気になるキーワード【学会】#1
お医者さんが行く「学会」って何してるの?学会の正体を解説
「本日は院長が学会のため休診です」病院の掲示や予約画面で、こんなお知らせを見たことがあるでしょうか。なんかちょっとかっこいい響きですが、「お医者さんって学会で何やってるの?」「わざわざ診療を休んでいいの?」と疑問に思ったことはありませんか?
結論から言うと、学会(学術集会)は、医師や研究者などが研究や診療の情報を共有し、結果として医療の質や安全性を高めることを目指す学びの場」。crumiiの協力医師メンバーはほとんどが産婦人科医なので、産科・婦人科・超音波関連の学会に多く参加していますが、学会の仕組みや流れはどの診療科でもだいたい同じです。
今回は、この「学会」という場で行われていることや、私たち患者にどう関係してくるのかを、解説してみます。
「学会」の2つの意味|団体とそれが主催するイベント
「学会」という言葉には、実はよく使われる意味が2つあります。
① 団体(組織)としての学会
② イベント(学術集会・学術大会)としての学会
ニュースや病院のお知らせで見かける「学会参加」「学会のため休診」は、多くの場合②(イベント)のことを指しますので、ここでは先に、イベントとしての学会について解説します。
イベントとしての学会(学術集会・学術大会)
イベントとしての学会は、いわゆる学術集会、学術大会と言われるもので、数日間にわたって開催される大きな集まりです。全国から(海外からも)医師や研究者が集まり、会場やオンラインで参加します。
このイベントで行われるのは、たとえばこんなこと。
・口頭発表(スライドで発表)
・ポスター発表(研究成果を大判のポスターで掲示して説明する)
・講演(専門家のレクチャー)
・討論(ディスカッション)
・教育セミナー(若手向け・実践向けの学び)
つまり学会は、最新情報を学ぶ場でもあり、医師が自分たちの臨床の結果や症例報告を持ち寄る場でもあるのです。

実は手作り?「持ち回り」で運営される学会の裏側
メジャーリーグ級の大きな学会は運営のための事務スタッフを抱えていますが、小規模な学会では、学会員である医師たちの手作りがベースです。コロナ禍以降、オンライン配信などはプロに任せていることもあります。
学術集会は毎年『大会長(会長)』が替わり、その大会長のもとで実行委員会が準備を進める形が多いです(大学病院の医師が大会長になることも多いですが、必ずしも大学とは限りません)。プログラムの企画から会場、特設ページやオンライン配信の手配まで、文化祭実行委員さながらの忙しさです。
開催場所も担当医師の所属している大学のある地域になることが多いため、毎年変わります。ある年は北海道、翌年は福岡、その次は香川、といった具合で、医師たちが毎年違う場所へ出張するのはこのためです。 会場は規模によって、大学の講義室から、国際会議場のような巨大ホールまで様々。
「学会で出張」と聞くと優雅に見えるかもしれませんが、実は運営する側も参加する側も、日常の診療と両立させるためにスケジュールのやりくりに奔走しているのが現実なのです。
医師は学会で何をしているの?
ここからは、お医者さんが学会というイベントに参加して何をしているのか、学会の中身をもう少し具体的に見ていきましょう。
最新の研究や治療の話を聞きにいく(講演・シンポジウム)
学会では、いま注目されている研究や治療について、専門家が講演会を行います。
新しい薬や検査の結果
手術や処置のコツ
治療成績(どれくらい良くなったか、合併症はどうか)
「どんな人に向く/向かない」といった薬や治療の使いどころ など
産婦人科でいえば、妊娠・出産の安全、婦人科のがん、月経トラブル、不妊治療、更年期といった幅広いテーマが扱われます。
現場の悩みに直結する話も多く、新薬や新たな治療のことも話題にのぼります。
自分たちのデータを発表しにいく(口頭発表・ポスター発表)
学会の中心は、現役の医師や研究者による発表です。内容はさまざまですが、たとえば
| ある治療を行った結果のまとめ 珍しい病気や難しい症例の共有 新しい検査の工夫 患者さんの安全を高める取り組み |
などを、他施設の医師に向けて報告します。
ただのプレゼンと違うのは、発表すると質問や指摘が飛んでくること。
「そのデータの見方は本当にそれでいいのか?」「別の条件下だとどうなるの?」と突っ込まれることで、研究の弱点や改善点が見え、次の研究や診療の改善につながります。
ここで「素人質問で恐縮ですが」という学会質問特有の枕詞があります。発表した若手の医師が、重鎮の医師からこの質問をされて、自分の研究デザインや発表に対して、指摘やツッコミを受ける恐怖におののくため、「私はこれから意地悪な質問をしてあなたをいじめます」というニュアンスが含まれている、という医師特有のミームがあります(笑)。冗談のような本当の話です。
質問して議論する(質疑応答・ディスカッション)
学会の質疑応答は、患者さんが想像するよりずっと実務的です。
この結果は本当に信頼できるものですか?
この治療はこういうデメリットがありますが、現場ではどう使いわけてますか?
どんな人に勧める?逆に勧めない?
こういうケースが多いのですが、貴院ではどうされていますか?
患者さんからこういう質問を受けたら、どう説明していますか?
…といったことを、時間の許すかぎり詰めます。ここで得た「現場感」は、教科書や医学書だけでは手に入りにくいもので、医師たちが自身の診療をアップデートするための重要な機会なのです。当然、新たな治療や方針の転換などがあった場合には話題になります。
製薬会社など企業の最新情報に触れる(展示ブース・企業セミナー)
学会会場には、製薬会社や医療機器メーカーの展示や講演が出ることがあります。新しい薬や医療機器、電子カルテや予約システムなど関連サービスの情報が集まる場でもあります。
ただ、企業展示や企業セミナーがある学会も多いため、発表内容の公平さを保つ目的で、発表者に『利益相反(COI:お金の関係)』の開示を求める学会が多いです(ルールは学会ごとに異なります)。例えば、日本医学会のCOIに関するQ&Aでも、学会発表において演題に関連する企業等とのCOI状態を開示する必要があることが説明されており、国際的にも、研究の信頼性には利益の関係を透明にすることが重視されています。

他院の医師とつながるオフ会的な役割(情報交換・共同研究)
意外と重要なのが、専門を同じくする医師たちの「オフ会」としての役割。病院が違えば、設備も患者さんの背景も、得意分野も違います。
若い頃に同じ大学病院(医局)で働いていた仲間やかつての同僚など、学会は、専門を同じくする医師たちが一堂に会する場です。
一般企業でも、異なる営業所のマネージャー同士が集まればマネジメントや新人の教育の相談を交わすように、他院の医師に、「こういうときどうしてる?」と悩みを相談する場でもあるわけです。
・似た症例を多く診ている先生に相談する
・困っているケースの考え方を聞く
・共同研究のきっかけを作る
といった、横のつながりが生まれます。これが回り回って、医療全体の底上げにつながっているのです。
医師が学会に行くことで、私たちの診療はどう変わるのか?
「で、結局患者さんの側は何の得をする?」というところが気になるかと思います。学会での学びや議論は、診療に反映されます。
治療や検査の「選択肢」が増えたり、整理されたりする
新しい治療の選択肢が増えるだけでなく、むしろ大事なのはそれらが整理されることです。新しい薬や治療方法は、かつてあった治療のデメリットを補完する形で登場することが多く、
新しい治療や検査は、誰に向いているのか?
今までの方法と比べて、何が良くて、何に注意が必要か?
逆に、従来の治療や検査のほうが合う人はどんな人?
といった情報を整理することが必要になります。こうして選択肢が増えていくと、患者さん一人ひとりに合わせた治療の提案がしやすくなりますよね。こういったアップデートを医師が定期的に行っていくことが、患者さんが受ける治療の選択肢の充実や、最新のエビデンスに基づく治療方針につながっていくわけです。
医療の安全性が上がる(合併症・副作用・注意点の共有)
学会では「うまくいった話」だけでなく、
起きやすい副作用
つまずきやすいポイント
危険なサイン
予防する工夫
といった失敗談や注意点なども共有されます。こうした情報が広がるほど、同じ失敗を繰り返しにくくなり、結果として日本の医療の安全性が上がっていくのです。
まとめ|イベントとしての学会は、医師の研鑽とアップデートの場
ここまで、病院の「学会のため休診」で言うところの学会=学術集会・学術大会について、中で何が行われているのかを見てきました。
学会では、最新の研究や治療の話を聞くだけでなく、医師たちが自分たちのデータや症例を発表し、質疑で突っ込まれ、他施設のやり方とも照らし合わせながら「より安全で良い医療」に向けてアップデートを重ねています。
外から見ると普通の出張に見えることもありますが、実際は学び・発表・議論・情報交換が詰まった、かなり仕事の場であることが理解できたのではないでしょうか。
後編の記事では、医師が学会に参加する目的を整理したうえで、治療の選択肢や安全性にどうつながるのかを具体的に解説していきます。















