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笑顔で勉強し合う子供たち

男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #20

性教育で子どもに伝えたい「スキル」とは 〜包括的な教育解説シリーズ(5)〜

 

子どもが安心して成長するためには、知識だけでなく「人との関わり方」を学ぶ機会が欠かせません。とくに思春期は、友人関係・恋愛・SNS利用などが一気に広がり、うれしい経験もあれば、誤解やトラブル、傷つくことも起こりやすい時期です。そして、反抗期が重なってくる時期にもなります。

だからこそ家庭では、「正解」を教え込むよりも、気持ちの尊重・安全を守る・相談できる関係性などを日常の中で育むことが、将来のリスク予防にもつながるはずです。

本シリーズ記事では、今の時代に求められる包括的な性教育について、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(文献1)をベースに分かりやすく解説していきます。

編集部注:国際セクシュアリティ教育ガイダンスの日本語版はこちらからご覧いただけます

本ガイダンスには、8つのキーコンセプトが含まれ、いずれも思春期に学び、考えるべきものになっています。

今回は、「キーコンセプト5:健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル」です。

どのような内容か

友達と握手をするティーンエイジャーのイラスト

ガイダンスで示されるキーコンセプト5では、性や人間関係をめぐる場面で、子どもが自分を守り、他者も尊重しながら選択できるようにする「スキル(ライフスキル)」を扱っています。

内容は以下の5つのトピックで構成されています。

5.1 性的行動における規範と仲間の影響
5.2 意思決定
5.3 コミュニケーション・拒絶・交渉
5.4 メディアリテラシー、セクシュアリティ
5.5 援助と支援を見つける

これらのトピックは、別々のように見えて、実は一連のものとしてつながっています。

クラスや友人、SNSの雰囲気(5.1)に流されそうになったとき、立ち止まって考える(5.2)。嫌なことは嫌と言い、相手の嫌も尊重し、必要なら交渉する(5.3)。さまざまな情報の意図や影響を読み取り(5.4)、限界を感じたら助けを求める(5.5)。

この流れを家庭で繰り返し練習できると、子どもは学校・部活・恋愛・オンラインなど、さまざまな場面で「自分を守る行動」を取りやすくなるはずです。

また、ここで大切なのは、「正しい情報を知る」ことだけでは不十分だ、ということです。
たとえば「危ないと分かっているのに断れない」「困っているのに相談できない」という状況では、知識を持っていても実際に解決できず、結果として良くない方向へ進んでしまいます。

①「ピアプレッシャー」の解像度を上げる

大勢の周りの意見にさらされる人形

子どもにとって友人やクラスメートは大切な存在で、良い影響もたくさんあります。
一方で、「みんなやってる」「断ると仲間外れにされる」などの圧(ピアプレッシャー)が、望まない選択につながることもあります。

ガイダンスでは、低年齢からピアプレッシャーの意味を理解し、良い影響・悪い影響の例を挙げ、対抗する方法を試すことが示されています。

さらに学年が上がると(9〜15歳)、周囲にいる人(友人やパートナーなど)が自分の意思決定や行動に影響することを理解し、その影響に問題意識を持つべきだと書かれています。

家庭でできることとして重要なのは、周囲にいる人の影響を「悪いもの」と決めつけないことです。実際、良い影響もたくさんあるはずです。
友人やパートナーなどの価値は尊重しつつ、「雰囲気やプレッシャーで決める」ことと「自分の意思で決める」ことは全く違う、と伝えていきましょう。

そして、親が「そんな人とは仲良くしないで」などと「周囲との断絶」を求めるほど、子どもは本音を隠してしまう懸念が生まれます。そうではなく、周囲からのピアプレッシャーを感じたときの「逃げ道の言葉」をお子さんと一緒に考えてみることをおすすめします。

【家庭でできること】

「みんな」を分解する
 (誰が?何人が?本当に?と事実を詳細に確認する習慣を持たせる)
周りからの誘いを断るための言葉を用意しておく
 (例:「今日は用事があるから帰る」「親が厳しいから」でもOK)
良い友人の基準を言語化する
 (一緒にいて安心できる、無理強いしてこない、など)

②「その場の雰囲気」から一歩引くために

勉強する赤い服を着た女の子のイラスト

意思決定は才能ではなく、練習で誰でも上達させられるスキルです。
性や人間関係の場面では、焦り、好意、怖さ、同調圧力などの感情が強くなる場合があり、判断がどうしてもブレやすくなります。
家庭で教えたいのは、正解よりも「どう考えるか」ですね。

おすすめは次の4ステップです。

止まる
 (深呼吸・その場を離れる・即答しない、など)
考える
 (自分はどうしたい?そうすることのリスクは?相手は尊重してくれている?)
選ぶ
 (できれば「安全側の選択肢」を増やす)
振り返る

性的行動における意思決定の際は、可能性のあるポジティブ・ネガティブな結果を全て考えられるか、が重要です。そのためには、情報収集や事前知識も不可欠になります。
さらには、15〜18歳以上では、性に関わる意思決定には法的責任が伴う可能性があることを知る必要があると、ガイダンスでは述べられています。

なお、もしお子さんが何かの失敗や相談を話してくれたとき、「だから言ったのに」「自分が悪いでしょ」と瞬間的に言葉をかけてしまうのはやめましょう。
「次に備えるための考える機会」にすることが、子どもの意思決定力を育てます。

【家庭でできること】

「即答しなくていい」を許容する
 (返事を保留するための練習)
「安全側の選択肢」を複数用意する
 (断る・その場を離れる・大人に相談、など)
振り返りでは本人を責めない

③嫌と言うこと、相手の嫌も尊重することの大切さ

イエス、ノーの面が出たサイコロ

「嫌と言えること」は、自分を守るだけでなく、相手を傷つけないためにも必要です。
ここで大切なのは、攻撃でも我慢でもない「アサーティブ(自分と相手を尊重しながら主張する姿勢)な伝え方」です。
そして、正解は一つではなく、希望やニーズ、個人の境界線を伝え、理解することも重要となります。

(例)
拒絶:「それは嫌。やめて。」
代案:「今日は無理。明日は少しならいいよ。」
境界線:「スマホは見せない。困ったときはちゃんと相談する。」

また、交渉には「力の差」が影響します。
年上、人気者、先輩後輩の関係、グループの中心人物、体格が大きいなど、相手が強いほど断りにくい状況になりやすいです。
だからこそ家庭では「断れなくても自分を責めなくていい。周囲に助けを求めていい。」を先に伝えておくことが重要です。

【家庭でできること】

家庭内で「断っても関係が壊れない」体験を増やす
嫌がるサイン(黙る・固まる・笑ってごまかす)も尊重する習慣を作る
交渉が難しい相手であるほど、家族や第三者に頼ってよいと伝える

④メディア情報の意図と影響を考える

PCやSNSから発信する広告のイラスト

性や恋愛、見た目に関する情報は、テレビ、広告、娯楽、ウェブ記事、SNSなどの文脈で増幅されやすく、誇張や偏りも混ざります。非現実的な情報はボディイメージのゆがみにつながりますし、偏った情報はジェンダーバイアスにもつながります。

子どもに必要なのは「正誤の判定」だけでなく、「その情報が自分の気持ちや行動にどう影響したか」をチェックするスキルです。

チェックするには、以下の3つの問いを自分にしてみると考えやすいでしょう。
誰が得する?(売りたい会社、注目を集めたい人、支配したい人、など)
根拠は?(出典、数字、専門家の意見、経験談の扱いなど)
自分はどう感じた?(不安、焦り、劣等感、期待、安心など)

親がテレビや雑誌、広告などへ思うことを普段から言葉にすると、子どもも隠さず意見や感想、気持ちを話しやすくなるかもしれませんね。

なお、誹謗(ひぼう)中傷や名誉毀損(きそん)について、自分がそのような投稿をしなくても、SNSでの再投稿などで拡散した場合にも名誉毀損罪や侮辱罪などに問われたりする可能性があります。(文献2)
匿名だからといって何を言ってもいいわけではないですし、技術的に発信者はほぼ特定できるんだ、ということを知っておく必要があります。

【家庭でできること】

「見た内容」を叱らず、「どう思った・感じた?」から聞いてみる
家族で上記3つの質問を共通の話題にする
情報を拡散する前には必ず一呼吸置くように伝える(次の日まで保留するなど)

⑤助けを求められることは立派なスキル

HELPという文字が書かれたスケッチブック

最後に、もっとも重要なのが「支援につながる力」です。

相談することは弱さではなく、自分を守るための大切な選択です。
家庭で「言いにくいことほど、相談・報告していい」と普段から伝えられると、子どもは孤立しにくくなります。

相談先は家庭内だけに限定されません。
学校(担任、養護教諭、スクールカウンセラー)、地域の相談窓口、医療機関、電話やSNSの相談など、複数のルートがあることが本人の安心につながります。
ガイダンスでは、9〜12歳の時点で、学校だけでなく外部のコミュニティや相談窓口についても知っておくべきだと書かれています。

そして、「親にどうしても言えないときは、他の大人でもいい」と伝えておくことは、親の立場を弱めるのではなく、子どもの安全性を高めるために必要なことだと、ぜひ覚えておいてください。

【家庭でできること】

「親に言いにくいときは他の大人でもOK」をあらかじめ伝えておく
相談先を一覧化して、いつでも見られる形にしておく
相談があったときは、叱るのではなく「安全確保→次にどうするか」を一緒に考える

⑥年齢別に伝えておくべき要素のまとめ

電球のイラストがかいたスケッチブック

年齢別にどこまで話すかのイメージを再確認しておきましょう。

5〜8歳

・断る言葉
・助けを呼ぶ行動
・良い触れ合い・悪い触れ合いの違い

9〜12歳

・うわさ・からかい・同調圧力の影響や怖さ
・メディアやSNS、ウェブ世界の基本
・プライバシー

12〜15歳

・パートナーを含む他者との境界線
・画像共有・拡散のリスク
・困った際の相談先や相談のしかた

15〜18歳以上

・交渉スキル
・リスク判断と意思決定力
・性行動における法的問題
・支援へのアクセス

年齢はあくまで目安です。実際は「その子が今いる環境」に合わせて前後します。
大切なのは、生きていく上で必要なスキルを「使える形(スキル)」で身につけてもらうことです。

以上、包括的な性教育における「キーコンセプト5:健康とウェルビーイング(幸福)のためのスキル」について知っておきたいポイントを紹介しました。

キーコンセプト5の意義は、「子どもが自分を守りながら人と関われるようにすること」です。お子さんが「いざ」というとき、一人で抱え込み孤立してしまわないよう、日頃から家庭でもできることをぜひチャレンジしてみてくださいね。
知識を得るだけでなく、実践経験を積み重ねることも大切です。

ぜひ、本記事をご家庭や学校等でご活用いただければ嬉しいです。

*私のニュースレターでも性教育の参考になる記事を配信しています。ご興味があればぜひ読んでみてください。
性教育シリーズ(4) 〜自分を守るためのパーソナルスペースとプライベートゾーン〜

<参考文献>
WOMEN, U. N., et al. International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach. UNESCO Publishing, 2018.
政府広報オンライン. あなたは大丈夫?SNSでの誹謗中傷 加害者にならないための心がけと被害に遭ったときの対処法とは?
 

重見大介

この記事の執筆医師

産婦人科オンライン代表

重見大介先生

産婦人科

産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。

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