
crumii編集長・宋美玄の炎上ウォッチ #15
HPVは男性の体から湧いてきて女性ががんになるバイオテロ? 真偽に迫ります
今回はXでの話題の投稿について取り上げます。
「Tiktokで実際の中学生への性教育の動画が流れてきたけど言っていることは『セックスをしたいという気持ちは自然なこと・気持ちのいいもの・性的同意・避妊・性病予防の為のコンドーム』って話ばかりで
『コンドームをつけてくれない人は貴方を大切に思ってないということ』
『コンドームは100%避妊できる訳じゃない』
『我慢汁でも妊娠するから途中からつける、とかじゃなんの意味も無いこと』
『子供を産むのにこれくらいお金がかかる、貴方たちは今はまだお金を稼げない・働けない年齢だということ、子供を養うことができない年齢だということ』
(中略)
は話してる印象がなかった。」
という投稿が反響を読んでいました。

この投稿そのものも興味深く、TikTokだから切り取りもあるんじゃないかなとか、自分にも相手にもからだの自己決定権があって互いを尊重しようということは伝えています、とか色々掘り下げたいこともあるのですが、関連した投稿でHPVに関するものがバズっていたので、そちらについて取り上げたいと思います。
「子宮頸がんの原因になるヒトパピローマウイルスは、陰茎(特に包茎)のチンカスから来るって事は絶対に言わない しかもそのワクチンを女性にだけ接種させて男は放置なのも」
こちらも反響を呼んでおり、ヒトパピローマウイルス(HPV)は男性の体(特に包茎の方の恥垢)から発生し、女性特有のがん(子宮頸がん)の原因になるとのことで、「バイオテロ」「男性もHPVワクチンを接種しろ」との声が上がっています。
HPV感染のファクトを押さえよう
・性的な接触で感染します。異性愛者の場合、男性から女性に、そして女性から男性に感染します。
→どちらの性別が先とはいえないです。
・HPVは感染しやすく、性交経験開始時期から若年女性のHPV感染が始まり、性交経験を有する人の大半が生涯一度はHPVに感染します。
・一部の人は何度も感染を繰り返します。
・日本人女性におけるHPVの検出率は15.6%(細胞診正常=子宮頸がん健診で陰性の方の場合)、年代別では20歳~29歳で22.8%が一番多いです。
・アメリカのデータになりますが、男性におけるHPV検出率は42.2%で、年代別だと20~29歳が48.5%で一番多いです。
→男女共に保有率が高く、非常にありふれたウイルスです(但し、ハイリスク型でないものも含みます)。
・HPVは性行為などにより生じた皮膚や粘膜の微小な傷から侵入し、上皮の最下層にある基底細胞に感染します。
→皮膚の中に入り込んで住みつくので、恥垢が原因というのは不正確と思われます。
恥垢や包茎をディスっても予防にはなりません
そもそも恥垢をきれいにあらっても、コンドームをつけてもHPVは感染します。それだけが原因というのはかなり無理があります。包茎の男性の方が、HPV検出率が高いというデータはありますが、人の性器の特徴をもって、バイ菌扱いのようなディスり方をすることには抵抗を感じます。もしも男女が逆で、「こういう性器の女は◯◯に感染しやすい」などと触れ回る人がいたら、怒りと嫌悪感を感じると思います。
女性にも男性にも脅威となるハイリスク型HPV
ハイリスク型HPVにより起こるがんは子宮頸がんだけではありません。
女性特有のがんとしては、他に膣がんや外陰がんがあります。男性特有のものとしては陰茎がんがあり、男女共に罹患するものには中咽頭がんや肛門がんがあります。
中咽頭がんは耳鼻科領域のがんになりますが、耳鼻科のドクターたちも中咽頭がんを減らすためにHPVワクチンの重要性を啓発していかれたいとおっしゃっています。
子宮頸がんが一番頻度は高いですが、決して女性だけががんに罹患するウイルスではありません。
異性愛者の場合、男女でうつし合うものなので、現在女子だけに定期接種が行われているHPVワクチンを、諸外国のように男子も無料で接種できるよう、要望していくのが大切だと思います。女性を守るため、そして男性自身を守るために。
私見ですが、今回HPVについて「男性の体から発生し女性はうつされる」という説や「バイオテロ」などの言い様が、反響と一部共感を呼んだ背景には、普段から性的な行為に至る過程や、性行為そのものについて、男性からの加害性や「搾取されている」と感じている女性が少なくないというのもあるのではと感じました。それがHPVというウイルスの感染経路やがんの原因になるという事実に投影されて「バイオテロ」という言われようになったのかなと考えてしまいました。
性行為やそれに至る過程については、生理学的、解剖学的しくみにより、男女で非対称な部分もあり、文化的にある程度の加害性が許容もしくは推奨されてきた部分もあります。それを埋めていくのはやはり性教育(それも、包括的性教育)だと思います。
最初に紹介した中学生への性教育に関するXの投稿について、中学生、いや小学生から伝えておきたい、知ってほしいことがたくさんあります。性のことや性教育についてはまた詳しく書く機会を持ちたいと思います。
【参考文献】
子宮頸がんとその他のヒトパピローマウイルス(HPV) 関連がんの予防
Prevalence of Genital Human Papillomavirus in Males, United States, 2013–2014