
こわがらないで更年期 #03
更年期のつらい症状になぜ「漢方薬」が効くの?ホルモン補充療法との違いは?更年期真っ最中の医療ライターが解説
漢方薬には、一剤で多様な症状を改善できるという特徴があります。それは、さまざまな不調を抱えやすい更年期にぴったりで、事実、漢方薬は更年期症状の緩和に用いられることが少なくありません。そこで今回は、更年期症状に用いられることの多い漢方薬をご紹介します。自分に合った漢方薬を選んで、更年期症状のつらさを少しでも和らげられるといいですね。
漢方薬がなぜ更年期に効くとされるのか
漢方薬とは、生薬(しょうやく)と呼ばれる植物や動物、鉱物などの自然由来の成分を2つ以上組み合わせてつくった薬のことです。この複数の生薬が複雑に作用し合うことで、単一の成分だけでは得られない、幅広い効果を発揮すると考えられています。
更年期の不調に漢方薬がすすめられるのも、この「一剤でさまざまな症状に効果がある」という理由が大きいです。更年期には、エストロゲンの分泌量が急激に低下することをきっかけに、体のバランスが崩れ、多岐にわたる不調につながります。例えば、頭痛、肩こり、倦怠感といった体の症状だけでなく、イライラや気分の落ち込みといった心の症状が同時にあらわれることも。
このようなときに、漢方薬が役立ちます。西洋薬のように、一つの症状に対して一つの薬を用いるのではなく、漢方薬は、体の全体のバランスを整え、複数の症状に同時に働きかけることを得意としています。そのため、多くの種類の薬を服用する必要がなく、飲み合わせの心配も軽減されるというメリットがあります。さまざまな不調が複合的にあらわれやすい更年期をはじめとした女性ならではの不調全般に、漢方薬を用いることが多いのは、そうした理由があるのです。
また、西洋薬とは体に働きかける仕組みが異なる ため、乳がん既往歴や血管系の疾患を抱えている人など、ホルモン補充療法ができない人でも使えて、症状を軽減できる場合があります。
更年期の不調改善に用いられることが多い漢方薬
日本では現在、148処方の漢方薬が保険収載されています。そのなかで、女性の不調に用いられることが多いのは、以下の3種類の漢方薬です。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
主に血流の滞りによっておこる不調の改善に向いている漢方薬です。骨盤内部を含む下半身血流の滞りを改善することで全身の血流を促し、更年期の症状では、めまい、のぼせ、頭痛、肩こりなどを改善するといわれています。更年期だけでなく、月経不順や月経痛の改善にも用いられることの多い漢方薬です。配合されている生薬の一つである桂皮(シナモン)の香りがほのかにするのも特徴です。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
冷えやむくみなど、体内で水分が滞ることでおこる不調の改善に向いています。更年期の症状では、冷え、むくみに加え、頭痛、めまい、耳鳴りなどを改善します。また、貧血の改善にも効果を発揮します。「手足がいつも冷える」「むくみやすい」「なんだか疲れやすい」といった症状が気になる人や、けだるそうに見えて、周囲から「やる気がなさそう」と見える雰囲気の人に適しているといわれます。
加味逍遙散(かみしょうようさん)
更年期症状の中でも精神症状が強い場合に用いられることが多い漢方薬です。「イライラしやすくなった」「些細なことで落ち込んでしまう」「なかなか寝付けない」といった精神的な症状が強くあらわれる場合には、加味逍遙散が適しているかもしれません。精神を安定させる作用があり、更年期特有の心の不調をやわらげてくれます。また、「いつも疲れている」と感じるような慢性的な倦怠感にも効果が期待できます。
ホルモン補充療法と組み合わせて、さらに快適に
漢方薬は一剤でさまざまな症状に効果を発揮しますが、万能ではありません。例えば、急なほてり(ホットフラッシュ)に対しては、直接的にエストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)の方がより効果的な場合があります。また、骨粗しょう症や動脈硬化の予防といった効果は、漢方薬だけではHRTほど期待できません。
漢方薬とHRT、それぞれに得意・不得意があります。これらを組み合わせて、それぞれの良いところを利用すると、更年期をさらに快適に過ごせる可能性があります。
更年期の漢方薬の使い方:私の場合

私も、HRTを始めた当初、しばらくの間は漢方薬を併用していました。さきほどご紹介した漢方薬のひとつである桂枝茯苓丸も試し、効果を感じましたが、それ以外で相性が良いと感じた漢方薬がありました。半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)です。
半夏白朮天麻湯は、体内の水分バランスを整える効果があり、めまいや耳鳴りの治療によく用いられる漢方薬です。 実は、この漢方薬に含まれる「天麻」という生薬が、PMS(月経前症候群)のイライラなど精神症状に効果を発揮するといわれています 。私はもともとPMSの症状が強めで、更年期の初期にも精神的な不安定さを感じることが多かったため、試してみたところ、しっくり来ました。HRTと併用することで、心身ともに穏やかな状態を保つことができ、半年ほど続けました。
もちろん、漢方薬の効果には個人差があり、すべての人に同じように効果があるとは限りません。しかし、このように、自分の体質や症状に合わせて漢方薬を選ぶことで、更年期のつらい症状を和らげ、より快適に過ごせる可能性もあります。
更年期との付き合い方は、人それぞれです。漢方薬、HRT、そして日々の生活習慣の見直しなど、さまざまな選択肢があります。専門の医師に相談しながら、いろいろな方法を試し、自分に合った方法を見つけていってください。
【参考文献】
・宋 美玄『【読む常備薬】図解ただしく知っておきたい子宮と女性ホルモン』(河出書房新社)
・今津 嘉宏「健康保険が使える漢方薬の事典」(つちや書店)
・江川 美保「プレコンセプションケアとしてのPMS/PMDDマネジメント」女性心身医学, 2024, 29(2), 169-173
山本 尚恵
医療ライター。東京都出身。PR会社、マーケティングリサーチ会社、モバイルコンテンツ制作会社を経て、2009年8月より独立。各種Webメディアや雑誌、書籍にて記事を執筆するうち、医療分野に興味を持ち、医療と医療情報の発信リテラシーを学び、医療ライターに。得意分野はウイメンズヘルス全般と漢方薬。趣味は野球観戦。好きな山田は山田哲人、好きな燕はつば九郎なヤクルトスワローズファン。左投げ左打ち。阿波踊りが特技。