
男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #05
男性目線で考える、HPVワクチンと子宮頸がん予防
「もし娘(やパートナー)が20/30代でがんになったら――」という怖さ
子宮頸がんは20代から増え始め、30〜40代の女性で発症がピークを迎えます。2021年には10,690人が新たに子宮頸がんと診断されました。毎年およそ3,000人が子宮頸がんにより命を落としています。
この病気の90%以上はヒトパピローマウイルス(HPV)感染が原因であることがわかっていて、予防のためのワクチン(小6~高1の女子のみが定期接種の対象で、無料で接種することができます)と、早期発見のための定期検診(基本的に20歳以上)でほとんどが予防可能です。にもかかわらず、日本のHPVワクチン接種率は何年も1桁%台にとどまっていたことが国際的にも問題視されていました。
ただ、2022年に厚生労働省による積極的勧奨が再開され、徐々に接種率が上昇し、最新のデータでは、少なくとも1回目の接種を終えた高校1年相当の女の子は41.9%、対象5学年全体では22.1%に上ることが示されています。
参考記事:HPVワクチン接種率上昇 大切なのは「みんな打ってる」という空気
HPV は“女性だけの問題”ではありません
HPVは性的接触で広がります。皮膚や粘膜の深いところにある細胞にHPVが感染すると、ウイルスの遺伝子が細胞内に入り込み、HPVが勝手に増殖していってしまいます。
つまり、男女ともに感染するリスクが日常的に存在していることを意味しており、実際に性交経験のある成人では、8割以上がHPVに1回以上感染していると推察されています。
そして、HPVは女性だけでなく男性の中咽頭がんや肛門がん、尖圭コンジローマ(性感染症の一種)の一因でもありますし、無自覚にパートナーへ感染を広げてしまうこともあります。
ちなみに、特に中咽頭がんは男性にとって重要で、HPVが原因となるがんのうち、男性の中咽頭がんは女性の子宮頸がんよりも多いという米国の報告さえあります。
以上から、男性自身がHPVワクチン接種を検討することは
①自分のがん予防
②家族や将来のパートナーへの感染リスクを減らす
という二重のメリットがあるんですね。
男性への接種は日本でも2020年に承認されました。具体的には、4価HPVワクチン(ガーダシル)における9歳以上の男性への適応が承認されたことになります。ただ、国としては費用補助のない自費接種というのが現状で、4価ワクチンだと3回セットで約5〜6万円が目安です。(なお、最近では男子への接種にも独自に費用補助をしてくれる自治体が増えています。お住まいの地域での状況をぜひ調べてみて下さい)
より幅広いHPVへの予防効果がある9価HPVワクチンも、自費にはなりますが男性も接種することが可能です。詳しくは、厚生労働省のページをご参照ください。
参考資料:9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(シルガード9)について
安全性に関する科学的データは?
過去に報道された「副反応」問題で、HPVワクチンへの抵抗感が広がってしまいましたが、厚生労働省の最新Q&Aでは、重篤な副反応は1万接種あたり2〜5件程度であり、接種後に見られた症状の大半は時間とともに自然軽快することが確認されています。これは他のワクチンと比較しても、特別に重篤な副反応が増えることはないというのが現状の見解です。
世界100か国超、延べ数億回の投与データからも、重大な安全性に関する懸念は認められていません。科学的根拠に基づく“安心材料”を、まずご自身が理解し、ご家族やパートナーに伝えていただくことはとても重要です。
副反応については、「みんパピ!」の情報ページもご参照ください。
・HPVワクチンの調査・研究で分かった副反応一覧とは?
・HPVワクチンの副反応はどれくらいの確率で起こるのか解説します
男性としてできる4つのアクション!
情報を一次ソースで確認する
厚生労働省や国立がん研究センターなど公的な資料を直接確認し、ネットやSNSの真偽不明な情報に左右されないようにしましょう。ご家族やパートナーと一緒にチェックしてみる、というのも良いですね。
接種タイミングを家族で相談
小6〜高1相当の年齢の女子は定期接種の対象なので、無料で接種ができます。定期接種年齢を超えてしまうと大きな自己費用負担が発生するため、お子さんがいる場合には、小6〜高1の間に“いつ、どうするか”をぜひ検討してみて下さい。
参考資料:高校1年相当の女の子と保護者の方へ定期接種最終年度のご案内(厚生労働省)
自身のワクチン接種を検討
まだ性行為の経験がない男性であれば、自費ではあるものの、ワクチン接種による高い感染予防効果を期待できます。ぜひお近くの内科や産婦人科、泌尿器科で相談してみて下さい(事前にHPVワクチンの相談が可能か電話で聞いてみることをお勧めします)。
職場環境を整える
例えば、人事部と連携し、子宮頸がん・HPVワクチンに関する啓発企画や、柔軟に取得可能な休暇制度、婦人科検診への補助を導入することは、職場の特に若年世代への波及効果も大きいはずです。最近では、そういった取り組みを推進している職場も増えていて、私も企業等から講演や監修依頼をいただくことが増えています。ぜひ、「健康にプラスの職場」を作っていただければ幸いです。
【参考文献】
1. J Natl Cancer Inst Monogr. 2003; 31: 3-13.
2. 厚生労働省. 小学校6年~高校1年相当の女の子と保護者の方へ大切なお知らせ(詳細版).