出産 分娩 陣痛

分娩の流れを完全ガイド(前編)

陣痛の始まり・入院の目安・お産の進み方【初産/経産別・医師監修】

妊娠のゴールにあたる「分娩」。医療技術が発達した現在でも、お産というのは女性にとって命をかけた人生の一大イベントです。待ちに待った赤ちゃんと出会える喜びがある一方で、「陣痛ってどんなふうに始まるの?」「いつ病院に行けばいいの?」「出産はどんな流れで進んでいくの?」と、不安や疑問を抱える方も少なくありません。

本記事では、経験のない方でもイメージがつきやすいよう、分娩の流れを丁寧に解説していきます。妊活中の方も、初産の方も、経産婦の方も、初めての立ち会いに望むパートナーの方も、お産のイメージをつかんでもらうことで、出産をより安心して迎えていただければと思います。

分娩の全体像とは?

まずは、出産がどんな順番で進行していくのか、大まかな流れをざっと解説してみます。

出産は、医学的には大きく 「分娩第1期」「分娩第2期」「分娩第3期」 に分けられます。さらに、日本の産科施設では、赤ちゃんが生まれた直後からの母体観察の時間を 「分娩第4期」 として扱うことがあります。

第1期(開口期)

子宮口(赤ちゃんが通る出口)がゆっくりと開いていく時期。時間の経過とともに陣痛の間隔が短く、規則的になり、痛みが強まっていきます。

第2期(娩出期)

子宮口が全開大(約10cm)になり、赤ちゃんが産道を通って生まれるまでの時期です。

第3期(後産期)

赤ちゃんが生まれたあとに胎盤が娩出される時期。

第4期(産後2時間観察期)

産後すぐの出血や子宮の収縮をしっかり観察する、とても重要な時間です。

これまでに出産を経験したことがない初めての妊娠の方「初産婦さん」は、子宮口が開くまでに時間がかかるため、分娩が長引く傾向があります。目安としては、12〜15時間前後かかることもあります。一方、出産の経験がある「経産婦さん」は子宮口の開きや赤ちゃんの下降が比較的スムーズで、7〜8時間程度で進むことが多いと報告されています。言い換えると、まだまだと思って安心していると、急にお産が進むこともあるので油断できません。

病院に連絡する基準として重要なのは次のような兆候が見られた時です。

・陣痛の間隔が規則的になった(10分に1回くらいのペースで痛みのピークが来る)
・破水があった
・性器からの出血が多い

出産当日の病院での流れは一般的に、以下のような順番になります。

1. 電話連絡して分娩施設へ移動
2. 受付
3. 医師や助産師の診察・NST(胎児心拍モニター検査)
4. 陣痛室やLDR室での経過観察
5. 分娩室での出産 → 産後の観察

こうした大まかな流れを理解しておくと、いざ陣痛が始まったときにも「次はこうなる」とイメージを持ちやすくなると思います。

本記事では、特にトラブルなくお産がすすんだ場合の「正常分娩」を前提に全体の流れを解説していきます。

いつ病院に連絡/受診したらいいの?

出産が近づくと「いつ病院に連絡すればいいの?」という不安を多くの方が抱えます。痛みに耐えかねて泣きながら電話しても、電話口の看護師さんに「まだです!」と言われてしまった、というのはよく聞く話。実際、入院のタイミングを間違えると早すぎて自宅に戻ることになってしまったり、逆に遅すぎると慌ててしまったりすることがありますので、医学的に重要とされる入院の目安を整理してみましょう。

分娩の兆候としては、陣痛の規則性・破水・出血・胎動の変化、の4つがカギになります。これらは母体や赤ちゃんに直接関わるサインのため、決して見逃してはいけません。特に「破水」や「胎動の減少」は危険かもしれない兆候として緊急性が高いので、迷わず病院に連絡し、判断を仰ぐことが大切です。

陣痛の間隔の目安は?

陣痛とは、子宮が規則的に収縮して赤ちゃんを押し出すために大切な力です。強めの生理痛のような痛みの波がお腹から腰にかけて起こります。
最初は不規則で間隔もバラバラですが、分娩が近づいてくると、一定の間隔で強い痛みが繰り返されるようになります。このタイミングで、可能であれば何かを食べておき、腹ごしらえをしておきましょう。

初産婦さんの場合、10分おきの陣痛が1時間ほど続いたら入院の目安です。経産婦の場合は、15〜20分間隔でも進みが早いので、少し早めの受診がおすすめです。
陣痛の間隔は「痛みの始まりから次の痛みの始まりまで」を数えます。たとえば、8:00に痛みが始まり、次が8:10、その次が8:20であれば「10分間隔」と数えます。

やめておきたいNG行動

本格的な陣痛が始まってから病院に行くまでの間、避けておきたい行動があります。破水後のシャワーや市販薬の使用、飲食などです。以下の行為は、分娩に影響が出てくる可能性がありますので、自己判断では避け、医師に相談してからにしましょう。

・破水後の入浴やシャワー:感染のリスクがあるため避けましょう。清潔なナプキンを使用してください。

・自己判断での鎮痛薬などの使用:市販薬は母体や胎児に影響する場合があるため、必ず医師に相談を。

・病院内での飲食には注意を:帝王切開などの処置が急に必要になることがあり、麻酔の安全上、飲食に制限が設けられている場合があります。とはいえお産は長期戦。水分やエネルギー補給は大切ですから、飲食制限がある場合は指示に従いましょう。

破水・出血・胎動の急な減少は「すぐ連絡」

破水とは、赤ちゃんを包む膜が破れて羊水が流れ出ることです。破水すると外部からの感染リスクが高まるので、早めに連絡・受診する必要があります。もし外出中に破水した場合には、清潔なナプキンを当て、なるべく横になった体勢で病院へ向かうようにしてください。感染予防のため、この間の入浴やシャワーは厳禁です。注意が必要なのは、まだ陣痛がないのに破水が起こった場合。赤ちゃんに酸素が届かなくなったり、感染症の可能性があったりするので、すぐに受診が必要です。

出血は、おしるし(少量の粘液に血が混じる現象)であれば心配ないことが多いですが、生理用のナプキンが必要なほどの出血は危険信号です。

胎動の減少も要注意です。普段と比べて赤ちゃんの動きが明らかに少なくなったときは、胎児の状態に異常がある可能性があるため、すぐに受診してください。

出産 分娩
photo: PIXTA

病院に電話連絡するときは落ち着いて伝えよう

病院に電話するとき、緊張や痛み、焦りのあまり、必要なことを伝えられない方も多いです。パートナーやご両親が代理で連絡するときも、スムーズに伝えられるように、母子手帳ケースなどに保険証や診察券などをまとめ、必要な情報を集約しておくのをおすすめします。

・名前、診察券番号、妊娠週数(例:妊娠39週)
・陣痛の間隔と持続時間(いつ頃から始まって、今はどのくらいの間隔?)
・破水はしたか?(色や量は?)
・出血はあるか?(量はどのくらい?)
・胎動の状況は?(普段より多い、少ない)
・来院手段と到着予定時刻は?(自家用車、タクシー、救急車など)

これらの情報を簡潔に伝えることで、救急隊や分娩先の病院も迅速に準備ができます。

ついに本格的な陣痛がきた?!

出産の流れをイメージする上で、分娩の各時期にどんなことが起きるのかを知っておくことはとても重要。分娩の前兆から、入院までの流れについて解説します。

分娩に予兆はある?「おしるし」のメカニズム

分娩が始まる前には、赤ちゃんが下に降りてきて、頭が骨盤の中に入ります。このことで、お母さんの体に前兆として様々な変化が起こることがあります。

予兆はいろいろ、あったりなかったり。

代表的なものは、赤ちゃんが下に下がることで胃のムカムカが軽減してスッキリする、胎動が少なくなる、膀胱が圧迫されて頻尿になる、不規則で弱い痛みがある(前駆陣痛といいます)などです。

おしるしは医学用語で「産徴」

有名なものに「おしるし」と呼ばれる血が混じったような少量のおりものが出てくることがあります。これを医学用語では「産徴」といいます。産徴は、子宮の壁にはりついた卵膜が、お産が近づいて子宮下部が開くのに伴ってはがれ、出血が起こり、排出されるものです。産徴はないこともあるし、数日経ってから本格的な陣痛が始まることもあるので、おしるしがあったからすぐにお産が始まるというわけではありません。

妊娠初期にあるつわりと同じで、これらの変化にはかなり個人差があり、前兆をまったく感じることなく本番の陣痛が始まることもありますので、これらの兆候がないからといって、心配する必要はありません。

当日の流れ(受付→診察/NST→陣痛室/LDR→分娩室→出生→観察)

ここでは、病院に到着してから赤ちゃんが生まれるまでの、当日の一般的な流れを解説します。また、家族の立ち会い可否、面会ルールも施設ごとに異なります。感染症流行時には制限がかかることもあるため、出産前に病院に確認しておきましょう。

病院に到着したら、検査をして入院を決定

病院に到着すると、まず受付を済ませ、医師や助産師による診察を受けます。陣痛の状況や子宮口の開き具合など、検査結果を総合的に判断し、「入院するかどうか」が決まります。陣痛が弱く、分娩がまだ進んでいない場合は一旦おうちに帰るよう指示されることも。

・問診

陣痛の状況、破水や出血の有無、胎動の変化などを確認

・内診

子宮口の開き具合や赤ちゃんの下がり具合を超音波検査でチェックします。

・NST(ノンストレステスト)

お母さんのお腹にセンサーをつけて、赤ちゃんの心拍と陣痛の関係を調べる検査です。赤ちゃんが元気に過ごせているかを確認します。

・その他必要な検査

採血や採尿で母体の状態を確認します。

入院が決まると、陣痛室、またはLDR室に案内されます。
陣痛室は、妊婦さんが分娩を待機するためのお部屋です。分娩準備室という名前で呼ばれていることもあります。個室だったり、他の方と同室だったりと、施設によってまちまちです。
LDR(エルディーアール)とは「Labor(陣痛)・Delivery(分娩)・Recovery(回復)」の略で、ひとつの部屋で出産まで過ごせる設備(部屋)のこと。妊婦さんの移動の負担が少なく、プライバシーが守られるというメリットがあり、一部の医療機関で採用されています。

出産 分娩 LDR室
一つの部屋で分娩まで終わらせることのできるLDR室(photo: PIXTA)

まとめ|当日の入院までの流れをおさえておこう

出産は「分娩第1期〜第4期」という段階を経て進んでいきます。初産婦さんは時間がかかる傾向があり、経産婦さんは比較的スムーズに進むことが多いですが、どちらも個人差があります。
入院の目安は 規則的な陣痛・破水・出血がポイント。特に破水や胎動減少は緊急性が高いため、ためらわずに病院に連絡してください。

次回の後編では、入院後から分娩の終了にかけて、実際の分娩の流れを詳しく解説していきます。

 

【参考文献】
病気がみえる 第4版 メディックメディア
妊娠・出産がぜんぶわかる本 重見大介,株式会社KADOKAWA
厚生労働省 ヘルスケアラボ「帝王切開」

稲葉可奈子

この記事の監修医師

院長

稲葉可奈子先生

産婦人科

京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得。産婦人科診療の傍ら、子宮頸がん予防や性教育、女性のヘルスケアなど生きていく上で必要な知識や正確な医療情報を、メディア、企業研修、書籍、SNSなどを通して発信している。婦人科受診のハードルを下げるため2024年7月渋谷にInaba Clinic開院。

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