問に寄り添いたいと考えています。
【参考文献】
改訂版 国際セクシュアリティ教育ガイダンス ユネスコ編 明石書店,2024
おうち性教育はじめます フクチマミ,村瀬幸浩著
性とからだとこころを知るカード felissimo
厚生労働省 ヘルスケアラボ
プレコンセプションケア 荒田尚子,水戸麻子,岡﨑有香,メジカルビュー社,2024
