
crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #30
トランプの発言を信じないで! 「妊婦のアセトアミノフェン使用は赤ちゃんの自閉症と関連」はデマです
今日ピックアップするニュースでは、久しぶりにトランプ大統領にメラメラと怒りが込み上げてきました。
アメリカのトランプ政権が鎮痛解熱剤の有効成分「アセトアミノフェン」を妊婦が服用すると子どもの自閉症のリスクを高めるおそれがあると主張したことに対し、WHOが受け止めには相当注意が必要だという見解を示したというニュースです。
WHO アセトアミノフェンと自閉症「関連性は確認されず」(NHK NEWS WEB)
アセトアミノフェン(別名パラセタモール)は「カロナール」「タイレノール」などの商品名で広く処方、販売されている解熱鎮痛薬です。妊娠中はNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる解熱鎮痛薬(ロキソニン、イブ、ボルタレンなど)は使用を避けるべきとされています。そのため、アセトアミノフェンは妊婦さんが頭痛などの痛みや発熱時に使える数少ない、ほとんど唯一の薬になります。(特に発熱は、高体温が長い時間続くと胎児に良くない影響があるとされているため、妊娠中は解熱剤を使ってでも下げた方がいい場面がしばしばあります)
その貴重な選択肢に対し、「赤ちゃんの自閉症と関連する」という恐怖を煽る情報を大国の大統領が発言するとは、さすがに怒りを禁じ得ません。

トランプ発言の問題点とは
妊娠中のアセトアミノフェン使用と子供の発達障害については多数の研究がありますが、最近の「妊娠中のアセトアミノフェン使用と子どものADHD(注意欠如・多動症)・ASD(自閉スペクトラム症)のリスク」についてのレビューでは、
・多数の研究・メタ分析があるが、ポジティブな関連を報告するものには、「選択バイアス(どの人が調査に参加するかの偏り)」「交絡因子(遺伝的背景や育った環境など、アセトアミノフェン使用以外で ASD/ADHDの発症に関与する要因)」が十分に調整されていないものが多い。
・兄弟比較分析(sibling analysis/きょうだい間で比較し、家庭・遺伝背景をある程度揃える研究設計)を含む研究では、アセトアミノフェン使用と ASD/ADHD との関連がかなり弱くなる。つまり、遺伝・家庭環境などの共有因子が、リスクの見かけ上の上昇をもたらしている可能性が高い。
・現段階のエビデンスでは、「胎児期のアセトアミノフェン曝露が子どもの ADHD または ASD を著しく臨床的に意味ある形で増加させる」と言えるほどの強い裏づけはない。したがって、現在のところ、既存の臨床ガイドラインを変えるべきというほどのデータは集まっていない。
となっており、トランプ大統領の発言は科学的根拠に乏しいと言えます(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39637384/)。

妊娠中だからと言って、痛みに対し痛み止めを使わずに生活することは苦痛を伴い、我慢する意味がない場面も多いです。また、前述のように発熱をそのままにしておく方が赤ちゃんにデメリットがある場合もあります。本来であればアセトアミノフェンで安全に対処できるのに、「薬を使うと自閉症のリスクがあるのではないか」という根拠の乏しい情報が広まると、薬の使用を避けてしまい、結果的に母体や胎児の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。大国の大統領が不必要な恐怖を拡散させることは非常に深刻なことです。
また、科学的な裏づけが十分でない情報が政治的に利用されることで、人々の間に「どの情報を信じればよいのか分からない」という混乱が生じます。ワクチンをめぐる見解や発言もそうでしたが、その結果、医療全体への信頼が損なわれ、必要なときに正しい判断ができなくなる恐れがあります。
さらに、発達障害の原因を一部の医薬品としてしまうことで、発達障害を持つ人やその家族にもデメリットが考えられます。「母親が薬を飲んだから子どもが自閉症になった」というような誤った情報により、偏見や差別が助長されかねず、当事者や家族を追い詰めてしまう結果になりかねません。
正確な知識を知って、自衛しよう
SNSなどで多くの医療関係者が一斉に「妊娠中にアセトアミノフェンを使用しても問題ない」と発信してくださっていますが、中には「念のため」妊婦に対しアセトアミノフェンを処方するのを控えようという医師が出てこないとも限りません。ぜひ読者の皆さんには正確な情報を自衛の目的も含めて知っておいてほしいです。
これ以外にもトランプ大統領は、最高裁人事を操作し「ロー対ウェイド(人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた判決)」を覆し、アメリカ女性の中絶の権利を制限しています。今回は妊娠中の女性の健康や権利を軽視する姿勢を示しています。
Crumiiでは女性の健康と権利を守るために引き続き発言に注視していきたいと思います。