男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #12
コンドームを使っていても妊娠してしまうことがあるのはなぜ? 理由と対策を深掘り解説
「コンドームを使っていたのに妊娠しちゃいました。。」
産婦人科を受診した女性がこうしたことを口にするのは、実は稀ではありません。うまく避妊できなかった理由が思い当たるという人もいれば、「なぜ妊娠してしまったんだろう」と困惑する人もいらっしゃいます。
コンドームは性感染症の予防において極めて重要であり、正しく使えば高い避妊効果も得られます。にもかかわらず、現実には妊娠してしまうケースが少なくありません。
本記事ではその理由をわかりやすく説明し、男性にとっても女性にとっても明日から役立つ情報をお伝えします。

「避妊効果」を左右するものとは
まず、コンドームとはどのようなものかをおさらいしましょう。
性交時に男性の陰茎へ装着する薄い鞘状の道具で、出された精液が女性の腟内へ入るのを物理的に防ぎます。同時に粘膜どうしの接触や体液の接触を減らすため、性感染症の予防にも有用です。薬剤を用いないため基本的には副作用の心配がなく、その場ですぐに使える使い切りの道具です。市販製品の種類(サイズ、材質、形状など)は多く、コンビニでも安価に購入可能です。
このように「物理的に精液が腟内に入るのを防ぐ」なら、本来はほぼ100%妊娠を防ぐことができそうですよね。しかし、実際には妊娠してしまうケースが存在します。なぜなのでしょうか。
これには、「コンドームの使い方」が大きく影響しています。
コンドームの避妊効果は、
1. 完璧な使用(毎回ミスなく正しく使う)
2. 一般的な使用(現実にありがちなヒューマンエラーが混じる)
で差が生まれてしまうのです。
理論的には高い避妊効果でも、日常では小さなミスや勘違いなどが積み重なるため、失敗の確率は上がってしまいます。1回ごとの避妊失敗率(=妊娠してしまう確率)は低くても、回数が増えるほど累積リスクは上がってしまうということですね。
ちなみに、避妊法の確実性は「1年間あたり100人中何人の女性が妊娠するか」という「パール指数」で比較されます。パール指数が低い方が避妊の効果が高いということになりますが、一般的な使用の場合、コンドームは13(ちなみに腟外射精は20)です。コンドームを完璧に使えないと、年間7〜8人に1人が妊娠してしまうため、避妊効果がだいぶ落ちてしまうことがイメージできたのではないでしょうか。
なぜ失敗してしまうのか? 3つの要素
失敗してしまう要素は大きく以下の3つにわけられます。
1. 使い方
2. 製品・物理的要因(素材・摩擦・サイズ)
3. 状況(身体やタイミング、コミュニケーション)
一つずつ、順に考えていきましょう。
1. 使い方:装着・使用でのミス
ありがちな例としては、
・装着方向を間違える
・先端の空気抜き忘れ
・根元まで下ろし切らない
・腟から抜く際にコンドームの根元部分を押さえない
・途中で外す
・破損に気づかない
・再使用してしまう
などがあります。
また、サイズが合っていないことにも要注意です。緩ければずり落ちやすく、きつ過ぎれば破れやすくなってしまうので、自分に合ったものを使う必要があります。
加えて、油性ローションはラテックスを劣化させますので覚えておきましょう(例えば、保湿剤としてよく使われる「ヒルドイド」などのヘパリン類似物質油性剤は、この油性に該当します)。
期限切れや高温多湿・直射日光での長期保管はコンドームが劣化して破れてしまうリスクとなります。
なお、射精後に精液が付いた手で女性の性器を触らないよう注意することも必要です。せっかくコンドームをしっかり使ったのに、これでは意味がなくなってしまいますからね。
仲の良い関係で、お酒を飲んでお互い良い気分で性行為をすることもあるでしょうが、酔っていたり睡眠不足の状態で注意力が下がっている時ほど、上記のようなミスが起こりやすいこともお忘れないように。
2. 製品・物理要因:壊れやすさの条件
コンドームの素材(ラテックス/ポリウレタン/ポリイソプレン)によって、伸び・しなやかさ・熱伝導が異なります(ラテックスアレルギーを持っている人もいるのでその点も注意しましょう)。
人によって薄さや形状は感度(気持ちよさ)にも関連しますが、コンドーム表面の乾燥や過度な摩擦が続くと、コンドームの小さな破損が生じやすくなります。
また、爪・指輪・雑な開封も損傷の原因となります。アダルトビデオで出てくるような「口(歯)で開封する」というのもやめたほうがいいですね。

3. 状況要因:身体・タイミング・コミュニケーション
性行為中に、男性器の大きさや硬さが変わってしまうこともあります。こうしたサイズの変動で根元部分が緩むとコンドームが外れてきてしまうリスクが上がります。
また、体位や性行為の時間も影響します。これは個人差がありますが、そのカップルにとって「外れてしまいやすい体位や方向」があったりしますし、コンドームを付けたまま長い時間していると、どうしてもコンドーム表面が乾燥してきて破損しやすくなってしまいます(女性側も摩擦で痛みを感じやすくなってきてしまいます)。
そして、「射精前まではコンドームを付けていなくても大丈夫」という誤解もいまだに根強いですが、射精前でも少しずつ分泌される分泌液(いわゆる「我慢汁」)の中に少量の精子が混じることがあります。完全な避妊効果を保つためには、「射精前ではなく挿入前にコンドームを装着する」ことが大切です。
今日からできる、適切な使い方をチェック!
では、注意点を含めて、コンドームを使う際の一連の流れをおさらいしていきましょう。
(1) 準備
1. 直射日光・高温多湿を避けた暗所で保管しましょう。期限の確認も忘れずに。
2. 初めて使う場合は、自宅で開封〜装着まで練習しておくと安心できるかと思います。
3. サイズ選びでは、長さより「太さ(周径)」が大事です。緩いと途中で外れてしまいますし、きついと破れてしまうなど破損のリスクがあります。見栄なんて張らず、複数のサイズ・種類を試して自分にちょうど合うものを見つけておきましょう。
(2) 使用手順
1. 開封は袋の端っこから丁寧に(爪や歯・ハサミでの開封はNG)
2. 表裏を確認し、指でつまんで先端の空気を抜きましょう
3. 先端をつまんだまま、陰茎の根元まで一気に下ろしましょう(二重装着はNG。外れてしまった場合などは途中でも必ず新しいものに交換しましょう)
4. 性交中は、ずれ・戻りを時々確認。乾燥してきたら潤滑剤(油性ローションはNG)を使用して摩擦を減らすと良いでしょう(唾液は乾燥しやすいですしお勧めしません)
5. 射精後はすぐに根元を押さえて腟から抜きます(精液のこぼれを防ぎ、コンドームの口を結んでティッシュ等で廃棄)
もし、コンドームの破損・脱落・途中で外してしまった等があれば、できるだけ早く産婦人科へ相談し、緊急避妊薬の使用を検討してください。緊急避妊薬は72時間以内の服用が原則ですが、早ければ早いほど効果が高まります。
当然ですが、緊急避妊を女性に任せきりにはしないようにしてくださいね(なお、日本でも、2026年内に薬局で購入できるようになる予定です)。
妊娠リスクを限りなくゼロにするためには
ここまで、コンドームの適切な使用法を解説してきました。
ただ、「これを毎回完璧にするのは不安がある」という方もいるでしょう。性行為中は緊張したりテンション上がったりしてしまいますし、雰囲気を壊したくないという気持ちもあるでしょうから、それは心情的に無理もないことかなと思います。
では、妊娠リスクを限りなくゼロにするためにはどうすればいいのでしょうか。
それは「男女で2種類の避妊法を併用する」ことです。
コンドームは確かに避妊効果を持っていますが、ヒューマンエラーは誰にでもいつでも起こり得ると考え、「避妊効果の高い方法を追加する」ということですね。
これは、コンドームに加え、低用量ピルや子宮内黄体ホルモン放出システム(いわゆる「ミレーナ」)、子宮内避妊具(IUD)を併用する方法です。これらは女性側が使うものですし、身体への負担もあるので、使うかどうかは女性自身で判断することが大切になりますが、カップルできちんと話しておくことはとても大事です。
なお、低用量ピルや子宮内黄体ホルモン放出システム(いわゆる「ミレーナ」)、子宮内避妊具(IUD)には「性感染症予防効果」はありませんので、この役目の主役はコンドームです。これも大切なことなので、忘れないようにしてくださいね。
*「ミレーナ」に関しては、私も自身のニュースレターで詳しい解説記事を書いたので、よければご参照ください。
子宮内システム「ミレーナ」について徹底解説! 〜使用方法、効果、注意点、費用など〜
【参考文献】
1. Trussell J. Contraception. 2011 May;83(5):397-404.
2. American College of Obstetricians & Gynecologists. Effectiveness of Birth Control Methods.












