骨盤 緩み 妊婦

crumii編集長・宋美玄の炎上ウォッチ #12

トンデモ警察参上!妊婦を惑わす「骨盤」商法 お産と骨盤の本当の関係とは

Crumii編集長はトンデモ商法ウォッチ歴15年。女性を惑わすさまざまなものが浮かんでは消えていく中、「骨盤」「ホルモン」「冷え」は今も昔も3大トンデモワードです。

今回の炎上ウォッチでは、何百回目かの「骨盤」炎上を取り上げます。

「骨盤の歪みを直すと安産になる」と拡散する元看護師アカウントが

「骨盤の歪みを直すと安産になる」として妊婦向けのトレーニングをビジネスにしている元看護師を名乗るInstagramアカウントが、産婦人科医のやっきー先生にXで拡散され、大炎上。多数の医療関係者アカウントから「骨盤の歪みというワードだけでNGと分かる」とのコメントがついています。

Instagramはリポストなどの機能がないためXと違って炎上させにくい作りになっています。ぼんやりアプリを開けているとアルゴリズムで「おすすめ」される投稿が次々と表示され、サブリミナル的にトンデモ医学に洗脳されていきやすい作りとなっています。「◯◯先生」を名乗る無資格者、医療系の国家資格者を自称しているけど内容がまったく医学的に妥当でないアカウントが多数あり、裏にはビジネスが絡んでいるものが多いです。

やっきー先生によると、「適当な投稿で不安を煽り、公式LINEに登録させてzoomカウンセリングを受けさせ、その後商材に持っていくという、 インスタには星の数ほどいる妊娠出産ガセ情報アカウントです。」とのことで、やっぱりこう言ったアカウントはお金をかすめとるだけじゃなく、妊娠出産について不正確な情報を垂れ流しているよなあと。

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photo: PIXTA

女性の健康周りににあふれるトンデモ情報

私は産婦人科医なので女性の体に関係する情報をウォッチしているせいもあり、子宮や卵巣、妊娠出産に関してはトンデモ情報にあふれていると感じています。(男性の方は詳しくないのですが、性に関する情報のトンデモは結構多そうです)

子宮や卵巣は骨盤の奥にあるし、赤ちゃんが産道から出てくる様子もブラックボックスみたいに感じているひとも多いので、「独自の理論」の嘘がバレにくいです。また、ホルモンはどれだけ分泌されているか見えませんし。(男性に関しても、ホルモン系の怪しい情報は多いみたいです)

現代の医学でもまだわからないことも多いし(それこそ陣痛がいつくるかなどは予測できませんね)、「神秘的」と言えばなんとなくみんな納得するところがありませんか?騙して商売したい方からすると、チョロいもので、昔から「それっぽい」ことを言って自分の思想を押し付けたり、グッズを売ったりする商売が後を絶ちません。

昔から、
「骨盤に巻くだけで痩せるダイエットベルト」
「腟をマッサージするだけでホルモンバランスが整うオイル」
「膣の中に入れるだけで運を引き寄せるパワーストーン」
などの「◯◯するだけ」を謳うモノ、大手メーカーのものは「化学物質からできていて体に有害」として不安を煽りオーガニック製品(生理用ナプキンやサプリメントなど)を売るモノ、早産や逆子の防止、安産などのありもしない効果効能を謳った「冷えとり」グッズなど、本当にバリエーションが多いです。

それを作っている人たちとやりとりをしたことがありますが、効果がないと分かっていて商品化している人もいるし、根拠がないのに効果を信じて売っている人もいるので、大変厄介です。

骨盤とお産の関係、本当のところ

炎上の元ネタ、骨盤の歪みがお産と関係するのか。こちらでファイナルアンサーを述べたいと思います。

骨盤 女性
photo: PIXTA

経腟分娩では、赤ちゃんが骨盤を通って出てくるため、お産と骨盤はもちろん無関係ではありません。あまり知られていませんが、骨盤はお産の時に重要な動きをしていて、スムーズなお産に影響を与えています。

それは「歪み」とは別の次元のものです。多くの人の骨盤は完全に左右対称ではなく「歪んでいる」とイチャモンをつけることができますが、それが分娩に特に影響を与えるというわけではありません。

お産に影響を与えるものは、「歪み」ではなく骨盤の「関節の動き」です。具体的には、仙腸関節や尾骨関節といった骨盤の関節部分の可動域が大きいほど、赤ちゃんがスムーズに産道を通りやすくなり、生理的な出産(体の理にかなった出産)になりやすいと言えます。

妊娠中には「リラキシン」というホルモンが分泌されることが知られており、このホルモンによって関節がゆるみやすくなります。これはまさに、骨盤の関節の可動域を広げて、赤ちゃんが出てきやすくするための準備と考えられます。

ちなみに、同じ理由で恥骨結合も緩むため、まれに「恥骨離開」といったトラブルが起こることもあります。

骨盤が赤ちゃんをスムーズに骨盤の外に送り出して娩出するためには、仙腸関節や尾骨関節が動きやすくなるような分娩体位を取ることも非常に重要になってきます。つまり、事前に何か整えておくというより、お産が始まってからが肝なのです。(このあたりの具体的な体位については、また別の機会に詳しくご紹介したいと思います。)

というわけで、「骨盤の歪みを事前に直せば安産になる」といった話については、「それっぽいことを言って不安を煽り、自分のビジネスにつなげるための言説と言って差し支えありません。(そもそも歪みが「治る」ものかどうかも謎ですし…)。

テイクホームメッセージとしては、
「骨盤の歪み」というワードが出たらトンデモ
ということでいいかと思います。

これ以外にもトンデモ理論をもとに女性の健康を食い物にするビジネスは横行しているので、またこちらでも取り上げたいと思います。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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