
分娩の流れを完全ガイド(後編)
いよいよ本番! お産の流れ【初産/経産別・医師監修】
入院までの道のりを経て、いよいよ出産というクライマックスを迎えることになります。前編では、お産の全体像や、病院に行くタイミングなどを中心にお伝えしましたが、この記事では、分娩のリアルな進み方から、赤ちゃんとの対面の瞬間、そして意外と知られていない、産んだ後の過ごし方まで、実際のお産の流れをより詳しく解説していきます。
いよいよお産! 分娩の進み方
ここからは、正常分娩の流れに沿って、分娩第1期〜第4期の過ごし方について、もう少し詳しく解説します。
第1期(開口期)
分娩が始まると、まず子宮口が徐々に開いていきます。この時期は「開口期」と呼ばれ、子宮口が10cmに全開するまでが対象です。内診を行い、赤ちゃんがどのくらいまで降りてきているかを確認します。初産婦では子宮口が開くまでに10〜12時間かかることもありますが、経産婦では5〜7時間程度が一般的です。
陣痛は次第に強く、間隔も短くなっていきます。陣痛中は、温罨法(あたたかいタオルを腰やお腹に当てること)や、パートナーに腰のマッサージをお願いしたりと、自由に過ごします。施設によっては、バランスボールやアロマなどを取り入れているところもあります。なるべくリラックスできるようにしましょう。
ここまで来ると正直いってそれどころではありません!という方が多いですが、せめてもの過ごし方の工夫は、呼吸法で力を抜くこと、横向きや座位、四つんばいなど、色々な姿勢を試して、自分が楽だと思える姿勢を見つけるのがおすすめです。
陣痛のピークが数分おきになると、痛みは強くなり、お腹まわりから骨盤にかけて、骨の痛みへと変化していきます。この頃、赤ちゃんの頭はお母さんの骨盤の中へ。

第2期(娩出期)
子宮口が全開になったら、いよいよ赤ちゃんが産道を通って生まれてくる「娩出期」に入ります。このフェーズが皆さんが想像する、いわゆる「分娩台のお産」です。
この時期には陣痛の波に沿ったお母さんの「いきみ」が必要になりますが、むやみに力を入れればいいのではなく、子宮の収縮に合わせたタイミングが重要。医師や助産師が「いきんで!」と声をかけますので、その声かけに合わせることが大切です。
必要に応じて、導尿(尿道に細い管を入れて尿を出す処置)や会陰切開(腟の出口を小さく切る処置) 、吸引分娩・鉗子分娩といった医療介入が行われることもあります。また、分娩が長引いて赤ちゃんやお母さんが疲れてきてしまったりすると、帝王切開に切り替えるケースも。これらのお産にまつわる医療的処置については、また別の記事で詳しく解説をします。
赤ちゃんが誕生すると、臍帯(へその緒)をはさんで止め、切断します。
この間、赤ちゃんやお母さんの状態に問題がなく、本人が希望する場合には、できるだけ早く赤ちゃんをお母さんの胸に抱っこして「肌と肌の触れ合い」をします。赤ちゃんが生まれてすぐにお母さんと肌を合わせる「早期母子接触」には、赤ちゃんの心拍数や呼吸、体温、血糖値などが安定する、母子の愛着形成が進み、母乳の分泌を促すなど、いろいろな良い効果があることが科学的にわかっています。

第3期(後産期)
赤ちゃんが生まれたあと、子宮の収縮により胎盤が娩出されます。この子宮の収縮による痛みを「後陣痛」といい、数日続くこともあります。子宮が収縮するのに伴い、子宮と胎盤のサイズがずれることによって、薄い層の部分から剥がれおちてきます。
胎盤の娩出までにかかる時間は、通常は5〜30分。この間、医療スタッフは、赤ちゃんのケアをしたり、医療的処置を行います。出血量や子宮の収縮状態を慎重に観察し、超音波検査をして胎盤の状況をチェックしたりしています。必要に応じて子宮収縮薬の投与や、胎盤をうまく引き出すために、医師が手を入れて胎盤をゆっくり剥がしたり、おなかを押したりする処置を行うこともあります。
その後、お産の際にできた傷や会陰切開の傷を縫合したりといった処置をします。
第4期(産後2時間観察)
日本の多くの産科施設では、赤ちゃん誕生の直後からの2時間を「第4期」として、母体を特に注意深く観察します。胎盤が無事に排出されると、2時間程度、寝たまま観察をします。この時に気分が悪くなったり、痛みが強くなってきたりした場合はスタッフに相談しましょう。
出血が多くないか
子宮がしっかり収縮しているか
バイタルサイン(血圧・脈拍・体温)の安定
などを慎重に管理しています。
その後、病室に移動して体を休めます。もしお母さんが歩ける状態の時はスタッフが付き添って移動し、車椅子で移動することもあります。赤ちゃんは一緒に移動するか、新生児室で一時的に預かってもらいます。
産後の過ごし方
赤ちゃんが誕生したあと、母体と赤ちゃんは数日間入院して経過を観察します。日本では自然分娩の場合には4〜5日程度、帝王切開で7〜8日程度が一般的です。
入院中は、授乳やオムツ替えを実際に経験しながら、助産師から母乳や産後の体調管理について指導を受けます。施設によっては 母子同室(産後すぐから赤ちゃんと同じ部屋で過ごす方法)が推奨されており、母乳育児のスタートや赤ちゃんとの愛着形成を目的に実施されているところもあります。
退院
お母さんと赤ちゃんの健康状態を最終確認し、問題がなければ退院となります。この時には、赤ちゃんのおくるみ、肌着など、赤ちゃんを連れて帰るのに必要になりますので、退院までに準備を。車で移動する場合は、チャイルドシートの準備も忘れずに。
分娩スタイル別の流れの違いを知ろう
出産にはいくつかの方法があります。今回説明した「自然分娩」以外にも、「誘発分娩」「無痛分娩(硬膜外麻酔)」「帝王切開」などがあり、それぞれに流れや準備に違いがあります。ここでは代表的な分娩スタイルごとの特徴をざっくりと解説します。
詳細は別記事で解説していこうと思いますので、引き続きお楽しみに。
自然分娩
最も一般的なのは、やはり自然分娩です。陣痛が自然に始まり、母体と赤ちゃんの力で出産が進んでいきます。流れは「陣痛の開始 → 子宮口が開く → 赤ちゃんの娩出 → 胎盤の娩出 → 産後観察」という標準的なパターンです。医学的な介入が少ない分、回復が早いことが特徴です。
誘発分娩
予定日を過ぎても陣痛が始まらない場合や、母体・胎児に医学的理由がある場合には「誘発分娩」が行われます。これは、子宮口を柔らかくする薬や、点滴による陣痛促進剤を用いて人工的に陣痛を起こす方法です。
一般的な流れは、入院 → 頸管熟化 → 陣痛促進 → 分娩というステップになります。プロセスとしては自然分娩と同じ過程をたどりますが、医療的管理のもとで進められる点が異なります。
無痛分娩(硬膜外麻酔)
「無痛分娩」は、背中から麻酔薬を投与して陣痛の痛みを和らげる方法です。完全に痛みがなくなるわけではありませんが、陣痛のつらさを大幅に軽減できます。
麻酔導入のタイミングは、子宮口がある程度開いて陣痛が進行してきた時点が一般的です。モニターをつけて母体・胎児の状態を確認しながら、自然分娩と同じ流れで出産を迎えます。
帝王切開
母体や赤ちゃんにリスクがある場合や、経腟分娩が難しいと判断された場合は「帝王切開」が選択されます。日本では約20%の妊婦さんが帝王切開により出産をしています。術前には血液検査や点滴などの準備を行い、麻酔(主に下半身麻酔)をかけてから手術が始まります。
1. 麻酔
2. 開腹
3. 子宮切開
4. 胎児娩出
5. 胎盤娩出
6. 縫合
7. 術後管理
という順番で行われます。手術時間は30〜60分程度で、入院期間が自然分娩よりやや長めの約1週間が目安です。
まとめ|流れをおさえておこう
ここまで分娩の流れをフェーズごとに見てきました。実際のお産は、思っていた通りに進むことばかりではないですが、大まかな流れと選択肢をざっくり知っておくだけで、次はこうなるのかな、という心構えができます。この記事を読んでおくことで、少しでもお産のイメージをつかみ、不安を減らせる妊婦さんが増えてくれると嬉しいです。
出産には一人ひとりのドラマがあり、まったく同じ経過をたどる人はいません。しかし、正確な知識を持ち、心の準備をしておくと、自分が今どの段階にあるのかをイメージでき、いざというときに落ち着いて行動することができると思います。
【参考文献】
病気がみえる メディックメディア
妊娠・出産がぜんぶわかる本 重見大介,株式会社KADOKAWA
厚生労働省 ヘルスケアラボ「帝王切開」