crumiiを応援する バナー

産婦人科医やっきーのトンデモ医療観察記 #14

「月経はデトックス」を論破する

キラキラと光り輝く自分の子宮を手で仰ぐ女性

自然派や子宮系スピリチュアルの発信者が「月経」について言及するとき、かなりの頻度で登場する考え方があります。

「月経はデトックス!」
「月に一度の体の浄化!」
「経血といっしょに毒素を排出!!」
「ピルは毒素排出を妨げる不自然な行為!!」

私はこの手の医療デマを主食とする、インターネッツの海底を這うグソクムシ的な存在として生きているのですが、月経デトックス説はその中でもだいぶ上位に位置するメインディッシュとなっております。

というか私はグソクムシになるまで(ブログを始めるまで)の間、産婦人科医として仕事をする上で、デトックスどころか月経のせいで入院したり輸血したり子宮を摘出せざるを得なかった方々をたくさん診てきたものですから、こんなふうに月経を体に良さそうな存在として捉えようという発想自体がありませんでした。

たとえるなら「ジャンボタニシを田んぼに撒こう!」という某党のインスタ投稿を見た時に近い感覚ですね。

(ジャンボタニシ農法:外来種の農業害虫であるスクミリンゴガイ=ジャンボタニシを田んぼに撒いて除草をするという異次元の農法。繁殖力が強すぎて一度定着すると根絶が難しく、田植え直後の柔らかい稲も食べてしまうので深刻な農業被害が出ている。)

しかし、せっかくcrumiiライター陣におけるグソクムシ兼ジャンボタニシ要員として参加させていただいているのですから、
ここは改めてこの医療デマと向き合ってみようではありませんか。

というわけで本日のテーマは『「月経はデトックス」を論破する』です。

瀉血の歴史

十字架と血液のしずくのイラスト
Photo:PIXTA 

この月経デトックス説の起源について考えてみると、近接した概念が古代ギリシャのヒポクラテス系の医学に存在しました。
この当時、「身体に過剰な体液が溜まったり排出が妨げられたりすると病気になる」という考え方が存在したのです。

現代からすると「そんなシンプルなわけないやろ」と言いたくなる話ですが、なんせ病気の原因は神罰とか悪霊とか、要するに人智の及ばぬ領域だと考えられていた時代ですので、「体調が悪いなら血を抜けば良い」というシンプルかつ人の手でもできる解決法は当時の人々に広く受け入れられました。

そして「いかに効率的に血を抜けるか」というあさっての方向に医学は進化していきました。これこそが、有史以降の西洋医学を長きにわたり席巻したトンデモ医療でおなじみ「瀉血(しゃけつ)」です。


瀉血に使用された器具
瀉血に使われた道具(血を受ける皿、駆血帯、小刀) Photo:PIXTA

アメリカ初代大統領のジョージ・ワシントンも瀉血によって死期が早められてしまった一人です。67歳のときに急激な咽頭痛と呼吸困難をきたしたワシントンは、治療のために推定2,500mL以上の血が抜かれ、その日の夜に死亡したことで知られています。(参考)

このように瀉血は、19世紀後半に否定されるまで、長らく医学における重要ポジションを占め続けていました。(参考)

月経デトックス説の歴史

こうした医学史において、瀉血万能説の変種のような、月経デトックスに近しい説を唱えた人がいました。
17世紀の医師、ダニエル・ダンカンです。

彼は1687年に、著書の中で月経についてこのような説明をしました。

・女性の血液は男性の血液よりも汚れている。
・月経によって汚れを排出する必要がある。
・老齢の女性が病気になるのは、月経が終了して汚れが体内に閉じ込められるせいである。
(参考)

……こんな説を今のSNSに書こうものなら、消し炭すら残らないほどの炎上が巻き起こること間違いなしですが、とにかく彼はこういう説を唱えたのです。

ちなみにこのダニエル・ダンカンの主張は医学的・科学的な根拠に基づいているというよりも、旧約聖書の記述を下敷きにしながら「月経血が汚れているのはイヴの堕落に対する罰だ」とも記述しています。ウワーッ本物だ!!

しかし、そんなダンカンこの野郎のトンデモ説が、たぶん今でいうコロナワクチン5G論くらいには一部界隈で広まっていたらしく、
1779年にスイスの医師サミュエル・オーギュスト・ティソが「そんなわけねえだろ馬鹿」と反論した記録が残ってるくらいには根強く存在していたことが窺えます。(参考)

様々なフェイク情報
Photo:PIXTA 

月経デトックス説への反論

というわけで「月経でデトックスできる」というボケに対しては「17世紀の男尊女卑医師かよ」とツッコミを入れるのが漫才として正しい姿勢なのですが、
もしかするとボケのつもりではなく大真面目に月経デトックス説を唱えている人もいるかもしれませんので、これについて医学的に反論してみましょう。

……といっても、そもそも「人体に有害な物質が月経によって効率的に排出される」と示されたことは未だかつて無く、
無いものは証明ができないのでこの反論は初手から詰みの様相を呈しているのですが、ここはいったん基本に立ち返って生理学の観点から考えてみます。

まず、月経というのは体内の女性ホルモンの変動をきっかけとして子宮内膜の一部が剥がれ出血する…という仕組みです。
何らかの病的な原因でもない限り「女性ホルモンの影響」でほぼ説明が付く話であり、毒物がどうたらこうたらの話が介在する余地はありません。

そして、体にとって有毒な物質や老廃物というのは主に「肝臓で代謝」「腎臓で排泄」の2つの経路によって無毒化・排出されます。
肝臓や腎臓はきわめて繊細な構造でこの仕組みを実現しており、それだけにほとんどの動物にとって替えの利かない、きわめて重要な臓器です。

そんな「毒物の排除」という役割を、次世代に遺伝子を残すための生殖器官に背負わせるのは生き物として非効率が過ぎます。

ニッコリと困り顔を両手に持つ無表情の女性のイラスト
Photo:PIXTA 

それに、子宮に毒物が溜まって月経によって排出されるというのであれば、初経が来るまでの女の子や妊娠中の女性には毒が溜まりっぱなしということになります。
加えて、女性の中には何らかの理由で子宮の形成がされていなかったり、病気で子宮を摘出したりする方も少なくないのですが、彼女たちの体内にも毒が蓄積され続けるということになります。

しかし彼女たちの多くは数十年という単位で、健康な生活を送ることができています。

つまり月経デトックス説を信じるならば、肝臓でも腎臓でも排出できないが、数十年にわたり体に大きな影響を及ぼさない未知の毒物が存在するということになるわけです。

……それって本当に毒物なのか??

まとめ|月経はデトックスではない

以上を一言でまとめると「月経はデトックスではない」という結論に落ち着きます。

また、月経によって排出可能な毒物が存在するかどうかは置いておくとして、月経血が多いことでお悩みの方は少なくありません。

そうした方々がピルやジエノゲスト、ミレーナといった薬物治療を行ったり、あるいは手術をしたりするのは医学的にごく普通のことなので、
17世紀の謎主張時代に逆行したり、よもぎ蒸しで排出を促進といった迷信に踊らされることなく、遠慮なく現代医学の恩恵を享受していただければ幸いです。

産婦人科医やっきー

この記事の執筆医師

産婦人科医やっきー先生

産婦人科

日本産科婦人科学会専門医。専門は女性ヘルスケア、産婦人科一般。臨床の傍ら、漫画の描写を通じて産婦人科の知識をわかりやすく発信するスタイルでブログやニュースレターなどの情報発信を行う。SNSにおいても産婦人科医療に関するフォロワーの質問への回答や医学解説を積極的に投稿。代表サイトは、妊婦健診の暇つぶしブログ『産婦人科医が漫画を読む』、雑記帳『医学の話を全くしないnote』、ニュースレター『産婦人科医やっきーの全力解説』など。2025年8月には初の単著を発売予定。

監修チームについて知る
crumiiを応援する バナー

シェアする