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【医師監修】更年期の「HRT(ホルモン補充療法)」とは? 主な治療法を解説
更年期にさしかかり、ほてりや発汗、気分の落ち込みといった不調に悩まされる人は少なくありません。それらをやわらげる代表的な治療法の一つが「ホルモン補充療法(HRT)」です。名前は知っていても、「どんな仕組み?」「リスクは?」「飲み薬と貼り薬はどう違う?」「いつ始めて、いつやめるの?」など、わからないことも多いのではないでしょうか。
この記事では、HRTの基礎知識から、メリット・デメリットとリスク、投与方法の種類、そして始め方・やめ方までを産婦人科医監修のもと、まとめて解説します。
HRT(ホルモン補充療法)の基礎知識
HRTの仕組みと治療の目的
HRT(Hormone Replacement Therapy:ホルモン補充療法)とは、加齢などで減ってしまった女性ホルモン「エストロゲン」を少量補い、更年期の不調をやわらげる治療法です。
女性の身体では、卵巣から分泌される女性ホルモンの一種・エストロゲンが、骨・血管・皮膚・自律神経など全身のさまざまな働きに関わっています。ところが更年期(閉経前後の約10年間)になると卵巣の働きが低下し、エストロゲンが急激に減少します。この「エストロゲンの急激な減少」が、更年期障害のさまざまな症状を引き起こす大きな原因と考えられています。

更年期には、エストロゲンの量が急降下する Photo:PIXTA
HRTは、足りなくなったエストロゲンを外から補うことで、症状の緩和を目指す治療です。
更年期障害の改善効果とメリット
HRTのメリットは、症状の緩和にとどまりません。主なものを整理すると、次のとおりです。
・ほてり・のぼせ・発汗などの症状をやわらげる
・閉経後の骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を予防する
・閉経後10年未満で始めた場合、動脈硬化や心血管への良い影響も報告されている
特に、ほてり・のぼせ・発汗といった「ホットフラッシュ」に対する効果は、医学的にも高く証明されています。
HRTの適応となる主な更年期症状
HRTが効果を発揮しやすいのは、主にエストロゲンの減少と直接関係する、次のような症状です。
・ホットフラッシュと呼ばれる、ほてり、のぼせ、発汗
・不眠、寝つきの悪さ

更年期の症状で有名なホットフラッシュやのぼせ Photo:PIXTA
一方で、更年期の不調には、めまいや多彩な体の不調(不定愁訴)、気分の落ち込みなど、エストロゲンの減少だけでは説明しにくい症状もあります。こうした症状には、HRT以外にも漢方療法や、カウンセリング・認知行動療法などの心理療法などが、必要に応じて選ばれることがあります。
HRTのデメリットと副作用、リスク
高い効果が期待できるHRTですが、注意すべき副作用やリスクもあります。治療は医師の指示のもと行われるため、怖がりすぎる必要はありませんが、正しく知ったうえでメリットと比べて納得して受けることが大切です。
乳がんや子宮体がんの発症リスク

Photo:PIXTA
HRTで知っておきたい主なリスクは、次のとおりです。
乳がん
エストロゲンと黄体ホルモンの併用療法で、わずかにリスクが上がると報告されています。特に、長期間(おおむね5年以上)の使用で関係が指摘されていますが、使う黄体ホルモンの種類によってはリスクが上がらない可能性も示されています。
子宮体がん(子宮内膜がん)
エストロゲンを単独で長く使うと、子宮内膜が厚くなりすぎてリスクが高まります。そのため、子宮がある人は黄体ホルモンを併用してこれを防ぎます(詳しくは後述)。
卵巣がん
長期使用で、リスクがわずかに上がるという報告があります。
血栓症・脳卒中・冠動脈疾患
特に飲み薬で、また高齢になってから・閉経後年数が経ってから始めた場合に、リスクが上がりやすいとされます。
ただし、これらのリスクは「誰にでも同じように起こる」わけではありません。年齢、閉経からの年数、持病、使う薬の種類・量・期間・投与経路(飲み薬か貼り薬か)などによって大きく変わります。だからこそ、一人ひとりの状態を医師が確認し、説明したうえで方針を決めていきます。
不正出血や乳房の張りといった副作用
Photo:PIXTA
がんなどのリスクとは別に、始めた頃に、薬の副作用で起こりやすいマイナートラブルもあります。
・不正出血(特に始めた頃。続けるうちに減っていくことが多い)
・乳房の張りや痛み
・頭痛、下腹部の張り など
これらは多くの場合、続けるうちに落ち着いていきます。ただし、出血が長引いたり、頻繁に生じたりする場合は、医師に相談しましょう。
治療を受けられない禁忌症と、条件付きの慎重投与
HRTには、受けられない「禁忌」のケースと、条件つきで慎重に検討する「慎重投与」のケースがあります。

Photo:PIXTA
受けられない(禁忌)主なケース
・現在、乳がんにかかっている、または既往がある
・現在、子宮体がんなどにかかっている
・原因不明の不正性器出血がある
・血栓症(急性・既往)、心筋梗塞、動脈硬化に伴う狭心症、脳卒中の既往がある
・重い肝臓の病気(重度の肝機能障害など)がある
・妊娠している可能性がある
慎重に検討する主なケース
・子宮体がん・卵巣がんの既往
・肥満
・コントロール不良な高血圧・糖尿病
・片頭痛
・胆石症 など
このようなケースにご自身が当てはまるかどうかは、自己判断しないでください。受診の際に、持病や過去の病歴、現在飲んでいる薬を漏れなく伝えることが大切です。医師はそれらをしっかり確認したうえで、安全に治療を始めます。
投与方法の種類と具体的な処方例
HRTは、「どんな形の薬を使うか(飲む・貼る・塗る)」と、「どう組み合わせて使うか(薬の組み合わせ)」の二つを、身体の状態に合わせて決めていきます。
飲み薬や塗り薬の種類と使い分け
エストロゲン製剤には、大きく分けて「経口剤(飲み薬)」と「経皮吸収型製剤(貼り薬・塗り薬)」があります。効果そのものに大きな差はありませんが、身体への吸収のされ方が違うため、向き・不向きがあります。

Photo:PIXTA
経口剤(飲み薬) は、胃腸から吸収され、いったん肝臓を通ってから血液へ入ります。メリットとしては、飲むだけで手軽なこと、そして皮膚トラブルの心配がないことが挙げられます。一方で、胃腸や肝臓に負担がかかることがある、肝臓を通る際に血液を固める因子が増え、血栓症のリスクが貼り薬・塗り薬に比べてやや高まるとされるといったデメリットがあります。
経皮吸収型製剤は、皮膚から直接吸収させるタイプで、貼る「貼付剤(パッチ・テープ)」と塗る「塗布剤(ゲル)」があります。薬が肝臓を通らないのが大きな違いです。そのため、胃腸・肝臓への負担が少なく、血栓症のリスクが飲み薬より低いとされています。ただし、貼ったり塗ったりした部分にかゆみ・かぶれが出ることがあります。特に貼り薬は汗で剥がれることもあります。

Photo:PIXTA
いずれのタイプでも効果は変わらないため、体質やライフスタイル、リスクに合わせて使い分けます。肥満・高血圧・糖尿病・中性脂肪が高いなど血栓症のリスクがある人や、胃腸・肝臓が心配な人には、経皮剤(貼り薬・塗り薬)が向いているとされています。
周期投与法と持続的併用法の内容
もう一つ大切なのが、エストロゲンを単独で使うか、黄体ホルモンと組み合わせるかというポイントです。その分かれ目が子宮の有無です。
子宮を摘出した人は、子宮内膜への影響を心配する必要がないため、エストロゲンだけを毎日続けて使う、エストロゲン単独療法が選択されます。
一方、子宮がある人の場合、エストロゲン単独では子宮体がんのリスクが高まります。そこで、子宮内膜を守る黄体ホルモンを併用する、エストロゲン・黄体ホルモン併用療法を行います。組み合わせ方には、大きく2タイプあります。
周期的併用投与法
黄体ホルモンを一定期間(10〜14日ほど)だけ加える方法。月経に似た「消退出血」が定期的に起こります。閉経して間もない人や、まだ月経がある時期に近い人に向いています。
持続的併用投与法
エストロゲンと黄体ホルモンを毎日一緒に使い続ける方法。原則として定期的な出血は起こりませんが、始めてから半年ほどは不正出血が起こることがあります。閉経から一定の年数が経った人に向いています。
これらの投与パターンと薬の形状(飲む・貼る・塗る)を組み合わせて、一人ひとりの処方が決まります。最近では、黄体ホルモンを子宮内に装着するタイプ(子宮内システム「ミレーナ」など)で補う方法もあります。ただし、これをHRTの目的で使う場合は保険適用外(自費)となります。

過多月経などの治療に使うミレーナは、HRT目的の場合は自費となる Photo:PIXTA
治療の開始時期とやめるタイミング
HRTを始めるのに適した年齢
HRTには、始めるのに適した時期があります。目安の一つが、「60歳未満、または閉経後10年以内」です。この時期は、心血管などへのリスクが少なく、メリットを得やすいことから「HRTの窓(開始の好機)」と呼ばれます。
閉経前でも、月経周期が乱れて更年期症状があり、卵巣機能の低下が考えられる場合は、医師と相談のうえで始めることができます。一方、60歳以上、または閉経後10年以上経ってから新たに始める場合は、血栓症などのリスクが上がりやすいため「慎重投与」となり、検査のうえで慎重に判断されます。
なお、「60歳未満で開始」というのは、あくまで始める時期の話です。「60歳になったらやめなければいけない」という意味ではないので、混同しないよう注意しましょう。

Photo:PIXTA
治療を継続する期間とやめ方の手順
「HRTはいつまで続けられるの?」という疑問は多いのですが、継続期間に一律の年齢制限・期間制限はない、というのが現在の見解です。60歳未満・閉経後10年以内に始めた人であれば、60歳を過ぎても、必要に応じて続けることができます。骨粗鬆症予防などの目的で、長く続ける人もいます。
やめるタイミングも、決まった正解があるわけではありません。つらい症状が落ち着いたときにやめてもよいし、続けても、いったんやめて再開してもかまいません。
やめ方も、急に中止する方法と、少しずつ減らしていく方法があります(どちらのほうが優れているという明確な結論は、現時点では出ていません)。いずれにしても、自己判断でやめるのではなく、医師と相談しながら、その時々の体調・健康状態・希望に合わせて決めていくのが基本です。
定期的な診察を受けながら、「今の自分にとって、続けるメリットがリスクを上回っているか」を医師とともに見直していくことが、安全にHRTを続ける・卒業するためのポイントです。

Photo:PIXTA
まとめ|正しく知って、自分に合ったHRTを医師と見つけよう
HRTは、更年期のつらい症状をやわらげ、骨を守ることも期待できる治療法です。あらためてポイントを整理すると、以下のようになります。
仕組み
減ったエストロゲンを補う治療。ホットフラッシュなどに高い効果
リスク
乳がん・血栓症などのリスクがあるが、年齢や投与経路で大きく変わる。禁忌のケースもある
投与方法
飲み薬・貼り薬・塗り薬(血栓リスクは経皮剤が低い)、子宮のある人は黄体ホルモンの併用が必須
始め方・やめ方
60歳未満・閉経後10年以内が始めどき。継続や終了に一律の期限はなく、医師と相談しながら決める
更年期の不調は「年齢のせいだから」と我慢してしまいがちですが、つらさを抱えているなら、我慢せず一度婦人科に相談してみてください。リスクとメリットを正しく知ったうえで、自分に合った選択肢を、医師と一緒に見つけていきましょう。
<出典・参考>
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会『産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2026』CQ407, CQ408, CQ409
日本産科婦人科学会・日本女性医学学会『ホルモン補充療法ガイドライン 2025年度版』
日本産婦人科医会「更年期障害に対するホルモン補充療法(HRT)」ほか、各医療機関・製薬会社の医療者向け資料等
山本尚恵
医療ライター。東京都出身。PR会社、マーケティングリサーチ会社、モバイルコンテンツ制作会社を経て、2009年8月より独立。各種Webメディアや雑誌、書籍にて記事を執筆するうち、医療分野に興味を持ち、医療と医療情報の発信リテラシーを学び、医療ライターに。得意分野はウイメンズヘルス全般と漢方薬。趣味は野球観戦。好きな山田は山田哲人、好きな燕はつば九郎なヤクルトスワローズファン。左投げ左打ち。阿波踊りが特技。
















