
女性のための防災ガイド 後編|自分を守る備えとは?いざという時のための防災グッズ
災害時、自宅や避難所で安心して避難生活を送るために。
前編では、女性が避難生活で直面しやすい困りごとや健康リスクについてお伝えしました。今回はそれを踏まえ、「では具体的に何を備えておけばいいのか?」という視点から、女性のための防災グッズを解説していきます。
バッテリーや食料、水といった、よくある定番の備蓄はいったん省いて、防災グッズにプラスして備えておきたい女性ならではのものを解説します。
「もしも」の時、他人に頼らず自分が安心できるものを確保しておくことは、生き抜くための力になります。日常にも取り入れられる備えから、少しずつ始めてみましょう。
防災アイテムは「自分仕様」にカスタマイズしよう
防災アイテムというと水や非常食ばかりに目が行きがちですが、実際の避難生活では「地味な不快」を減らすことがストレス軽減につながります。
非常持ち出し袋は、一般的に「防災マニュアル」に書かれた中身を参考にして用意する人が多いと思いますが、女性には、女性特有のニーズがありますので、それだけでは不十分なこともあります。今回は、普通の防災グッズにプラスしておきたい、女性ならではの困りごとを解消するために備えたいものを以下にピックアップしてみました。リュックの中身を女性目線で見直し、必要があれば追加してみましょう。
女性におすすめしたい防災グッズ
ワセリン
保湿の王道、ワセリン。乾燥による唇や手指、デリケートゾーンの乾燥や肌荒れの予防に。また、衣類の擦れによる炎症や、小さな傷の保護にも使えるため、1本あると色々な用途に活用できて便利です。
アイマスク
避難所では安全のために照明が一晩中点灯していることも多く、睡眠環境が整わないことが少なくありません。アイマスクを使用することで睡眠の質を保ち、精神的な安定にもつながります。
好きな香りのハンドクリーム、リップクリーム
乾燥対策としての保湿はもちろん、慣れ親しんだ香りが心を落ち着けてくれる効果があります。災害時のストレス軽減にも寄与するセルフケア用品のひとつです。
デリケートゾーン用ワイプ、おしりふき
外陰部の清潔は意外と大切です。おしりふきがあると、入浴が困難な状況下でもデリケートゾーンの清潔を保つことができ、かゆみやにおい、感染症の予防につながります。
ドライシャンプー
髪を洗えない状況でも、頭皮のベタつきや不快感を軽減することができます。心身のリフレッシュや気分転換にもつながり、避難所生活のストレスを和らげるアイテムです。
黒いビニール袋(中身が見えないゴミ袋)
避難所や自宅で出た使用済みの生理用品や、汚れた下着などの処理に適しており、内容物が透けないことでプライバシーを守ることができます。
生理用品(ナプキン、タンポン等)
災害時には支給が不十分だったり、サイズ・種類が合わないといった問題が生じやすくなります。(夜用やパンツタイプが欲しいのにない、普通サイズだと漏れてしまう、など)使い慣れたものを準備しておくことで、安心して過ごすことができます。
おりものシート
ナプキンよりもかさばらず、軽い出血の時に利用できるほか、避難所では下着を頻繁に替えたり洗濯することが難しくなるため、デリケートゾーンの衛生状態を保つのにも役立ちます。汗やムレなどによる不快感を軽減する効果もあります。
サニタリーショーツ、吸水ショーツ
経血のモレを防止する機能性のショーツ。サニタリーショーツは撥水性で経血の汚れが落ちやすく加工されています。一方、吸水ショーツは経血を吸収する素材のため、ナプキンなしで履いても漏れません。洗って乾かせば何度も使えるため、水が十分あり洗濯ができる環境においては有用です。
黒などの経血が目立ちにくいボトムス
ナプキンのストックを十分したつもりでも、非難生活が長引いてストックが切れたり、姿勢のせいで伝い漏れしてしまったりといったこともあります。黒や濃いえんじ色など、経血の漏れが目立たない色の衣類を用意しておくと、経血だけでなく、汚れも目立ちにくいのでおすすめです。
ホイッスル、防犯ブザーなど
照明の少ない夜間や人の目が届きにくい仮設トイレ周辺などで、性暴力や痴漢、盗難といった犯罪が起きるリスクが残念ながらあります。実際、東日本大震災や熊本地震でもこうした被害が報告されています。
防犯ブザーやホイッスルがあれば、万が一の時に助けを求めるのに役立つほか、災害時にがれきの下など身の危険が生じて声がでなくなってしまった時などにも役立つことがあります。
ここまでに挙げた防災グッズ、あなたは防災バッグの中にどのくらい入れていますか?
防災にハンドクリームやリップなんているの?と疑問に思った方もいるかもしれません。
こういった「命に直結しないのでは」と後回しにされがちですが、避難や自宅での不便が長期化してくると、普段通りに近い行動ができることはアイデンティティにも直結し、自分らしい生活の質を保つために欠かせないものです。お気に入りのおやつでもいいし、お守り代わりに入れておく推しのアクスタでも構いません。
「心の安定」も防災の一部と考え、「自分のご機嫌をとれるもの」をひとつは入れておくことをおすすめします。
防災アイテムは季節やライフスタイルに合わせて定期的にアップデートを
非常袋の中身は、一度準備したら終わりではなく、生活の変化や季節ごとに見直すのがおすすめです。備蓄食料品の賞味期限をチェックして入れ替えたり、乾いてスカスカになってしまったウェットシートを差し替えたり、季節ごとに必要な対策品(寒さ、暑さ)を入れ替えたりといった感じです。
・冬:カイロ、手袋、毛布など(冷え対策)
・夏:冷却シート、ミネラル補給の塩分タブレットなど(熱中症対策)
・小さなお子さんがいる場合:オムツ、ミルク、哺乳瓶、おもちゃなど
また、家族構成やライフスタイルが変われば、内容は変わります。持病のある人はお薬手帳のコピーなどを、アレルギーのある人はアレルゲンを避けるための食材カード等、人に伝えるための準備もしておくとよいでしょう。
日常のちょっとした習慣や意識が有事の安心に
ここまで、女性ならではの防災グッズを解説してきましたが、、「いざという時にどう動くか」「誰と、どう連絡を取るか」といった行動や意識の備えも大切です。
よりによって大切な時に、スマホの電池が切れてしまった、電車が止まっていて帰れない、ライフラインが寸断されて電話が通じないなど、家族の安否が確認できなかったり、自分の居場所や安否を知らせられない状況はありえます。
先にちょっと話しておくだけで、災害時の不安や混乱を減らすことができます。今日から始められるちょっとした備えをご紹介します。どれも小さな工夫ですが、有事の際に大きな安心につながるはずです。
「連絡がとれなかったらどうする?」を家族で考えておく
防災というと水や食料といったモノの備えに注目しがちですが、「避難行動の計画や連絡手段」を事前に家族で共有しておくことも防災行動のひとつです。それだけで、家族や大切な人と再会できる可能性を高めたり、被災していない遠方の家族が安心したりできます。
あらかじめ、自宅付近・職場付近などの「〇〇避難所に集合」と決めておく。移動が難しい場合は「無理に動かず待機」も選択肢に。
・「〇時間たっても連絡が取れなければ、ここに向かう」など、状況に応じた「待つ」「動く」の判断ルールを作っておく
・災害用伝言ダイヤル「171」、LINE・家族共有アプリ(Life360 など)を使って、共通の連絡手段・手順を決めておく
SNSに頼りすぎず、正しい情報を集める
近年、災害時の情報収集手段としてSNSが多く活用されていますが、フェイクニュースや誤情報も少なくありません。流言飛語に踊らされると、必要な支援を受けるチャンスを逃したり、余計な不安に駆られたりすることもあります。以下のような情報源を備えておくのがおすすめです。
・NHKや気象庁などの公的アカウントのフォロー
・地元自治体の防災情報メール登録
・電池式の携帯ラジオ・予備の乾電池の準備
SNSはあくまでも補助的な情報源として、信頼できる公的機関の情報を優先するように心がけましょう。
「いつも使ってるものを1個多く」ローリングストック術
いざ災害が起きたとき、「家にとりあえず数日しのげるものがある」「いつも通りのものが手元にある」が大きく影響してきます。そこでおすすめなのが、ローリングストック。これは、日常的に使っている消耗品を常に1つ多めにストックする備え方です。
非常食や非常用の日用品を特別に用意するのではなく、普段から使っているものをちょっと多めに買っておき、消費しながら備蓄するのがポイントで、いざという時にも普段通りのものを使用できて安心できる、期限切れを起こしたりしないように管理しやすいといったメリットがあります。
たとえば、
・生理用品:最後の1袋を使い終わる前に新しいものを購入する
・洗顔料・歯磨き:使用中+予備を1本キープしておく
・レトルト食品や缶詰:賞味期限を確認しつつ定期的に入れ替え、古いものは消費
・飲料水:2L×数本を常備しておき、使用と補充を繰り返す
特別な保管場所を用意しなくても、日常の収納の中でできる点がこの方法の大きなメリットです。

まとめ|今日からできる防災行動
大地震や集中豪雨といった災害は、平日の日中にも、真夜中にも、なんの前触れもなく起こります。実際、2011年の東日本大震災では、発災時に職場や学校にいた人々の多くが、家族とも連絡が取れず不安を抱えながら夜を明かしました。
その課題は家族構成にもよりますが、多くの女性にとって、ライフラインが止まった状況を自力でしのぐには、事前の準備が不可欠です。
「防災」というと、大きな非常袋を用意したり、防災士のような専門知識が必要だと思われがちです。しかし実際には、すぐに始められる小さな備えが、いざという時に大きな差を生みます。たとえば、通勤バッグにマスクや生理用品を入れておく。トイレットペーパーやお水のストックを切らさないようにする。それだけでも十分な「命を守る行動」といえます。
発災直後の混乱を生き延びるために、平時の今こそ、準備をしておくことが大切です。
【参考文献】
災害時の母子保健サービスに関する調査研究 厚生労働省
授乳・離乳の支援ガイド 厚生労働省
災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン~
災害ストレスと疾患 日本産婦人科医会HP
防火・防災管理の知識 東京防災救急協会