
crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #25
子供への性的虐待事件で懲役10年は短かすぎる?
今回のニュースウォッチでは非常に深刻なこちらのニュースを取り上げます。
「10歳から継続的に・・・」19歳養子の長女は望まぬ2度の妊娠と出産も 長女と14歳実子の次女への性的虐待事件 50代の父親に懲役10年【判決詳報】(TBS NEWS DIG)
養女である長女(当時19歳)に対する「準強制性交等罪」、およびに実子である次女(当時14歳)に対する「監護者わいせつ罪」の2件について、50代の父親が懲役10年の判決を言い渡されたというものです。検察側の求刑10年に対し、10年の判決が下ったそうです。こちらに対し、
反吐が出る性暴力だが、これで懲役10年て。人の人生めちゃくちゃにして、流石に軽すぎる。
— 宋美玄🐰子宮体がん検診は実は不要です (@mihyonsong) August 9, 2025
「10歳から継続的に・・・」19歳養子の長女は望まぬ2度の妊娠と出産も 長女と14歳実子の次女への性的虐待事件 50代父親に懲役10年 https://t.co/H6L0VIFbhV
このようにXで投稿したところ、ほとんどのコメントが私の感想と同様「懲役10年は軽すぎる」というものでした。男性が女性に性加害をしたニュースでは、SNS上で男性と女性で見解が分かれ、バトルになることも多いですが、流石に今回の報道で父親側を擁護する意見は見かけませんでした。
被害の深刻さと「量刑が軽すぎる」という批判
報道によれば、
「長女は父親と性交したくないという気持ちを持っていたものの、そのような態度を見せれば父親の機嫌が悪くなり、長女自身や同居の家族が暴力を振るわれたり『捨てるよ』などと脅されたりすることから、抵抗することを諦めていた。」
とのことで、端的に「父親は」クズ以下の男であると思います。
また、
「長女が子を連れて家を出た後、児童相談所によって一時保護されていた次女が帰ってきた夜に行われた犯行である点について『親としての責任を顧みない犯行」と指摘した。」
ともあり、長期にわたる支配・継続的虐待、性的行為の頻度(週3~4回)、妊娠・中絶・出産といった深刻な結果、実子と養女という二人への被害、児童相談所による一時保護後の再犯などの点については、より重い罪に問われる要素となるのではと思われます。
準強制性交等罪(2021年10月当時)については、法定刑が懲役5年以上20年以下と定められています。監護者わいせつ罪については、懲役6か月以上10年以下となります。複数の罪を併せて裁く場合は、最も重い罪の上限刑期にその2分の1を加えることができるとのことで、理論上は最長で懲役30年まで可能です。
にもかかわらず、本件では求刑自体が懲役10年にとどまり、裁判所もこれをそのまま認めています。検察側の求刑がどのような根拠で行われているのかはわかりませんが、法曹界の方達に聞いたところ過去の判例などから決まっているとのことでした。(つまり、過去の同様の事件でもこの程度の量刑なのだと思われます)
参考までに日本での他の犯罪で「懲役10年」となった事件を調べてみました
・危険運転致死傷(飲酒ひき逃げ):ハイボールなど8杯という大量の飲酒で運転に支障が出る恐れがある中運転し、2人死亡・2人重傷の事故をおこしひき逃げをしたとして大阪地裁堺支部が懲役10年の判決(2023年10月2日)。
・強盗致傷・広域強盗(指示役):高齢女性宅への強盗事件で仙台地裁が懲役10年を言い渡しました。(2024年8月8日)
・特殊詐欺(国際ロマンス詐欺の主犯格):日本人男女30人から総額1.1億円を騙し取ったとして詐欺罪などに問われたグループの主犯格に対し、大阪地裁が懲役10年・罰金200万円の判決。(2023年12月7日)
・覚醒剤大量密輸(約600kg):覚醒剤約597キロ(末端価格約417億円)を密輸しようとしたとして那覇地裁が台湾籍被告らに懲役10年・各罰金500万円を言い渡しました(2017年11月9日)。
・殺人未遂(元交際相手への執拗な刺傷):ストーカー規制法に基づく禁止命令を受けていたにも関わらず、元交際相手の女性を待ち伏せし、首などを刃物で複数回刺して殺害しようとしたとして、福岡地裁が2023年12月1日に懲役10年との判決。(2023年5月12日)
・銃刀法違反・発砲(暴力団関係):神戸山口組組長宅へ拳銃で17発を発射し、扉を壊すなどしたとして、銃刀法違反や建造物損壊などの罪で神戸地裁が懲役10年の判決(2023年5月12日)。
(集めてみたものの罪の種類が違いすぎて比べられないので、参考までとしてノーコメント)
海外との比較 近親姦や児童レイプの量刑の“厳格さ”の違い
アメリカでは、児童への加重性的暴行では、終身刑または最低30年の禁錮とされていて、近親姦を伴った性的暴行は州によっては最高で終身刑または死刑まで科されるところもあるそうです。
イギリスでは、児童への性的犯罪、特に13歳未満に対する性的虐待や強姦は最高で終身刑が規定されています 。
制度的には、日本も2023年の改正で「不同意性交等罪」などが導入され、性交同意年齢を16歳未満に引き上げるなど、制度としては厳格化してきています。ですが、他の先進国と比べるとまだまだ甘いようです。
韓国における制度変化と世論の力
先月、海外のSRHRの啓発・普及の取り組みについて学ぶために、韓国に視察に行った際に聞いたのですが、韓国ではもともと家父長制が強く純潔教育が行われていたのだけれども、数々の世論を動かす事件によって、ジェンダー教育が進められるようになったそうです。
その一部として、
「キム・ボウン/キム・ジングァン事件」(1992年):9歳から義父に性的虐待を受けた女性が、恋人と共に義父を殺害した事件。この事件は、家族内性犯罪をめぐる社会議論を喚起し、性教育やジェンダー教育の強化のきっかけとなったそうです。
「n番部屋事件(2018–2020年)」:テレグラム上での組織的オンライン性搾取事件。未成年者を含む被害者への暴力、脅迫、個人情報晒しまで行われた事案に対し、国民的な反発が広がりました。結果として、2020年に“n番部屋防止法”が成立し、所持・購入・視聴まで処罰、プラットフォーム責任を強化、同意年齢を16歳に引き上げ、デジタル性犯罪の量刑ガイドライン整備も進みました。
これらは、世論によって性を取り巻く環境整備が推進される例です。日本でも世論が高まることで法律がさらに改正されていくなど、悪質な性犯罪に対してより厳しく罰することができるかもしれません。

一人一人が声を上げることが大切
今回報道された事件は、家庭内で最も保護されるべき立場にある子どもたちに対して父親が繰り返し性的暴力を行っていたというものです。残念ながら同様の事件の報道は何度も繰り返されています。妊娠・中絶・出産なども含め、被害者の心身へ与えた影響は甚大です。個人的な意見になりますが、10年という懲役期間でここまで悪質な性犯罪者が更生するのか疑問であるし、被害者保護の視点からも、不十分に感じられます。
韓国のように、痛ましい事件が公の議論を促し、制度改正へとつながった例は少なくありません。(日本でも、尊属殺重罰規定違憲判決の例がありますね)
性犯罪の判決報道で「軽い」という声が上がると、「法律でそう決まっているから」という反論がよく見られ、それもその通りなのですが、法律もアップデートしていくものなので、無力と思わずに声を上げていくことも大切だと思います。
またこちらでも性暴力について取り上げていきたいと思います。