分娩 会陰切開 会陰裂傷

 

会陰切開! しなくちゃいけないの?

お産とは切っても切り離せない会陰切開。

産科医になって20年以上経過しましたが、今でも悩みながらやっています。

会陰切開した方がより大きな傷にならなくてもいいかも。
でも
会陰切開しなくても小さな傷で産まれるかも。
でも
会陰切開した方が肛門側に傷が行かなくて、産後が楽かも。
でも
中途半端に小さく切開したら、もっと大きな傷になってしまうかも。

でもでもでも……どうしようか?

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photo: PIXTA

会陰切開ってなんのためにする?

1.大きな裂傷の予防:分娩時に会陰切開を行うことで、裂傷が大きくなることを防ぎます。しかし、会陰切開をしなければより小さい傷で終わっていた可能性もあるため、結果論になります。切開した方が良かったのか、切開しなかった方が良かったのか、もっと小さい切開でも良かったのかは、誰にもわかりません。

2.早く赤ちゃんを出すため:赤ちゃんが苦しい時など自然に待つのは危険と判断した場合に、より早く娩出させるために行います。

3.器械分娩の時:上記の2とかぶりますが、赤ちゃんが自然に出てくるのを待たずにお産にするために吸引分娩や鉗子分娩などを行う場合に切開します。会陰がまだ拡がってない場合が多いため会陰切開が必要な事が多いです。

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会陰切開はどうやるの?

もうすぐ産まれそう、産ませようと判断したときに、会陰に局所麻酔薬(キシロカインなど)を注射してからはさみで切ります。5~8cm程度の長さで切ることが多いと思います。短すぎるとさらに長く裂けてしまいます。一方で長すぎると「余計な損傷を与えた」ということになります、結果論ですが。
お産が終わったら、さらに局所麻酔薬を追加してから溶ける糸を使って縫合します。

会陰裂傷の重症度分類

まずは、会陰裂傷にはレベルがあることを知っておきましょう。1度から4度に分類されています。もちろん、「裂傷なし」もあります。

1度裂傷:浅い傷です。縫合しない場合もあります。するとしても少し縫合するだけで済むので痛みも少ないです。

2度裂傷:会陰の少し深いところまで傷ができます。縫合して治療する必要があります。軽い2度裂傷と重い2度裂傷とではかなり大きな差があります。会陰切開をした場合は基本的には2度裂傷と同様の扱いです。

3度裂傷:肛門をコントロールしている筋肉が傷つくレベルの深い傷です。肛門の筋肉も含めてしっかりと縫合する必要があります。

4度裂傷:大便を貯めておく直腸まで傷が及んでしまうものです。便失禁などが起こる可能性があるため、しっかりと麻酔をして縫合します。外科に手伝ってもらう場合もあります。

会陰切開をせずに出産できる?

私が最初に産婦人科の研修を受けた病院は極力会陰切開をしない方針でした。
会陰切開率は3%程度でした。結果として、会陰裂傷が無かったまたは1度裂傷だった人は、初産婦では1割、経産婦で2割程度でした。8割程度が2度裂傷、2~3%が3度裂傷、0.2%程度が4度裂傷という結果だったと思います。傷が大きい方が大変だったかというと、それもまた人それぞれだったので、本当に結果論の世界なんだなと思っています。

会陰切開は2度裂傷と同様とされています。会陰切開をした人が、仮に会陰切開なしで産んだらどうなっていたのか?
それはわかりません。
わかりませんが、切開をしなくても8~9割の人はそれなりの傷ができるということです。
色んな経験を積んだ今から考えると、最初の病院での3%の会陰切開率は低すぎたと思っています。もう少し多く、20%程度は会陰切開をする方が総合的には良かったのではないかと思っています。もちろん結果論だし、私個人の経験からの印象です。

どの程度の会陰切開をするかは医師の経験や受けてきた教育により大きく判断が変わります(ベテランの方が良いと言っているわけではありません。)自分自身は会陰切開をしない教育を最初に受けたので、今でも会陰切開率は低くて20%程度だと思います。傷も小さめですが、小さい傷からさらに裂ける場合も良くあるので、小さければ良いというわけでもありません。

一方で、特に評価もせず、一律に会陰切開をする医師もいるのも事実です。これは不要な傷害を与えていることになるので良くないと思います。必要かどうかの診断をしていない状態ですね。

よって、自分が産もうとしている施設での会陰切開率を事前に聞いてみると良いと思います。初産婦と経産婦で違うので、それぞれの割合を聞くのが良いですね。100%会陰切開をしているところは良くないと思います。切るか切らないかの判断をサボっていると判断されます。

何%が適切なのかは一概には言えませんが、会陰切開は必要最小限にして、できるだけ小さい傷にしようと思っていることが大事です。

会陰切開にならないための予防策ってある?

現実的にはないと思います。会陰マッサージなどを推奨している所もありますが、それをやることによって会陰がものすごく伸びるようになるとは思えません。

その人の持って生まれた身体や赤ちゃんの大きさや向き、お産のスピードなど、複数の要因が絡み合って会陰が裂けるかどうかが決まります。

会陰マッサージって意味あるの?

大きな意味は無いと思っていますが、裂傷を減らすというデータもあるので、余裕があればやった方が良いのかと思います。そもそも、薬を使ったりするわけでもなくお金もかからないので、やっても害は無いですからやりたい人はやったら良いと思います。そこから先は、個人差が大きい世界ですが、全体を見ると裂傷を減らす可能性はあります。

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会陰の傷はどう治療する?

全ての場合において、溶ける糸を使って縫います。2度裂傷(=会陰切開の傷)程度までなら、2~3週間で溶ける糸を使って縫います。4度裂傷など治るのに時間がかかる可能性のある場合には溶けるのにもっと時間がかかる糸を使います。よって、抜糸は必ずしも必要ありません。突っ張りがひどくて痛みが強い場合などには、退院前に抜糸します。
糸が溶けた頃には傷も塞がっていて、問題のない状態になっています。1ヶ月検診でチェックする病院がほとんどだと思います。

その後の生活にどんな影響がある?

傷が多少大きくてもちゃんと縫合されていればほとんど問題は起きないと思います。しかし、想定通りに治っていかない場合もあります。

・傷がちゃんと治らずに痛みが続いて何回も縫合のやり直しが必要になる、
・便が漏れてしまう状況(便失禁)になる、
・痛みや引きつれが残ってしまい、性交渉をやりにくくなる、

などがあります。排尿障害や便失禁や性交渉の問題については、傷としての見かけが全く問題なくても起こってしまう場合があり、会陰の傷(自然な裂傷であっても、切開の傷であっても)だけの問題ではなく、見えない深い部分の筋肉なども関係しているのです。そもそも、赤ちゃんを腟から出すという行為自体が、腟や肛門付近に対して大きな負担をかける行動だということです。

まとめ

会陰切開はとても難しい問題です。一人一人の違う身体から、1回1回違う赤ちゃんが違う形で出てくる状況で、その時々の総合的な状況を考えながら判断する必要があります。

何も考えずに全員に切開をしているような医師はダメですが、多くの産婦人科医は悩みながら切開するかどうかを決めていることを知っておいて欲しいです。

太田 寛

この記事の執筆医師

産婦人科医師

太田寛先生

産婦人科

千葉県成田市リリーベルクリニック勤務。

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