
男性産婦人科医・重見大介の提言 #04
男性にも起こり得る更年期障害 〜主な症状や女性との違いなど〜
40代以降で、疲れやすさや気分の落ち込みを「年齢のせい」と片付けてしまっている男性もいらっしゃるのではないでしょうか。実は男性にも女性と同様、ホルモン変化による“更年期障害”が起こり得ます。
本記事では、見逃しやすい症状や女性との違い、受診の目安、セルフケアのヒントまでわかりやすく解説し、心身の変化に気づいて前向きに対処する第一歩のサポートをいたします。仕事や家庭でのパフォーマンスにも響きますので、ぜひ最後までご覧くださいね。
男性ホルモンと年齢変化の基礎知識
「更年期」というと多くの人は女性特有のものと考えがちですが、男性にも同じようにホルモン分泌が変化する時期があります。キーワードは男性ホルモンの「テストステロン」。分泌量は20代にピークを迎え、30代後半から緩やかに減り始め、50代でピークの3〜4割減になると言われます。
このホルモン変動が男性の心身にさまざまな影響を及ぼす状態を、医学的には「加齢性腺機能低下症」「LOH症候群」と呼びます。女性の閉経前後に起こる急激なエストロゲン低下とは違い、男性では年単位でゆっくり進むため気づきにくいのが特徴です。症状は個人差が大きく、まったく感じない人もいれば仕事や家庭に支障を来す人もいます。まずは仕組みを知り「年のせい」と安易に片付けないことが第一歩です。
知っておきたいポイント
1. テストステロンは筋肉・骨・性機能だけでなく、意欲や集中力も支えるホルモン
2. 加齢、ストレス、睡眠不足、生活習慣病はテストステロン低下を加速させる
3. 血液検査でホルモン値を測定でき、値が低く症状もある場合は治療で改善が期待できる
男性更年期の主な症状と生活への影響とは?
「最近なんだか調子が出ないな。。」「物忘れが多い気がする。。」それ、実は男性更年期のサインかもしれません。テストステロン低下がじわじわ進むと、心と体の両方に次のような変化が現れやすくなります。
身体的な症状
・慢性的な疲労感・だるさ:休日に寝ても回復しにくい
・発汗・ほてり:急に顔が熱くなる、寝汗が増える
・筋力低下・体脂肪増加:運動量は変わらないのに太ってしまう
・関節痛・腰痛:運動不足や加齢だけでは説明できない痛み
メンタル面の症状
・意欲・集中力の低下:仕事や趣味に前向きになれない
・イライラ・不安感:小さなことで怒りっぽくなる、理由のない焦燥感
・睡眠障害:寝つきにくい、夜中に何度も目が覚める
性機能の変化
・勃起力の低下・性欲減退:パートナーとの関係性に影響するケースも
・朝の勃起が弱い/消失:日常的に気づけるサインの一つ
これらは単独で現れることもあれば、複数が重なって生活の質(QOL)に影響します。放置すると仕事のパフォーマンス低下や家族関係のストレスにつながることも。
まずは「自分だけではない」と知り、変化をメモに残すなど“見える化”をしてみましょう。気になる症状が続く場合は、早めにかかりつけ医や男性更年期外来へ相談することが大切です。
男性と女性で何が違う?ホルモンバランスの変動パターンと症状の現れ方
女性の更年期では、閉経前後数年で卵巣からのエストロゲンが急降下し、ほてりや発汗などが一気に強まりやすいです。
一方、男性では精巣から分泌されるテストステロンが緩やかに低下するため、症状が「じわじわ」「まちまち」に出るのが特徴とされています。

男女における主な違い
・低下スピード
女性:更年期の数年で大幅に減少
男性:数十年かけて少しずつ減少
・症状のタイプ
女性:ほてり・動悸・発汗、肩こりなど身体症状が比較的目立つ
男性:意欲や集中力の低下・うつ気分などメンタル症状が先に出やすいことも
・診断のハードル
女性:月経不順や閉経が目安になりやすい
男性:客観的な身体的サインが少なく自覚しにくい
・治療方針
女性:ホルモン補充療法が標準的(保険適用)
男性:診断がつけばテストステロン補充の実施も可能(保険適用)
こうしてみると、男女でも傾向が異なることがわかりますね。男女の違いを理解すると、自分やパートナーの変化に気づきやすくなり、適切なサポートにつながりやすくなるはずです。
受診先や受診の目安、検査内容は?
「疲労感やイライラ、性欲低下が2〜3ヶ月以上続く」「生活や仕事の質が明らかに落ちた」と感じたら受診のサインと言えるでしょう。まずはかかりつけ医でも構いませんが、以下の診療科がよりスムーズだと思います。
・泌尿器科/男性更年期外来(専門としている医師が多い)
・内分泌内科(生活習慣病のチェックもしてもらいやすい)
診断の流れ
1. 問診・AMSスコア(男性更年期障害のセルフチェック)で症状を明確にする
a. AMSスコア表(大東製薬工業ウェブサイト)
3. 血液検査でテストステロン値を測定する
4. 生活習慣病や甲状腺疾患など他の原因を除外する
5. 血中テストステロン(遊離型)が基準値(およそ8.5 pg/mL)未満で、矛盾しない症状が存在している場合、一般的にLOH症候群と診断される
費用と保険適用
・テストステロン値を測定するための血液検査は、基本的に健康保険の対象となる(ただし、同時に測定する検査項目によっては自費となる場合もある)
・テストステロン補充療法(注射)は、きちんと診断がつけば保険適用となる(塗り薬や内服薬は自費診療となる)
受診前に症状メモを持参すると、診断が早まり治療方針も立てやすくなります。気になる体調変化は放置せず、早めに専門家へ相談しましょう。泌尿器科であれば、勃起不全の治療も相談することが可能です。
今日からできるセルフケアとは?
テストステロンを守る第一歩は、「生活習慣をデザインし直すこと」です。症状がまだ軽い、診断がつくほどではなかった、などの場合には、まず次の工夫を試してみましょう。
なお、よくわからない成分も含まれる「男性向けサプリ」を自己判断で多量に摂取するのは健康リスクの懸念があり、お勧めできません。サプリについては専門の医師に相談して検討してみましょう。
すぐに始められるセルフケア
・筋トレ+有酸素運動:
週150分のウォーキング+週2回の筋トレで、男性ホルモン(テストステロン)が活性化しやすくなります。代謝もよくなり気持ちも前向きになることが期待できます。
・タンパク質+亜鉛を意識:
鶏肉・卵・大豆、牡蠣やナッツで男性ホルモンの材料を補給しましょう。ただし、亜鉛は過剰摂取に注意してください。
・7時間以上の質の良い睡眠:
就寝前1時間はスマホをオフにし、深部体温を下げてスムーズな入眠を。質の良い睡眠は健康状態の土台です。
・ストレスコントロール:
深呼吸・瞑想、趣味時間の確保で、ストレスマネジメントを心がけましょう。リラックスできていないと、更年期症状をより重く感じやすくなってしまいます。
・適量飲酒・禁煙:
健康維持の大事な土台につながります。依存により肝臓や血管にダメージが蓄積され、さまざまな不調のリスクを上げてしまいます。
さいごに
年齢を重ねても「自分らしさ」を保つことはできます。もし疲れやすさや気分の落ち込みが続いている場合、それはホルモン変化という体からのサインかもしれません。まずは正しい情報をもとに、改善のための一歩をぜひ踏み出してみてくださいね。
ポイントのおさらい
1. 男性にも更年期があり、テストステロン低下が主原因
2. 疲労感・メンタル変化・性機能低下など症状はさまざま
3. 女性とはホルモン低下のペースと症状のパターンが異なる
4. AMSスコア+血液検査で診断、保険適用での治療も可能
5. サプリの安易な摂取は要注意、生活改善でできることは多くある
【参考資料】
日本泌尿器科学会『加齢男性性腺機能低下症(LOH 症候群)診療ガイドライン ― 2023年改訂版』
Endocrine Society “Testosterone Therapy in Men With Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline”
Mayo Clinic “Male menopause: Myth or reality?”
日本内分泌学会. 男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)
重見大介
産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。