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十二支 干支 迷信

 

丙午(ひのえうま)で振り返る、妊娠・出産に関する迷信

 

2026年である今年は、「ひのえうま(丙午)」についての話題が、既にあちこちで取り上げられています。それは当然、江戸時代に誕生した「ひのえうまの年に生まれた女は男を食い殺す(不幸にする、の意)」というどうかしている迷信の、世に与える影響がバカにできないからです。
ひのえうまの話題では、前回の1966年にひのえうまの子を産むのを避けようと、「産み控え」が起こり、出生率が激減したという出来事が語られるまでが、標準装備。そこから、過去の報じられ方などから、社会のありかたが問われています。

十二支 干支 迷信 丙午 ひのえうま
(photo: PIXTA)

「ひのえうま」という組み合わせが持つ、「火」と「馬」の強強なイメージが、女性の気質や運命にネガティブな影響を与えるというナンジャソリャな理屈で、60年に1度、360年間振り回されてきた日本。深澤献氏の著書『ひのえうま360年史: 差別・堕胎・自死⋯ 日本が信じた最悪の迷信』では「迷信史において最も陰湿で差別的な言説」として厳しく指摘されています。
しかし、ばかばかしい迷信だとはと思いつつ、干支のイメージが私たちの暮らしに染みついていることは、日々の会話で実感できます。過去にも雑談の中で、「弟は3歩歩いたらすぐ忘れる鳥頭! 酉年だから仕方ない」とか、「自分は寅年だから気が強い」みたいに、アイデンティティを干支で語る場面をさんざん見てきたことが思い出されます。

雑談 会社 休憩時間

迷信の名残は、何気ない雑談の中にも
 

同書では、迷信からの差別を煽るようなおもしろおかしい記事が、さまざまなメディアで乱発されてきた様子が紹介されていました。その中で、個人的に目にとまったのは、迷信からネガティブな印象を煽りつつ、「だから男児が生まれるよう“産み分け”をしよう」というアドバイスが掲載されていた記事です。点火(迷信)→噴射(差別)→大気圏突破(トンデモ)というまるでロケットのような勢い……。

ちなみに、男児を産むにはアルカリ性の食品を食べるべしといった定石の指導が紹介されていたようです。当時は、“食べる食品によって体内環境や血液が「酸性」や「アルカリ性」に傾く”といった言説が信じられていた時代なのでしょう。現在では否定されている説ですので、今の時代では「笑止!!」のひとことですが、しかし残念なことに、未だに普通に使われている界隈もあります。

生まれた子は泥棒に? 60日に一度巡ってくる「庚申の日(こうしんのひ)」

十干の「丙」と十二支の「午」が組み合わさる年が、60年に一度巡ってくるのが「ひのえうま」ですが、同じく60といえば、60日に一度巡ってくる「庚申の日」も、干支をベースにした迷信が多々あります。
庚申の日は、体内に棲むという3匹の虫が抜けださぬよう、夜通し語り合うという行事が行われますが、この日に作った子供は泥棒になるという、ひどい言い伝えがあるのです。
要は、皆が参加する夜通しの会合から抜け出し、夫婦でひきこもる行為に対する戒めでしょうか。ルールを破り和を乱すと、ムラによって怪しからん家族であるという烙印を押されるわけです。陰湿。

令和の今も見かける、妊娠・出産に関する迷信・噂

これだけでもお腹いっぱいですが、イメージだけで決めつけられる迷信はまだまだたくさんあります。類感呪術(るいかんじゅじゅつ)※と呼ぶそうですが、似たものが互いに影響しあうという考えに基づいたものも、大変にポピュラーです。次のようなものが信じられていたこと自体が信じがたいのですが、科学が発達していない時代は、こうした物語や理屈で、気持ちの落としどころを作るというのが大事だったのでしょう。

・ウサギを食べると口唇口蓋裂になる(食べなくてもなります)
・タコやイカを食べると骨のない子が生まれる(神話の世界だとヒルコですね)
・カニを食べると横歩きの子になる(江戸走り得意そう)
・アワビを食べると目がキレイな子が生まれる(赤子の目はみんなキレイです)
・妊娠中に火事を見るとあざができる(うちの子も足にあざがありますが…)

もはや「アレはホントにマジなのか」(産婦人科医やっきー先生のご著書タイトルをこんなところですみません)と検討するまでもない内容ですが、そうした話があったということは、文化的に覚えておいてもよさそうです。
また、同ジャンルの迷信で特に差別的なものは、「男女の双子は心中者の転生者」として忌み嫌われた江戸の言説です。「畜生腹」なんて言葉は、未だに攻撃材料として使われることもあるくらいですから、ネガティブな言説の怖さが五臓六腑に染み入ります。

まだまだある、根拠のない迷信

妊娠出産の迷信は、まだまだいくらでもあります。筆者が知っているものを、最後にざっと挙げてみました。いずれも、ネット上で未だに見かける物件です。

・満月の夜は出産が多い(世界中で言説があるものの、根拠は薄いと言われている)
・お迎え棒(陣痛を促すことを期待して臨月に性交するジンクス)
・妊娠米(妊娠菌がついているから、食べると妊娠できると謳われた。単なるジンクスだが、“菌”を謳ったことと、メルカリなどで米に根拠のない付加価値をつけて割高販売されたのが騒動となった)
・オロナミンCや焼き肉を食べると陣痛が来る(根拠はなくともエネルギー補給としては良さげ)
・トイレ掃除をするとキレイな子が生まれる(下半身を鍛えようという指導と、仏教にまつわる信仰などが入り混じっている)
・脚を冷やすと逆子になる(東洋医学では頭寒足熱に関わる気のめぐりが乱れると…と考えるよう)
・お腹の出具合や母親の顔つきでお腹の赤ちゃんの性別がわかる(たまたま、じゃないですかね?)
・子どもが股を覗くと次の子を授かる(そうした動きができるくらいに上の子が育ったタイミング…という話じゃないでしょうか)
・陣痛中に描いた赤富士(あかふじ)の絵は子宝を呼ぶ(言わずもがな、おまじないですね)

妊婦 トイレ掃除 迷信
(photo: PIXTA)

こうしてざっと並べてみると、迷信そのものが悪いのではないことがわかります。断捨離すべきムーブは、「皆が言ってるから」「昔から言われてきたから」ということを免罪符にして、差別・攻撃・偏見、決めつけを堂々と行うこと。ひのえうまによって改めて、意識していきたいものです。

 

山田ノジル
フリーライター。女性誌のライターとして美容健康情報を長年取材してきたなかで出会った、科学的根拠のない怪しげな言説に注目。怪しげなものにハマった体験談を中心に、取材・連載を続けている。著書『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』(KKベストセラーズ)ほか、マンガ原作や編集協力など多数の作品がある。 X:@YamadaNojiru

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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