宋 美玄のニュースピックアップ #42
NIPT、検査項目拡大のための臨床研究 報道だと伝わらないこと
今回取り上げるのはこちらのニュースです。
胎児の病気調べる新型出生前検査、11施設が全染色体で臨床研究へ…専門外の医療機関による検査でトラブルも
「全染色体検査」無認証施設で何が起きているのか
妊婦の血液から胎児の染色体に関する情報を推定する出生前検査であるNIPT検査は、「採血だけで赤ちゃんの病気が分かる検査」として認知が広がってきています。
どの医療機関でも行えるわけではなく、日本医学会の「出生前検査認証制度等運営委員会」に認証された医療機関で行うことになっており、現在では十分に精度が高いとされる13番、18番、21番の染色体のトリソミーについて調べられています。
ところが、認証を得ずにNIPT検査を行なっているいわゆる「無認証施設」は「全染色体」「微小欠失」など、より広い範囲の病気を調べられると、インターネット広告やSNSでPRしています。
一方、出生前検査について十分な「遺伝カウンセリング」や検査結果についての適切な説明が行われていないため、検査により何が分かって何がわからないのか、結果がどういう意味なのか理解する機会を与えられない妊婦や家族が後を絶たないことが問題となっています。
それらの症例の多くは、大学病院などの高次医療施設や出生前検査の専門施設で現在フォローされていますが、そう言った施設に相談されないまま人工妊娠中絶されている症例もあります。

日本の認証制度の歪みと無認可施設の無法地帯ぶりについてはこちらの記事に詳しいです
意義のうすい検査に高額を払わせる無認証NIPTをいつまで放置するのか
今回の臨床研究はどんな妊婦さんが対象?
今回報道された臨床研究は、東京慈恵会医科大学など全国11の大学病院等で行われ、従来の3つのトリソミーに限らない「全染色体」を対象とするNIPTを実施し、その精度や結果の出方を検証していくものです。この研究が必要とされた背景は、「無認証施設」にて検査範囲を広げた出生前検査がすでに広がっているけれども、3つのトリソミー以外の領域では精度や検査意義が十分に確立されていないからです。(実際に諸外国でも薦められていません)美容外科や整形外科など本来の専門領域ではない施設が検査を扱い、郵送で陽性結果だけを通知して、その後の相談に応じないといったトラブルも起きています。
今回対象となる妊婦さんは、無認証施設で行われているように希望する妊婦さんなら誰でも、というわけではないのがポイントです。超音波検査などで胎児の病気が疑われる場合、あるいは過去に染色体に関する病気の子どもを出産したことがある場合など、通常の妊婦さんよりも詳しい項目の検査を受ける適応のある方が対象になります。(妊娠10週以降37週未満の18歳以上とされています)希望する方には検査結果が伝えられ、結果が陽性の場合には原則として羊水検査を受けてもらうという流れになります。
NIPTは確定診断ができる検査ではなく、妊婦さんの血液中に含まれるDNA断片を解析するものですが、赤ちゃんの体由来のものよりも胎盤由来のDNA断片が多く含まれています。そのため、胎盤の細胞だけに染色体異常がある「胎盤限局性モザイク」などがあると、胎児が正常でもNIPTで陽性が出ることがあります。双胎が途中で一児だけ亡くなる「バニッシングツイン」、妊婦さん側の染色体の変化や悪性腫瘍、解析に必要な胎児由来DNAの割合が低いケースなどでも、偽陽性や判定保留が起きたりします。
検査範囲を広げると何が問題なのか
検査範囲を「全染色体」に広げると、情報は増える一方で、解釈の難しさも増えます。まれな染色体異常ほど、検査が示す陽性の的中率は下がりやすくなります。検査というものは、事前確率が低いもの(この場合は珍しい病気)ほど、同じ性能の検査でも偽陽性が相対的に増えやすくなるのです。つまり、陽性と言われて驚いたけれど、確定検査では異常が確認されない、ということになります。結果的には良かったということになりますが、その検査をしなければ受けずに済んだ羊水検査を受けることになったわけです。
また、欠失や重複のように染色体の一部の変化が疑われた場合でも、その変化がどれほど実際の症状に結びつくかは幅があり、医学的な意味づけがまだ十分に確立していない領域も含まれます。「陽性=重い病気」と直結しない所見が混ざりやすいことは、拡大検査の難しさの一つであり、おそらく事前に十分な説明が行われていないと推察するところです。
「羊水検査を受ければいい」は誤解
そして、もう一つ、誤解されやすいポイントがあります。それは「羊水検査を受ければよい」というものではないことです。「羊水検査」という用語は広く使われていますが、実際には「羊水という検体を使って何の検査をするか」が重要です。一般に「通常の羊水検査」と言われるものは、染色体を電子顕微鏡で見て本数や大きな構造異常を確認する染色体核型検査(G分染検査)を指すことが多いのですが、これだけでは小さな欠失・重複、いわゆる微小欠失を見つけるには不十分です。
NIPTの結果が「微小欠失疑い」や「部分的な欠失・重複疑い」といったタイプだった場合、羊水からマイクロアレイ検査のような、より高い解像度で欠失・重複を検出できる検査を行わないと、確認として情報が足りないことがあります。NIPTが何を陽性としているのかによって、確定検査で選ぶべき方法が変わります。羊水を採ればいいというものではなく、疑われた異常に合わせて適切な検査法を選ぶことが重要で、そのための専門知識や検査・カウンセリング体制が必要になります。
(そして、「無認証施設」はそんなことまで理解して検査を行なっているわけではないようです。)
適切な検査・カウンセリング体制の整備を
今回の臨床研究は、拡大された項目のNIPT検査の結果と、羊水検査による確定診断との精度を比較し、検証していくための試みであると考えられます。調べる項目が多いほどよいというような商業的なPRが独り歩きするのではなく、誰を対象にどのような検査をするのが適切か、また専門的なカウンセリングも含めてどのような体制をとっていくのがいいかを検討していくものとなります。妊婦さんと家族の意思決定を適切に支える体制を作る一歩になり得るものです。
出生前検査は、検査が受けられる体制だけでなく、赤ちゃんの病気にはどんなものがあるのか、どのような検査から何を選ぶのか、また結果が出た後にどのようなフォロー体制があるのかがとても重要です。(NIPTでは分からないものを調べるために胎児超音波検査があることを説明している無認証施設はあるのでしょうか・・)
妊婦さん一人一人が適切な検査を選べるように、十分なエビデンスに裏打ちされた情報提供がもれなく行われる体制が、日本全体で作っていけることを望みます。
















