妊婦さん向けRSワクチン「アブリスボ」に公費助成がでるようになりますよ!
妊婦さん「RSウイルスのワクチンてうった方がいいんですか…? でも高いんですよね…ちょっと考えます」
産婦人科医「接種するのがおすすめですが、でも高いですよね…」
妊婦健診の際によくあるやりとりのひとつです。
RSウイルスって?

RSウイルスは非常にありふれたウイルスで、多くの子どもが生後1歳までに50%以上、2歳までにほぼ全員が感染すると言われています。健康な大人や幼児では風邪に近い軽い症状で済むことが多いのですが、生後6か月未満の乳児では重症化しやすく、気管支炎や肺炎、無呼吸、さらには急性脳症などの深刻な合併症や後遺症を残すこともあります。実際、日本では年間で2歳未満の乳幼児が毎年12〜14万人ほどRSウイルス感染症と診断され、そのうち約25%(約3万人)が入院することになっている、と推定されています。
現在、RSウイルスに対する治療薬や特効薬はなく、症状に応じて、発熱に対して解熱剤の使用や息苦しさに対する酸素投与、水分摂取不足に対する点滴などの対症療法のみとなります。
RSウイルス感染は、先進国では乳幼児が入院する原因の第1位です。乳児の入院は児本人はさることながら、保護者の負担もはかりしれません。子どもの入院というのは、お子さん本人がつらいのはもちろんですが、家族の負担もはかりしれません。病院によっては入院に付き添いが必要なこともありますし、付き添いでなくとも頻繁にお見舞いに行くことになりますし、そして月齢が低いと搾乳などの必要もあります。お子さんの状態を心配する気持ちだけでなく文字通り心身ともに大変な負担ですし、保護者の方のお仕事にも大きな影響がでます。RSウイルスは罹患者数や入院数以上の大きな社会的影響を与えているのです。
抗体製剤(モノクローナル抗体)による予防、という方法がありますが、主に早産児やハイリスク児に限定されており、すべての乳児が広く予防できるものではありません。
そんな中、2024年5月に承認された、母子免疫ワクチンであるアブリスボは、すべての乳児がRSウイルス感染を予防できるようになるという意味で画期的なワクチンなのです。
アブリスボとは
アブリスボは、妊婦に接種することで、生まれてくる赤ちゃんをRSウイルス感染から守る「母子免疫ワクチン」です。具体的には、RSウイルスがヒトの細胞に侵入・感染する過程で使う「融合(F)タンパク質」をもとに設計された組換えワクチンで、RSウイルスA・B型それぞれに対応する「二価ワクチン」です。
妊娠24〜36週(推奨は28~36週)で、通常は一度だけ筋肉注射(0.5mL)を行います。
妊娠中に接種することで、母体で産生された抗RSウイルス中和抗体を胎盤を通じて胎児へ移行させ、生後直後から乳児期初期(特に生後6か月以内)のRSウイルス感染とその重症化を防ぐことが目的です。
なお、このワクチンは「不活化(組換え)ワクチン」で、ウイルスが体内で増殖することはないため、妊婦および胎児に対して安全性が高いとされています。

アブリスボの有効性と安全性
国際共同第III相試験(MATISSE試験)によると、生後90日以内の重症下気道疾患発症が約81.8%減少、生後180日以内でも約69.4%の減少、入院リスクも90日以内で約67.7%、180日以内で約56.8%低下と、妊婦にアブリスボを接種することで、出生後の乳児における下気道疾患(気管支炎、肺炎など)の発症や重症化、入院リスクが大幅に低下したと報告されています。
接種すれば感染しない、というものではありませんが、接種していると、RSウイルスに感染しても軽症で済む可能性が高くなるのです。
また、妊婦およびその乳児を対象とした市販後調査で重大な安全性問題は報告されておらず、報告されている副反応は注射部位の痛みや筋肉痛、頭痛などで、胎児や妊娠の継続に対するリスクは通常のワクチンと同程度と評価されています。
定期接種化するとどうなるの?
2024年5月、アブリスボは日本でも承認され、接種を希望する人は接種できるようになりました。しかし、任意接種のため、希望者が自費で接種する形のため、約3万円以上の自己負担となり、価格の問題で接種を躊躇する人は少なくありません。冒頭のやりとりは産婦人科の診察室では本当によくみられるやりとりです。
それが、なんと、2026年4月からは公費助成されることになるのです!
2025年11月19日の厚生労働省専門部会で、2026年4月よりアブリスボが「定期予防接種」となることが決まりました。定期接種=原則無償、もしくは少額の自己負担で接種できる、ということですので、定期接種化によって費用の心配なく接種でき、より多くの親子さんとそのご家族が恩恵を受けられるようになります。
定期予防接種は、管轄が市区町村のため、公費助成を受けることができるのは、各自治体ごとの指定医療機関で接種する場合のみです。かかりつけの産科が別の自治体であることも多いと思いますので、ご注意下さい。かかりつけ以外の医療機関で接種することももちろん可能です。ただし、東京23区は23区内すべての指定医療機関で接種券が使えます。たとえば、当院(Inaba Clinic)は渋谷区ですが、文京区や世田谷区など23区内のほかの区の接種券をお持ちの方も当院で接種券を利用することができます。
なお、2026年4月から、ということで、妊娠週数によっては「ギリギリ自己負担になってしまう…!」という方もおられると思います。そこはどうしても制度上致し方のない部分で、悔しい気持ちもわかりますが、赤ちゃんの健康を第一に考えて、必要に応じて3月までの接種をご検討下さい(でもちょっと惜しい気持ちになりますよね…わかります💦)。
これまでは任意接種(自費)であったアブリスボが、定期接種(公費助成)の対象となることで、すべての妊婦・新生児がRSウイルス感染を予防できるようになり、乳幼児の入院・重症化を減らし、親の負担、医療・社会コストが削減されることが期待されます。
有効なワクチンの開発と、それを社会へ提供する制度が着々と充実してきていることを実感するとともに、定期接種化に向けてご尽力下さった関係各所のみなさまと、実際の定期接種化実施に向けてご尽力下さっている各自治体のみなさまに心より感謝申し上げます。















