ジョイセフ ガーナ 視察 教育

crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #30

《ガーナ視察記》若年妊娠を減らし、一人一人がからだの自己決定権を行使するために本当に必要な支援とは

【ジョイセフコラボ企画 第3回】

crumiiでは、SRHR実現のために国内外でさまざまな取り組みをされている国際協力NGOジョイセフとコラボレーションし、日本や世界にあるSRHRの課題と支援や啓発などの活動について、ニュースピックアップの枠でお伝えしています。
第3回は、crumii編集長の宋美玄が、ジョイセフとガーナで視察した若年妊娠を減らすプロジェクトの最終回です。

ジョイセフ ガーナ 視察
(写真提供:宋美玄)

若年妊娠とその背景にある構造的な問題

ガーナの中でも若年妊娠が特に多いアッパー・マニャ・クロボという地域で、国際協力NGOジョイセフのさまざまなプロジェクトを視察してきましたが、若年妊娠に至る背景には構造的な問題があり、自己責任論や知識不足のせいとして捉えていては、なくすことができないと感じました。私たちは、問題の本質に関わるプロジェクトについても視察しました。

最大の原因として、貧困があります。家計を支えるために早くから働かざるを得なかったり、十分に教育を受けられない子どもたちが多くいます。訪れた地域は、ガーナではあるけれどカカオも育たない土地で、あまり産業がなく、働き口が限られていることも大きな要因でした。(稼げる仕事がオカダというバイクの運転手くらいで、小金を持ったオカダドライバーに性を搾取されている少女も少なくないとのことでした。)
経済的に行き詰まった家庭では、10代の娘が夜遅くまで家に帰ってこなくても、「ああ、どこかでお金を稼いでいるのだな」と思ってむしろ肯定的に売春的な行為を容認しているところもあるということでした。得られるお金はカップラーメンひとつが買える程度のお金ですが、それでも家計の足しになると思う親がいるとのことです。

そして、教育が行き届いていないことも大きな要因でした。その地域は首都アクラから車で2〜3時間かかる場所なのですが、不便な暮らしをしている地域であるため、教師や医療従事者がなかなか定着してくれないのだそうです。日本でも地域によっては教育や医療のインフラ維持が問題になっていますが、ガーナでもいわゆるエリート職の人たちは都市部に住みたい傾向があるそうです。そのため、教員が不足して子どもが就学が継続できないケースもあり、高等教育を終えなければ就職も限定されてしまうため、教育というインフラが不足しているために貧困から抜け出せないということも大いにあるようです。

そういった背景もある中で、若年妊娠に至った少女は、学校に通えなくなったり、就業も不利になったりして、さらなる困窮に追い込まれてしまいます。そして貧困や教育機会の不足、若年妊娠が世代間連鎖することは想像に難くありません。
そのために性教育を充実させ、避妊法や中絶へのアクセスを改善することは大切です。しかし同時に、根本にある構造的な背景を変える必要があります。

若者たちを自立させるためのジョイセフの取り組み

そして、私たちはジョイセフが行っている若い女性たちに対するプロジェクトを視察しました。若者たちが手に職をつけて経済的に自立できるようにすることに重点が置かれていました。

女性にはミシンを使って縫製技術を学ぶプロジェクトで、手に職をつけるために若い女性たちが日々鍛錬されていました(マタニティウェアやお受験ファッションで有名なVIRINAさんの寄付で行われています)。

ジョイセフ ガーナ 視察 教育
(写真提供:宋美玄)


私も、滞在中にスカートを注文しました。しっかりした縫製で、洗濯にも強く、日本でも時々着用しています。

ジョイセフ ガーナ 視察 教育 洋裁
(写真提供:宋美玄)

今後は、若い女性だけではなく、若い男性向けにも、溶接工や仕立てなどの技能を親方から学べるプログラムを行う予定だそうです。親方のような人から学ぶことで、技術だけでなく人生経験も含めて大人になるために必要な教わることができるというものです。

現地を視察して感じたのは、若年妊娠を防ぐためには、性教育の普及だけでなく、貧困や教育の不足、産業がないといった構造的な課題を少しでも解決に向けていく必要があるということです。
これらのことはそれほど意外ではない事実かもしれませんが、現地で実際に見て、それぞれの立場の方の話を直接聞くということは非常に大きな経験であり、生きた学びとなりました。

日本の現状と重ねて

若年妊娠の問題は遠い国の話ではありません。日本でも妊娠や出産を「自己責任」と考える人もまだまだ多いです。ガーナでの取り組みから学べるのは、背景にある社会的・経済的な要因によって自分の体の妊娠という出来事に人生を振り回される人たちがいるということ、一人一人のからだの自己決定権、SRHR(性と生殖の健康と権利、セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)実現のためには、性教育の充実や避妊法のアクセス改善だけでは足りないということです。(もちろんそれらは絶対に必要です)
からだの自己決定権を行使するためには、一人ひとりが人生そのものを主体的に生きていくための教育や産業などのエコシステムが必要だと感じました。

日本でも日々SRHRのプロバイダーとして、粛々と毎日診療に勤しんでいますが、ガーナでのプロジェクトにも継続的に関わっていきたいです。(crumiiの活動も何らかの形でジョイセフへの寄付につなげたいと考えています)

おまけ ガーナの薬局でアフターピルとピルを買ってみた

ちなみに、ガーナでは薬局のようなところでアフターピルやピルを買うことができます。これらはビルゲイツ財団などからお金が出ているため、日本に比べてかなり安価で手に入れることができます。

ピルは日本で2000~3000円するものと同じものが約50円、アフターピルも同じ価格でした。また、長期作用型の避妊法、インジェクション(注射)も保健センターで受けることができます。日本でも若者のアクセスがもっと良くなるといいなと思いました。

 

ジョイセフ ガーナ 視察 ピル 避妊
(写真提供:宋美玄)

 

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宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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