
crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #28
胎児エコー写真の売買は詐欺の匂いしかしない
メルカリが9月1日から胎児のエコー写真とそれに類する物の出品を禁止すると発表したというニュースです。メルカリで「エコー写真 妊娠」と調べると「日付と名前の加工可能 妊娠7週」が6000円近くで取引されていたり、「エコー写真 妊娠5カ月」が3000円で出品されているケースもあるとのことです。
【メルカリ、胎児エコー写真の出品を禁止 9月1日から】(日本経済新聞)
産婦人科診療では妊婦さんにエコー写真を日常的にお渡ししていて、みなさん大事に保管されています。それが出るところに出れば数千円で売買されているとは、どう考えても悪用目的しか思えません。一応、ChatGPTに「性善説で考えてみてどういう理由があるか」聞いてみたら、「性教育の教材に使う」「アート作品に使う」などという理由が出てきました。まあ、そういう人もゼロではないでしょうが、「日付と名前の加工可能」というような需要があるところを見ると、実際は「妊娠した」とパートナーなどを騙す目的で女性が購入しているケースが多いのかなと予想します。
実際に見聞きした「妊娠偽装」の事例
私は臨床の現場で毎日妊婦さんや女性を診察しており、常に女性の立場に立った診療を心がけています。一方で、プライベートでは男性の友人や知人からの相談を受けることも多く、その中には「パートナーに妊娠したと言われて困っている」という話も少なくありません。正直なところ、妊娠が事実かどうか疑わしいケースに出会うことも度々あります。プライバシーの観点から具体的なことをここで書くわけにはいかないのですが、妊娠を偽ってお金や「責任」を相手に求める「妊娠偽装」は決して珍しい話ではありません。
残念ながら、以下のようなケースは実在します。
• 「妊娠して中絶したから費用を出してほしい」と診察に一度も立ち会わないまま費用を要求させる(妊娠が本当だったのかはわかりませんが、事後報告という形です)
• 妊娠したと言って結婚するなど「責任」を取らせようとするが、その後妊娠の事実が確認できない
また、2025年4月以降、心拍が確認されると5万円が給付される(妊娠が終わるとさらに5万円)「出産・子育て応援交付金」制度が実施されました。他人の胎児エコー写真を使って不正受給をしようという人もいるかもしれません。(自治体で対策をされているのかもしれません)

善良な女性への弊害が困る
このようなことをする女性は当然一部に過ぎないと思われますが、本当に妊娠している女性が「詐欺ではないか」と疑われることもあり、それはそれは、大変な迷惑を被っています。
SNSでは、妊娠をきっかけにパートナーと結婚し、その後流産してしまったという話を聞いたら、「きっとメルカリでエコー写真を買って、妊娠を偽って結婚に持ち込んだのだ」としか思えない、というような書き込みも見られます。
診療で経験するケースでは、産婦人科でもらった胎児のエコー写真を見せても「本当に妊娠しているのか?」「本当に俺の子なのか?」と疑われるケースもよくあります。患者さんから頼まれて、私がパートナーへ「私は産婦人科医です。本当に妊娠されていますよ」と電話で説明したこともあります。
妊娠が事実であっても疑いの目を向けられてしまう。ほとんどの女性は妊娠を偽装したりしないので、赤の他人はまだしもパートナーに疑われるのは本当に悲しく、迷惑な状況です。
メルカリでの問題ある取引は他にも……
エコー写真に限らず、いわゆるフリマでは以下のようなものの取引が問題視されたことがあります。
• 陽性反応が出ている妊娠検査薬キット
• 「これを食べれば妊娠できる」と高額で販売される“妊娠米”というただのお米
取引されているものが問題視された場合に、運営サイドが「自分達は取引の場を提供しているプラットフォームでしかない」と言い訳することがありますが、詐欺の温床になっている場合は知らぬ存ぜぬではすまされないのではないでしょうか。
被害に遭う男性をこれ以上増やさないためにも、本当に妊娠している善良な女性が疑われない社会であるためにも、他人のエコー写真が簡単に売買できる仕組みはなくなるべきです。メルカリ以外にも取引の場があるようであれば、そちらも自主規制や取り締まりがあってほしいです。
私は日々、妊婦さんのエコーに携わり、少しでもベストな写真を撮ろうと心を込めて検査をしています。その写真が、どこかで人を欺くために使われ、今回のようなネガティブなニュースになるのは本当に残念です。
エコー写真が本来の意味で、新しい命が宿っている喜びを伝えるために使われ続けてほしいと切に願っています。
