
男性に知っておいてほしい、女性の健康を守るために大事な5つのこと【男性産婦人科医が提言】
家族やパートナー、職場での同僚など、男性にとっても女性の健康は大切なものです。その女性の健康を守るには、男性の適切な理解とサポートがとても重要だということを産婦人科医として実感しています。
月経や妊娠・出産、更年期などのライフステージの変化を知り、日常生活で実践できるヒントを見つけることで、心身の負担を少しでも軽くできるはず。本記事では、男性産婦人科医の視点から、男性にぜひ知っておいてほしい5つのポイントをご紹介します。
お互いを思いやるきっかけとして、ぜひ最後までお読みいただけると嬉しいです。
1. 月経に関連した心身の不調と変動
女性の月経周期は、一般的に約28日前後を1サイクルとして繰り返されますが、25~38日程度の幅がある場合も珍しくありません。月経が始まるときにはエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンのバランスが大きく変動し、それが心身にさまざまな影響(腹痛、むくみ、便通異常、肌の荒れなど)を与えます。月経前症候群(PMS:Premenstrual Syndrome)とは、生理予定日の数日前からイライラや憂うつ感、頭痛、腹痛、倦怠感など多岐にわたる症状が現れる状態を指します。原因はホルモン変動や脳内神経伝達物質の影響が複雑に絡んでおり、個人差が大きいという特徴があります。
男性がまず理解しておきたいのは、「PMSは女性が甘えているわけでも、単なる気の持ちようでもない」ということです。特に症状が重い場合には、日常生活や仕事に支障を来すほどのしんどさや不快感、眠気に苦しむこともあります。また、PMSが精神・心理面で深刻化した「PMDD(Premenstrual Dysphoric Disorder:月経前不快気分障害)」という状態では、うつ症状に近いほど気分が落ち込むケースもあるため、専門的な治療を検討する必要があります。

こうした月経にまつわる症状は、他人からは見えにくいものです。女性自身もあまり周囲には伝えないことが多いです。そのため、男性が「大丈夫?」と気づかいの言葉をかけたり、家事や育児、仕事の分担を調整するなど、日常生活の中でサポートする姿勢が、女性の大きな助けになります。カップルや夫婦などの仲であれば、月経周期に合わせて家事や育児などの分担をその時々で調整できるといいですね。また、女性本人も「月経が近づくとこういう症状が出やすい」と自覚している場合が多いので、「何かできることはある?」と具体的に尋ねるのもよいでしょう。
近年は市販薬や低用量ピルなどを活用し、生理痛やPMSを緩和できる選択肢が増えていますが、服用に際しては医師や薬剤師への相談が欠かせません。こうしたサポートを受けやすい環境を作るためにも、男性が正しい知識を持ち、「生理に関する悩みは”女性なら耐えて当たり前”ではない」と受け止め、女性が安心して相談できる雰囲気を整えることが大切です。私は、一方的な思い込みや先入観を取り除き、体の仕組みや症状のつらさを正しく理解していくことが、女性の健康を支える大きな第一歩になると考えています。
2. 妊娠・出産と避妊をどう考えるか
妊娠・出産は、女性の心身にとって、人生の中でも特に大きな変化をもたらすイベントです。つわりと呼ばれる吐き気や倦怠感、眠気、嗅覚の過敏化などの症状は妊娠初期によく見られ、個人差が大きく、人によっては水分さえ摂れないほど重症になることもあります。さらに妊娠中期・後期にはおなかが大きくなるにつれ腰痛や恥骨痛、むくみ、頻尿などが起こりやすくなり、出産時には陣痛・分娩という大きな負担が体にかかります。また、出産後には女性ホルモンの急激な変化や睡眠不足、育児に伴うストレスなどが重なり、誰にでも産後うつのリスクがあります(有病率は約15%です)。
こうした状況を「女性だけの問題」と捉えてしまうと、女性は孤立してしまいます。実際には、健康的に妊娠・出産を迎えるために、夫婦やパートナーが一緒に準備しサポートし合う姿勢は欠かせません。具体的には、妊娠初期の体調が不安定な時期に通院や日常生活を手助けし、嗅覚の変化に合わせて生活スタイルを見直す、妊娠中期以降はお腹に負担がかからないよう家事分担を調整して積極的に今後の情報収集をする、出産前後にはできるだけ休養を取れる環境づくりを行うなど、多角的な協力が重要です。もちろん、出産後は「二人の子ども」という前提を忘れず、主体的に育児をすることも大事ですね。
*最近は男性向けの資料も増えてきています。東京都も公開しているのでぜひご活用ください。
また、妊娠に先立って重要なのが、避妊を含む家族計画の話し合いです。コンドームや低用量ピル、子宮内避妊具(IUD)などの避妊法はそれぞれにメリットとデメリットがあり、女性だけでなく男性も正確な知識を身につけておく方が良いでしょう。特にピルに関しては、PMSや生理痛を緩和するために治療薬としても使われる反面、血栓症などのリスクを伴うものでもあるため、男性からパートナーへ使用を無理強いすることはせず、しっかり話し合って判断していくようにしていただきたいです。
さらに、妊娠するタイミングや不妊の原因に関しても、男女ともに理解を深めることが大切です。男性側の精子の質や数が不妊の一因になっているケースも少なくない(不妊のカップルの原因を調べると半数は男性側にあるというデータがあります)ため、「不妊は女性の問題」と勘違いすることなく、男性も主体的に関わることが前進には重要です。

最後に、妊娠・出産を「女性の仕事」と押し付けることなく、性の問題や家族計画はパートナー同士が協力して考えるべきテーマだということをぜひご理解いただきたいと思います。
3. 定期的な婦人科検診・乳がん検診で守れるもの
日本における子宮頸がん検診や乳がん検診の受診率は、先進国の中でも比較的低いとされています。子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が主な原因であり、初期段階では自覚症状が少ないため、検診による早期発見が極めて重要です。乳がんも同様に早期発見・早期治療がとても大事ですが、「痛そう」「恥ずかしい」「時間がない」などの理由や漠然とした不安感から、受診をためらう女性は少なくありません。
しかし、がん検診は女性の命や生活を守るうえで非常に有用なものです。とりわけ子宮頸がんは、年齢を問わず若い世代にも発症する可能性があるため、20代のうちから定期検診を受け始めることが望ましいとされています(日本では20歳から2年に1回の検診が推奨)。またHPVワクチンの接種によって感染リスクを大幅に下げることができるため、思春期の段階から予防を意識することも重要です。特に、小学6年生から高校1年生のうち早めに接種することで予防効果を最大化できます。なお男子への接種も意義は大きく、思春期男女への接種が進んでいる海外の国では、子宮頸がんがほぼ撲滅できる見込みになってきています。
男性ができるサポートとしては、「婦人科検診や乳がん検診は受けたければ受ければいいんじゃない?」と他人事に思うのではなく、正しい情報を調べたり、実際に受診しやすいよう働きかけたりすることが挙げられます。たとえば、忙しい女性が少しでも受診しやすいように、家事や育児のスケジュールを調整したり、職場でも健診の制度を活用できるよう話し合ったり、受診に同伴したりするなど、色々と考えられます。
さらに、「検診の結果が悪かったらどうしよう」といった不安な気持ちもあるでしょう。そうした場合、男性が一緒に結果を聞きに行くことや、精密検査が必要だという結果が出たとしても早期に対策をすれば治療効果が高まることを伝えるなど、心理的な支えになることが大切です。ぜひ、パートナーや家族と少しでも健康的に楽しく一緒にいられるよう、できることを考えてみてくださいね。
4. 更年期の辛さを甘くみない・揶揄しない
女性は平均的に45歳から55歳頃に閉経を迎えるとされ、卵巣機能が低下することでエストロゲン(女性ホルモン)が減少し、更年期にさまざまな症状が出やすいです。代表的なものとしては、急なほてりや発汗(いわゆるホットフラッシュ)、動悸、めまい、関節痛、イライラや気分の落ち込みなどが挙げられます。こうした症状が生活に大きな支障をきたす状態を「更年期障害」と呼びますが、症状の程度や種類、組み合わせは個人差が大きく、人によっては軽度でほとんど気にならない場合もあれば、病院での治療が必要なほど深刻化するケースもあります。

男性が特に注意すべき点は、更年期の症状が外からは分かりづらい場合があることです。突然イライラしやすくなったり、気力を失ったりするのを「努力不足」や「わがまま」と見なしてしまうと、女性にとっては大きなストレスとなり、さらに症状を悪化させる悪循環に陥る恐れがあります。実際には、ホルモンバランスの変化が身体機能や自律神経に影響を及ぼしていることを理解し、「今はつらい時期なんだな」と温かい目で見守り、サポートする姿勢が求められます。そして、生理現象として生じる症状なので、「更年期の人って困るよね」のように揶揄するようなこともしないでいただきたいなと思います。
更年期症状にはホルモン補充療法(HRT)をはじめ、漢方薬や生活習慣の見直し、カウンセリングなど多様な対処法があります。医師の診察を受けることで症状が大幅に軽減する場合もあるため、「仕方がない」と諦めるのではなく、適切な治療やケアを受けられるようぜひサポートしてあげてください。ちなみに、更年期は女性に限らず、男性でも「男性更年期」と呼ばれる症状が出現することがある(正式には加齢性腺機能低下症、LOH症候群などと呼ばれます)ため、お互いに理解と協力をし合う姿勢を持つことが大切です。
更年期は人生の中で誰もが通過する自然なプロセスであり、決して特別な「病気」ではありません。しかし、ホルモン変化に伴う症状が強く現れる場合には、日常生活や対人関係に大きな影響を及ぼすため、「気のせい」で済ませず、必要に応じて医療機関を受診するなど、ぜひ早めの対処をしてほしいなと産婦人科医として思っています。
5. 女性特有の疾患や生活習慣へ配慮しよう
女性には男性とは異なるホルモンバランスや身体の構造があり、特有の疾患や不調が起こりやすい傾向があります。例えば、貧血は男性よりも起こりやすく、これは月経により定期的に血液が失われる影響が大きいです。貧血になると疲れやすさや立ちくらみ、集中力の低下などが起こりやすく、日常生活のパフォーマンスが下がります。また、閉経後にエストロゲンが減少することで骨密度が低下し、骨折リスクが高まる「骨粗鬆症」もやっかいです。若い頃からのカルシウム・ビタミンD摂取や適度な運動などの予防策が有効です(なお、若いうちから過度な痩せだと将来骨が脆くなってしまうので要注意です)。
加えて、子宮内膜症や子宮筋腫、卵巣のう腫など、婦人科特有の病気に悩む女性も少なくありません。これらの疾患は生理痛が重くなったり、不正出血が増えたりすることで発覚するケースが多く、女性本人にとっては痛みや不調が「当たり前」になってしまっているために発見が遅れることもあります。男性が「生理痛なんてみんなあるんでしょ?」と軽視してしまうと、女性は「これが普通なのかもしれない」と思い込み、結果的に病院での診断が遅れてしまうリスクが増してしまうかもしれません。加えて、子宮内膜症は将来の不妊症や卵巣がんのリスクを上げますし、子宮筋腫は繰り返す流産の原因になったりもします。ご自身のパートナーの不調や病気はぜひ「自分ごと」として一緒に考えてあげていただければと思います。
生活習慣面での対策としては、基本的なことですが、栄養バランスの取れた食事や適度な運動、ストレスマネジメントなどが重要です。ときどき「妊娠には男性側の健康は影響しない」と誤解している男性がいますが、そんなことはありません。男性の肥満や高血圧、喫煙などは妊娠確率や胎児の健康に悪影響を与えることがわかってきています。ぜひ、男性が率先してヘルシーな食事や運動習慣を取り入れてみてください。また、仕事や家事、育児を一手に担っている女性ほど疲労やストレスが蓄積しやすいため、十分な休養時間を確保できるよう工夫していただくことも大切です。

産婦人科医としては、「女性特有の病気は女性が自力で何とかするしかない」と考えるのではなく、男女がお互いに知識や情報を共有し、「何かあったら病院に行こう」「検査を受けよう」と声をかけ合える関係性を築いてほしいと願っています。こうした相互理解とサポートの積み重ねが、女性の心身の健康はもちろん、夫婦やパートナー同士のより良い関係につながるはずだと考えています。
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重見大介
産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。