
crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #06
「出産・子育て応援交付金」制度スタート、流産・中絶でも対象に。crumii編集長として、現場の医師としての評価は?
今回のニュースピックアップでは4月からスタートした新しい制度について取り上げます。
「出産・子育て応援交付金」~妊娠期からの経済的支援がスタート~
2025年4月より「出産・子育て応援交付金」制度が実施されました。妊娠届出時や出産後の家庭に対して、それぞれ5万円相当の経済的支援を行うものです。これは、妊娠・出産に伴う経済的負担を軽減し、誰もが安心して子どもを産み育てられる社会の実現を目指すこども家庭庁の重点施策のひとつです。
妊娠届出時・出生届出後にそれぞれ5万円相当を支給
本制度では、妊娠し心拍が確認された後、医療機関等の証明をもとに妊娠届を提出すると、5万円相当の支援が受けられます。また、出産後には、さらに5万円相当の支援が受けられます。支援の内容は自治体により異なり、現金・クーポン・電子マネーなどで支給されるケースがあります。

流産・中絶でも対象に:心拍確認が要件
特筆すべきは、「出産まで至らなかったケース」でも支給対象となる点です。たとえば、妊娠初期に流産や中絶となってしまった場合であっても、胎児の心拍が医療機関で確認されていれば、妊婦支援給付金(5万円)および妊娠していた子の人数に応じた加算分(1人につき5万円)の対象になります。つまり、生産となった場合と同等の額が支給されます。
つまり、「母子手帳が交付されていない」「妊娠届を出す前だった」「中絶手術を受けた」といったケースであっても、心拍確認の記録があれば、支給対象になり得るということです。申請の際には、医師による証明書などが必要になります。
給付金を受け取るにはどうすればいい?
支給を受けるためには、住民票のある市区町村での申請が必要です。妊娠届を出すタイミングで支援の説明を受け、支給の手続きに進む流れが一般的です。中絶や流産等の場合は、医療機関から心拍確認後にその事実が確認された書類を取得し、市区町村に提出することで申請できます。
市区町村によって運用の詳細(申請様式や支給方法など)は異なりますので、詳細は各自治体の窓口での確認が必要です。
crumii編集長として、現場の医師としての意見
①SRHR(セクシャルリプロダクティブヘルス/ライツ)の前進と言っていい
急激な少子化の折、妊娠・出産・子育てに関してさまざまな給付や助成がありますが、今回は流産や中絶の場合にも満額の支給(単胎の場合10万円)が認められている意義はとても大きいと思います。どんな事情があれ、妊娠した人は、どういう転帰となっても支給されるということで、子供ではなく、妊娠した人に対するサポートと解釈でき、SRHRが前進したと言っていいのではないでしょうか。
②現場では多少の混乱も聞かれます
今回の制度では、「胎嚢」ではなく「胎児心拍」の確認をもって「妊娠」とするとのことです。流産は心拍確認前に起こることも多いのですが、その場合には給付の対象となりません。また実際に、中絶を希望される方で、支給を受けるために心拍確認を待つというケースもあるとのことです。また、中絶で支給を受けたいけれど、役所に申請に行きたくないという方がいたり、行政に中絶したことを把握されることの抵抗感、過去の経験から、中絶で申請する際に親身でない対応を受けるのではという不安の声を現場の医療従事者から聞いています。
③中絶に対して支給されることで利があるのは誰か
中絶を選択した場合でも支給されることはとても大きなことだと思います。しかし、このことはあまり前面にPRされていないようです。もしかすると、このことが広く知れることで、「中絶することになっても10万円もらえるんだろ」と言ってより無責任な行動をする男性が現れても不思議はないという危惧も現場の医療従事者から聞かれました。これに限らず、アフターピルが薬局で買えるようになるなど避妊法へのアクセスが改善したり、中絶のハードルが下がったりすることで、利があるのは女性だけとは限りません。セックスパートナーや、女性の性を搾取している人にとっても好都合になることも全く考えないわけにはいきません。考えたくないことですが、今回の制度を悪用する人が現れないとも限りません。
最終的には男女共に、性や生殖に関する知識の教育、それに加えて自分以外の他人を尊重したり人権について、物心ついた頃から教わる機会作っていくしか解決策はないのではないでしょうか。すなわち、包括的性教育の普及です。SRHRについての根幹は性教育であり、それなしには避妊、中絶、妊娠、出産についてアクセスを改善したり支援したりしても充足することはないと思います。
今回の出産・子育て応援交付金について、これまでもあった子どもや子育てへの支援だけでなく流産や中絶にいたった人へも支援されるという画期的な点について、現場の医療従事者からのさまざまな声も合わせてお伝えしました。多くの方にとって有益な制度となることと思います。これから運用されるうちに、新たな側面が見えてきたらまたお伝えしたいと思います。
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