
PMS、月経困難症…月経随伴症状の原因と対処法をやさしく解説【医師監修】
生理前や生理中のつらさや痛みに悩んでいるのに、「これくらい我慢しなきゃ」と思って仕事や学校に行ったことはありませんか?この記事では、PMSや月経困難症といった月経随伴症状について、その仕組みや原因、その対処の選択肢を解説します。
生理のしくみを簡単におさらい
生理(月経)は、妊娠に備えて子宮内膜が厚くなり、それが妊娠しなかった場合に不要になって剥がれ落ち、血液とともに体外へ排出される現象のことです。
この一連の流れは、女性の体内で分泌される「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロゲステロン(黄体ホルモン)」という2種類のホルモンの働きによってコントロールされています。
月経周期は、「月経期」、「卵胞期」、「排卵期」、「黄体期」という4つの時期に分けられ、子宮内膜が剥がれ落ちて出血が起こるのが月経期。続いて卵胞期に入ると脳の視床下部からの指令で下垂体が卵胞刺激ホルモンを分泌し、卵巣内の卵胞が成熟します。排卵期になると、エストロゲンの分泌がピークに達し、それに伴って黄体ホルモンの分泌が急増します。これにより、成熟した卵胞から卵子が排出されます。排卵後は黄体期に入り、排卵後の卵胞が黄体に変化してプロゲステロンを多く分泌します。これによって子宮内膜はより柔らかく厚くなり、受精卵が着床しやすい状態になります。この時期に妊娠が成立しなければ、黄体はしぼんでホルモン分泌が減少し、子宮内膜が維持できなくなることで、次の月経が始まる、というサイクルです。
生理の仕組みについては、別記事でも詳しく解説しますので、併せてご参照ください。
PMS(月経前症候群)や月経困難症とは?
月経にともなう不調=「月経随伴症状」ってなに?
生理に関わる悩みといえば「生理痛」をイメージする方が多いかもしれません。しかし実際には、生理前から生理中にかけて身体や心の不調を抱える方は少なくありません。これらの生理にともなう諸症状を「月経随伴症状」と呼び、代表的なものに以下のようなものがあります。
●身体的症状:下腹部痛、腰痛、胸の張り、頭痛、むくみ など
●精神的症状:イライラ、憂うつ感、不安感、集中力の低下 など
PMSと月経困難症の違いとは
●PMS(月経前症候群):生理が始まる数日前から、イライラ、落ち込み、胸の張り、腹痛などの症状があらわれ、生理が始まると徐々に軽快していくのが特徴です。なかでも精神的な症状(気分の変動)が強い場合、PMDD(月経前不快気分障害)と診断されることもあります。
●月経困難症:生理の時期に激しい痛み(生理痛)や吐き気、頭痛などで日常生活に支障が出る状態を指します。生理痛は多くの女性が経験しますが、「鎮痛薬を使っても痛みが強い」「仕事や学校を休まないといけない」といった場合は、月経困難症に該当する可能性があります。
これらはどちらも女性ホルモンの変動が大きく関わっていますが、PMSは生理前に症状が現れ、生理が始まると軽減または消失するのに対し、月経困難症は生理中に強い痛みが現れる点が、両者の大きな違いです。
これって病気? 我慢しなくていい生理のつらさ
「生理だから仕方ない」「女性なら誰でも経験するもの」と考える方も少なくありません。しかし、生理による痛みや不調が強い場合は、適切な治療や薬の服用で和らげることができます。毎月の痛みや不調が生活に影響しているのであれば、「これは普通じゃないのかも?」と気づいてほしいのです。
月経にともなう不調は、決して「気のせい」や「甘え」ではなく、ホルモンの働きによるもの。一人で抱え込まずに、医師に相談してみることをおすすめします。
●鎮痛薬を使っても痛みが治まらず、日常生活に支障が出るほどの痛みがある
●経血量が多い、あるいは極端に少ない気がする
●生理前後の気持ちの落ち込みやイライラが激しく、仕事や学校生活などに影響がある
●生理以外のタイミングで出血が見られる
こうした症状が長引く場合、将来的な妊娠や健康に影響が及ぶケース(子宮内膜症など)もあるので、早めに婦人科を受診し、適切な治療を受けることが大切です。

よくある月経随伴症状とその原因
生理痛・頭痛・腰痛などの身体的症状
●生理痛:子宮内膜が剥がれる際に放出されるプロスタグランジンという物質が原因の一つです。子宮を収縮させたり、血管を収縮させたりするため、痛みが強くなることがあります。
●頭痛:ホルモンバランスの変動や、プロスタグランジンの作用で血管が収縮・拡張を繰り返すことが影響します。
●腰痛:骨盤周辺の血行不良や筋肉のこわばりが原因で、腰や下腹部に痛みや重だるさを感じやすくなります。
イライラ・落ち込み・涙もろくなるなどの精神的症状
生理前や生理中に気分の浮き沈みが強まることがあります。直接的な原因はわかっていませんが、生理痛によるストレスが、さらに心の不調を引き起こしやすくするケースもあります。「普段は気にならないのに、生理前になると些細なことでイライラしたり、涙もろくなったりする…」と感じる方は多いようで、実際の診療の現場でも、「小さなことでパートナーや子供にあたってしまった、全然どうでもいいことで涙が出てきてしまった」といった相談が寄せられることもあります。
ホルモンと自律神経の関係性も
私たちの体は、ホルモンだけではなく自律神経(交感神経と副交感神経)もバランスを取りながら機能しています。生理前にはホルモンバランスが大きく変動するため、自律神経にも影響が及び、体温調節や血圧、心の状態が不安定になりやすくなります。生理前にだるさを感じたり、眠りが浅いと感じるのは、自律神経の乱れも原因のひとつといわれています。
生理や生理前のつらさにはどう対処する?
婦人科でできる治療法(ピル・LEP製剤・鎮痛薬など)
婦人科でできる主な治療には、以下のようなものがあります。
低用量ピル(LEP製剤)
低用量ピルは、女性ホルモンの量を一定に保ち、排卵を抑えることで生理痛やPMSの原因を減らす仕組みです。これによって生理痛の軽減や生理周期の安定、出血量のコントロールなどの効果が期待でき、肌荒れの改善につながる場合もあります。ただし、血栓症などのリスクがわずかに高まることもあり、喫煙者や持病がある人は注意が必要です。
黄体ホルモン製剤
黄体ホルモン製剤は、排卵や子宮内膜の増殖を抑えることで、生理痛や出血量の軽減を目指す治療法です。生理痛やPMSの症状を抑えるだけでなく、子宮内膜症の進行を遅らせる可能性もあるとされています。しかし、体質によっては、不正出血や軽いむくみなどが出る場合があり、症状を観察しながら使う必要があります。
ミレーナ(子宮内システム)
ミレーナは、子宮内に小さな器具を入れることで少量の黄体ホルモンを継続的に放出し、子宮内膜の厚みを抑える仕組みです。生理痛の緩和や出血量の軽減が期待でき、一度装着すると5年間は交換不要であるため、負担やコストが比較的少ないメリットがあります。ただし、装着時に痛みや違和感を感じることがあるほか、まれに装着位置がずれるリスクもあるため、定期的なチェックが欠かせません。
鎮痛薬(痛み止め)
鎮痛薬は、痛みを引き起こす物質の働きを抑えることで生理痛を和らげる仕組みです。痛みがひどくなる前に服用するとより効果を実感しやすく、即効性があり手に入りやすいのもメリットです。
漢方薬
漢方薬は、冷えやむくみ、精神的な不調など複数の症状を総合的に整える考え方に基づいています。生理痛やPMSだけでなく、日常的な体調改善にもアプローチできる可能性があります。ただし、漢方薬は人によって効果や適合が異なるため、自分の体質や症状に合った処方を見つけるには、ある程度の時間がかかる場合もあります。
鎮痛薬を頻繁に使わなければならないほど症状が重い場合や、市販薬では対処しきれないほどつらい場合は、早めに婦人科を受診して原因を詳しく調べることが大切です。
ひとりで我慢しないで。婦人科はもっと身近な存在。
「産婦人科=妊娠・出産」だけじゃない
「産婦人科」と聞くと、「妊娠した人、出産する人のための場所」というイメージを持たれる方も多いかもしれません。しかし実際には、生理痛や生理不順、PMS、デリケートゾーンのトラブルなど、女性特有の体の悩みを相談するところでもあります。
生理にまつわる不調を婦人科で治療することは「特別」なことではなく、女性にとって快適な日常生活を送るための、健康管理の一部だとお伝えしたいです。

初めての婦人科受診が不安なあなたへ
どんなことを相談できるの?
生理痛や不正出血、PMSなどの症状をはじめ、避妊やセクシュアルヘルスについても相談できます。少しでも気になることがあれば、遠慮なく話してみてください。
受診前に知っておきたい準備や心構え
○生理周期や症状が出るタイミング・度合いをメモしておくとスムーズです。
○医師や看護師はあなたの悩みに真剣に向き合う存在です。恥ずかしがらず、率直に症状を伝えることで、より正確な診断や治療につながります。
○内診(腟の中をみる診察)が必要な場合もありますが、実施の有無や内容は事前に説明があります。抵抗がある場合は遠慮なく医師やスタッフに伝えてください。
産婦人科については、こちらの記事でも解説しています。
まとめ|「つらい」が当たり前じゃない社会に
PMS、月経困難症などの月経随伴症状は、多くの女性が抱える悩みです。生理前や生理中を「生理だ!ハッピー!」なんて過ごしている人はそんなにいません。
しかし、「つらいのが当たり前」と我慢し続けていると、仕事や家事、育児など日常生活全般にわたって大きなストレスを抱えることになりかねません。せっかくの旅行や大切なイベントに、つらい生理が被って楽しめなかったり、100%のパフォーマンスを発揮できなかったりするのなら、それはとてももったいないことです。
適切な治療によって、毎月のつらさを軽減したり、コントロールしたりできる可能性は十分にあります。医療の力を借りることは決して特別なことではなく、ご自身の健康を守るためのひとつの選択肢です。
「生理なんて仕方ない」「私が我慢すればいい」ではなく、「今、自分の体はどんな状態だろう?」と、自分自身の体に目を向けるきっかけにしていただけたらと思います。
もし、あなたが日常生活に支障をきたすほどの症状に悩んでいるなら、それは医療の力を借りていいサインかも。産婦人科は、妊娠や出産だけでなく、生理に関する悩みにも寄り添う場所です。どうかひとりで我慢せずに、安心して扉をたたいてください。
「つらいのが当たり前」ではなく、「つらさに手を差し伸べられる社会」へ。一人ひとりの気づきと行動が、その一歩になります。
crumiiでは、すべての女性が自分の体を知り、選択肢を知ることで、適切な医療の選択をできる社会を目指しています。
【参考文献】
日本産婦人科医会HP
日本産婦人科医会 学校医と養護教諭のための思春期婦人科相談マニュアル
新時代のホルモン療法マニュアル 日本医事新報社