水痘 帯状疱疹 妊活 ワクチン 予防対策

男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #10

“水痘&帯状疱疹”にご注意を 〜妊活中から2人で気を付けてほしい感染症〜

水痘と帯状疱疹の基礎知識:知っておきたい基本情報

水痘(水ぼうそう)と帯状疱疹は、どちらも同じ「水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)」による感染症です。初めて感染したときは多くが「水痘」として発症し、その後ウイルスは体内の神経節という部分に潜伏します。つまり、体内から消えてくれないのです。
加齢や疲労、ストレス、免疫低下などをきっかけにウイルスが再活性化すると、神経に沿って痛みと発疹を生じる「帯状疱疹」として現れることがあります。

水痘の主な症状
文献1より引用

感染の仕方は両者で少し異なります。

・水痘は、空気感染・飛沫感染・接触感染で広がりやすく、発疹が出る1〜2日前から感染力があります。

・帯状疱疹は、主に発疹部位への接触でうつり、発疹がかさぶたになるまで感染力が続きます(ただし広範囲に及ぶ場合は空気感染対策が必要になることがあります)。

・いずれも、かさぶた化までの期間は外出や人との密な接触を控えることが必要です。潜伏期間は感染から2週間程度(10日~21日)です。

水痘は「子どもの病気」という印象が強いかもしれませんが、成人でも感染することはあります。成人が初めて感染すると重症化しやすく、肺炎などの合併症が併発することも。このあと書く通り、妊娠中だと胎児への影響も生じ得るため、妊娠を考えるカップルにとっては「自分は免疫があるか」を確かめ、必要に応じて予防策をとることが重要です。

妊娠中にかかるとどうなる?母体と胎児への影響、治療法

妊娠中に水痘にかかると、母体では高熱や強い倦怠感のほか、まれに重い肺炎を引き起こすことがあります。胎児への影響は妊娠時期によって異なり、妊娠初期〜中期(概ね20週頃まで)に水痘にかかると、流産のリスクが上がるほか、赤ちゃんが「先天性水痘症候群」にかかるリスクが生じたりします。これは、稀(水痘罹患妊婦のうち0.4〜2%程度の頻度)ではあるものの重い合併症(四肢の低形成、皮膚瘢痕、眼・神経の障害など)を引き起こす疾患です。
また、出産直前の発症は分娩前後に新生児へ感染が及びやすく、「新生児水痘」として重症化することがあるため、とくに注意が必要です。

治療は、重症化リスクや発症からの経過時間、症状の強さを見ながら、抗ウイルス薬(アシクロビルやバラシクロビルなど)を用いることがあります。これらは妊娠中でも必要性が高い場合には使用が検討され、メリットがリスクを上回ると判断されれば投与されます。

呼吸器症状が強い、広範囲の発疹、基礎疾患がある場合などは、入院管理で慎重に対応します。身体に発疹が出たら早めにかかりつけの産婦人科へ相談・受診しましょう。自己判断で市販薬を使っていると水痘に気づかないこともあるので要注意です。

帯状疱疹については、胎児への直接的な影響は極めてまれですが、妊婦さんの発疹部分の痛みや不眠が続くと生活にも健康状態にも支障がでやすいです。やはり抗ウイルス薬を早めに服用することで症状の軽減が期待できるため、妊娠中でも受診をためらわないことが大切となります。

妊活中の予防策:抗体検査とワクチン

妊娠を希望する段階での「確認」と「予防」が、もっとも確実なリスク低減につながります。

まずは過去に水痘にかかったことがあるか曖昧だったり、母子手帳や接種の記録が見つからなかったりする場合、血液検査で水痘の「IgG抗体」を調べることができます(最近の若年成人では、約10%程度の人が抗体を持っていないと推測されています)。これが陰性または不十分な場合は、免疫力が不十分だと考えられるので、ワクチン(定期接種にも使われる水痘ワクチン)で免疫を得ることが可能です。水痘ワクチンの1回の接種により重症の水痘をほぼ100%予防でき、2回の接種により軽症の水痘も含めてその発症を予防できると考えられています。

なお、水痘ワクチンは「生ワクチン」であり妊娠中には接種できないため、妊娠前に済ませておくことが重要です。接種後は一定期間(目安として2か月)は避妊を続け、体調が落ち着いてから妊娠を目指しましょう。授乳中の接種は可能とされています。

そして、男性パートナーも同様に、必要なら接種を受けることで、家庭内での感染拡大リスクを減らせます。さらに、50歳以上や免疫低下のある方には、不活化ワクチンである帯状疱疹ワクチン(いわゆる「シングリックス」)が有効で、2か月間隔で2回、筋肉内に接種します。帯状疱疹の発症と重症化のリスクを大きく減らしてくれます。
若年の妊活世代では、帯状疱疹ワクチンの接種は通常は不要ですが、基礎疾患があるなど個別の事情がある場合は医師と相談してくださいね。

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photo: PIXTA

家庭・職場での注意点

周囲に水痘や帯状疱疹にかかった人がいたとき、まず大切なのは「自分に免疫があるか」を確認することです。妊婦さんや妊活中の方は、発病者との接触を避け、かかりつけ医に相談してみましょう。水痘にかかった患者さんは、すべての発疹がかさぶたになるまで外出を控えます。帯状疱疹の場合は、発疹部を清潔に覆い、他の人が直接触れないようにするだけでも感染リスクを大きく下げられます。

「明らかな曝露」(同じ部屋で一定時間過ごした、家庭内で看病した、発疹や体液に触れた等)があり、かつ免疫がない、あるいは不十分と考えられる妊婦さんでは、状況により「免疫グロブリン(VZIGまたはIVIG)」の投与が検討されます。これは発症や重症化を抑える目的で、曝露後できるだけ早期(通常数日以内、遅くとも10日以内)に行う対処法です。

家庭内では、念入りな手洗い、共用タオルを使わない、発疹部の被覆、こまめな換気と家具等の表面清拭が基本です。職場では、患者さん側は医師の指示がある間は出勤を控え、同僚は発疹に触れない・触れたらすぐ洗う、といったシンプルな行動を徹底することが重要です。保育園・学校現場・医療機関など、感染ハイリスク者と接する職場にいる人では、免疫状態(抗体)の確認と職場内ルールの整備が感染予防に役立ちます。

抗体検査はどなたでも医療機関で受けられます。もし抗体がない、または十分でない場合は、妊娠前にワクチンを接種しておくことで、母体だけでなく赤ちゃんも守ることができます。女性だけでなく、男性パートナーも含めて検査・接種を検討することが大事ですね。

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男性パートナーも「自分ごと」に

感染症対策は、妊娠を希望する女性だけの問題ではありません。

水痘・帯状疱疹は家庭内で広がりやすく、パートナーや家族の免疫状態、体調管理、生活習慣がそのまま妊婦さんと赤ちゃんの安全に直結します。男性パートナーも、

1. 自分の免疫状況の確認
2. 必要ならワクチン接種
3. 体調不良時に無理をしない
4. 家庭内の予防習慣(手洗い・消毒・換気など)を一緒に実行する

という基本をぜひ押さえてくださいね。

また、帯状疱疹は強い痛みで仕事や家事が滞ることがあり、妊娠中の家庭に想像以上の負担をもたらすことがあります。とにかく「うつさない・長引かせない」配慮が重要です。

カップルで一緒に予防接種歴を見直し、疑問があれば遠慮なくかかりつけ医に相談しましょう。妊娠前から2人でできる「赤ちゃんの健康を守る行動」として、ぜひ本記事の内容を参考にしていただければ幸いです。

【参考文献】
厚生労働省. 水痘.
厚生労働省. 水痘ワクチン.
国立感染症研究所. 『帯状疱疹ワクチン ファクトシート(第2版)』
CDC. Clinical Guidance for People at Risk for Severe Varicella.
産婦人科診療ガイドライン 産科編2023.

重見大介

この記事の執筆医師

産婦人科オンライン代表

重見大介先生

産婦人科

産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。

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