ピル 誤解 真偽

crumii編集長・宋美玄の炎上ウォッチ #14

SNSで拡散されるさまざまなピル情報 ウソ・ほんと?

ここ数年で、「ピル」についての話題をインターネットで見かけることが多くなったという人は多いのではないでしょうか。「飲んでいるよ」という人や、周りに飲んでいる人がいるという人も増えてきていると思います。
SNSで、ピルについての情報や体験談がバズっているのを時々見かけるのですが、中には「それはちょっと不正確かも」というものもあるので、SNSで拡散されるピル情報の真偽についてまとめてみました。

ピル 誤解 PMS
photo: PIXTA

(1) ピルは35歳以上になると処方できない→×

低用量ピルには血栓症という副作用があり、年齢が高くなるほどリスクが高まります。そのため、「35歳以上になると処方できない」という情報がバズっているのをみました。
ですが、ガイドライン上は40歳以上が慎重投与とされており、原則新規の処方はしないことになっています。ですが、35歳以上になると処方できないということはなく、こちらは誤りです。

(2) ピルは40歳以上になると飲んではいけない→×

低用量ピルの副作用である血栓症は、飲み始めて間もない頃の方がリスクが高くなっています。飲み始めてしばらくは内因性の(自分の体から出ている)エストロゲンがそれなりにあるため、ピルを内服するとエストロゲンの総量が多くなるためと考えられています。続けて飲んでいると内因性のエストロゲンの量はとても少なくなり、血栓症のリスクは相対的に下がっていきます。
そのため、(1)に書いたとおり40歳以上で飲み始めるのは勧められていませんが、すでに飲んでいたものを40歳になったらすぐにやめないといけないということではありません。処方医によりますが、40代前半のどこかで安全性の高い黄体ホルモンだけのピル(詳しくはこちら)に切り替えていくことが多いです。
SNSでは40歳になってピルを処方できないと言われ、代替案も出されなかったという声を時々見かけますが、おそらく処方医がアップデートできていないのではと思われ、同業として心苦しくなります。50代まで使える避妊薬、月経困難症治療薬があることも併せてお伝えしたいです。(詳しくはこちら

(3) ピルを飲むと卵子が保存できる→×

ピルを飲んでいる間は排卵が止まるため、その間卵子を「コールドスリープ」できるという説が時々流れてきます。ですが、ピルを飲んでいても、飲んでいなくても、妊娠していても、授乳していても、時間と共に卵子の数は減っていきます。卵子の数を保ったり、質が落ちないようにするような作用はピルにはありません。
一方、ピルを飲まずに自然に体が月経を毎月起こしていると、月経血の一部が卵管から腹腔内(お腹の中)に逆流し、炎症を起こしたり子宮内膜症の原因になったりすると言われているのですが、ピルを飲むことはそれを予防することになります。

(4) ピルを飲むと将来妊娠できなくなる→×

ピルは、飲んでいる間は排卵を抑え、赤ちゃんが着床するための子宮内膜を薄くするため、避妊になります。ですが、飲むのをやめると速やかにその作用はなくなります。
(3)に書いた理由から、妊娠をしたくない間はピルを飲んでいた方が将来的に不妊になるリスクの一部を減らすことができます。

(5)ピルは高い→△

日本では「病気でない」ものには健康保険が効かないため、避妊薬としてピルを求める場合は全額自己負担になります。自費診療の場合は医療機関ごとに設定された価格になりますが、1枚2000~3000円くらいが多いようです(ジェネリック薬の方が安いです)。また、6月に発売されたミニピル(スリンダ)は発売されて間もないため原価も高めとなっており、3000~4000円くらいが多いようです。国によっては避妊薬に公費の補助があったり無料だったりするため、高いと言って差しつかえないのかなと思います。
一方、月経困難症治療薬として保険適用でピルが処方される場合(避妊用の自費ピルとは種類が異なります)、ジェネリック薬だと1枚あたりの薬価が3割負担で500円程度のものもあり、自費ピルとかなり負担感が違います。
ピルを飲む目的や、どれが体に合うかにもよりますが、一概に「高い」というわけでもないのかなと思います。

(6) ピルはPMSには保険が効かない→◯

これは本当で、ピルは月経困難症や子宮内膜症には保険適用がありますが、PMSには保険適用はありません。ただ、PMSと診断される多くの方は月経困難症も持っているため、保険適用で飲んでいるという方も多いです。月経困難症がなく、純粋にPMSとだけという方は、避妊用の自費ピルやミニピルを飲んで効果を期待することになります。

ピル 誤解 健康保険
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(7) ピルの副作用は怖い→△

どんな薬にも作用と副作用がありますが、ピルにも副作用があります。鬱陶しい副作用と怖い副作用があって、鬱陶しい副作用は、吐き気、頭痛、不正出血などです。怖い副作用には、血栓症、高血圧などがあり、喫煙、肥満、高年齢など、リスクが高い人には十分な注意が必要ですし、場合によっては処方を避けた方がいい場合もあります。
逆に、タバコを吸っておらず、標準体重で、30代までの方は怖い副作用のリスクは低く、メリットがデメリットを上回ることが多いです。
血栓症に関しては、ミニピル「スリンダ」やジエノゲストなどのエストロゲンフリーのホルモン剤、天然型のエストロゲンを使用した「アリッサ」など、血栓症のリスクが上がらない選択肢もあるので知っておいてください。
ピルに限らず、医療にかかって、検査や治療を受けるときはメリットとデメリットを比較して総合的に判断することが大切です。

(8) ピルを飲んでいると定期的に血液検査を受けなくてはいけない→△

ピルを飲んでいて、処方元の医療機関で定期的に血液検査を受けている人も多いと思います。もしも、健康診断で採血を受ける機会がないという人は、貧血や薬剤性肝障害などの兆候がないかどうか、一般的な健診項目の血液検査を受けるといいでしょう。ですが、健康診断で採血を毎年受けているという人は、項目にもよりますが、別途採血が必ずしも必要ではない場合も多いです。かかりつけ医にご相談ください。
また、血栓症の診断に使うDダイマーや、血栓症のリスクに関係するプロテインC、プロテインSなどの項目を無症状の方が定期的に測定されている場合や、その値によって処方を中止されている場合もあるようですが、こちらは必ずしも無症状の方の血栓症の「予知」にはなりません。OC・LEPのガイドラインでも勧められていないので、知っておいていただけると幸いです(自分は検査を受けている、という場合は、検査医にお尋ねになるといいと思います)。

以上、SNSでよく見かけるピルについての情報の真偽について書いてみました!
他にも「これって本当?」ということがあれば、ぜひcrumii公式Xアカウントや、編集長・宋美玄の各種SNSアカウントまでお寄せください。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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