
crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #16
直腸腟瘻が起こるリスクと、妊娠出産の頃から始めてほしい ペリネ(骨盤底筋)に負担をかけない生活習慣
今回は、元AKB48の浦野一美さん(39)が自身のブログとYouTubeで「直腸腟瘻(ちょくちょうちつろう)」という、産後にとてもまれな後遺症を公表しました 。
元AKB48の浦野一美、産後の後遺症で「膣から便が出てしまう」病気と手術を受けることを明かす
これは、"腟から便が出てしまう" という症状を伴う病気で、発生頻度は「1万人に1人」といわれています。そのため、産婦人科でも気づきにくく、診断までに時間がかったとのことです。
「ほぼ完治の見通しがたったこと」
「この病気自体、年齢関係無く特に初産で発症する場合が多く幅広い年齢層の方が密かに悩んでいること」
「手術が上手くいかずメンタルに支障をきたし、産後鬱やもっと酷い状況になってしまう方もいると知ったこと」
から公表する気持ちになったと語られていました。
お産の際に直腸腟瘻はなぜ起こる?
直腸腟瘻は産道(腟)の裏にある直腸との間に瘻孔(トンネル)ができてしまう病気です。直腸から便が腟の方に出てきてしまい、便漏れや感染を起こして健康や生活の質を低下させます。
赤ちゃんの頭が大きかったり、出産に長い時間がかかると直腸腟瘻のリスクが上がります。赤ちゃんの頭が骨盤内に長く圧迫されることで腟と直腸の間の組織が壊死して瘻孔がでやすくなります。日本では頻度は低いですが、介助者のスキルや産科医療の不足により、アフリカでの出産は直腸腟瘻の発症頻度が高いです。そして、それによる感染症は産後のお母さんたちの命を脅かしています。
また、鉗子分娩や吸引分娩という、最後に器具などを使って赤ちゃんを娩出させるお産もリスクになります。鉗子・吸引などの器具を用いる分娩は、会陰・膣・肛門周囲の裂傷を引き起こすリスクが高く、肛門括約筋や直腸まで傷が達することがあります。直腸と膣の間の隔壁(直腸膣中隔)を損傷したばあい、適切に治癒しないと瘻孔形成のリスクが生じます。
浦野一美さんは無痛分娩をされたことを公表されていますが、鉗子・吸引分娩であったかどうかは公表されていなようです。方法や管理の仕方にもよりますが、無痛分娩では鉗子・吸引分娩の頻度が高まることがあるため、浦野一美さんと同じような病気で悩んでいる方がいらっしゃるかもしれません。直腸腟瘻は珍しいものではありますが、浦野和美さんが勇気を持って公表されたことにより、出産にはこのようなリスクもあることが知られる意義は大きいと思います。
女性の体と「ペリネ(骨盤底筋)」の話
直腸腟瘻自体は珍しいものではありますが、出産により、尿漏れや便漏れ、臓器の下垂が引き起こされたり、長い年月が経ってから顕在化することは非常によくあります。
更年期になると、エストロゲンという女性ホルモンの分泌が急激に減ります。エストロゲンは、骨盤底筋(ペリネ)をしっかり保つのにとても大切です。ペリネが弱くなると、膀胱や子宮、直腸といった内臓が下に下がってくる「骨盤臓器脱」や、「咳をしたときなど腹圧をかけた時の尿もれ」などの症状が起きやすくなります。
実際、「股の間から何かが出てきた感じがする」「膣がゆるくなって下がってきた感じがする」「くしゃみで尿がもれる」などの症状で病院に来るのは、50代〜60代以上の女性が多いです。
でも、こうした症状は、突然現れるわけではありません。若い頃から少しずつ「ペリネ」にダメージがたまり、年齢とともに目立つようになるのです。
ペリネにダメージを与える原因
以下のようなことがペリネに負担をかけ、将来の症状につながることがあります。
•重いものをよく持つ仕事や立ち仕事
•長引く咳
•便秘
•出産回数が多い、赤ちゃんが大きかった
•経腟分娩の経験(特に鉗子・吸引分娩)
出産直後は若いので一度回復することも多いですが、ダメージ自体は残ってしまうこともあります。
どうすればいいの?
症状が出てからペリネのリハビリを始めるのも大事ですが、それだけでは間に合わないこともあります。症状が進むと、下着や器具の助けが必要になったり、手術が必要になることもあります。
だからこそ、まだ症状が出ていない若い頃から「ペリネを大切にする生活」を意識することがとても大切です。

妊娠・出産のダメージを最小限に
妊娠中はお腹の中の赤ちゃんが大きくなって、腹圧がかかるため、ペリネに負担がかかります。妊娠中に尿漏れが起こりやすくなるのはこのためです。こうしたことを「仕方ない」と我慢せず、普段の姿勢や排便時の姿勢などを工夫することで、負担を減らせます。
出産も、特に普通分娩では、ペリネがとても大きな負荷を受けます。お母さんの体を守るためには、出産のときの姿勢や方法にも気を配る必要があります。出産後も、すぐに無理して動きすぎず、しっかり横になって休んでペリネを回復させることが大切です。
今の女性たちは、閉経後も何十年と元気に生きていく時代にいます。そのためにも、「年をとってからのケア」ではなく、「若いうちからペリネを守る生活」がとても重要です。
特に妊娠・出産の時期は、ペリネにとって大きなターニングポイント。妊婦さんや産後の方へのサポートも含めて、もっと多くの人が「ペリネを大切にする生活」を知り、実践していけるようになることが望まれます。
crumiiでは妊娠出産と日常生活がペリネに与える影響と保護などについても専門家から伝えていこうと思います。
以下、告知になります。
ペリネを解剖学、生理学的に分析し、呼吸と姿勢とペリネのメソッドを確立したフランス人医師 ベルナデット・ド・ガスケ先生の講演会が来月あります。興味のある方はぜひご参加ください。
Dr. Bernadette De Gasquet
ガスケ・アプローチ創始者
ベルナデット・ド・ガスケ 医師 講演会
姿勢と呼吸からのペリネの保護
日本へのメッセージ
【ド・ガスケ 医師 講演会】
2025年7月5日(土)
開演:18:00~19:00(開場:17:15より)
場所:東京家政大学 板橋キャンパス三木ホール
東京都板橋区加賀1-18-1
JR埼京線「十条駅」から徒歩7分
申込み先:
・当日対面+アーカイブ配信を申し込む(4,000円)
https://forms.gle/zvPzDu362auiBLxZ7
・後日 動画アーカイブ配信のみを申し込む(3,000円)
https://forms.gle/J9FGL2o39QAx6ygd8
INSTITUT DE GASQUET 日本セクション事務局
yoyaku.biso@gmail.com / 070-8547-2498
※講演会は、シャラン山内由紀の逐語通訳があります。
共催:東京家政大学健康科学部看護学科
宋美玄
丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。