日々是好日 乳がん

【ピンクリボン月間】特別体験談:乳がん(後編)

倦怠感、吐き気、脱毛、静脈炎…カメラマン女性が乳がん治療の苦しさに負けそうになりながらも耐え抜けたワケ

乳がんが発覚してから、たった1か月の間に目まぐるしく検査、抗がん剤治療へと進んだCHOCOさん。最初はそれほどでもなかったけど、どんどんとしんどさが増していって……。

今年2月、友人で漫画家の小川かりんさんと共作したコミックエッセイ『日々是好日(にちにちこれこうじつ)~39歳フリーランスカメラマン乳がんになる』を発表した、CHOCOさん。乳がんの発見から治療に至るまでの話を詳しくお聞きしました。
(この記事は全2回の2回目です。1回目の記事はこちら

抗がん剤治療のスタート

2023年7月31日、抗がん剤治療をスタートすることに決めたCHOCOさん。血液検査をして体調などに問題ないのを確認してから「化学治療室」へ。

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『日々是好日』より引用  ©︎小川かりん

「リクライニングチェアに座って、1時間半かけて4本の点滴をしました。1本目はアレルギーや吐き気を予防する薬、2本目と3本目は抗がん剤、4本目は抗がん剤を洗い流すための生理食塩水。看護師さんが細やかに気遣ってくださったので不安なく終えられました」

そして、最後に副作用を予防して白血球を増やす薬を投与するためのデバイス「ジーラスタボディポット」を装着。通常、抗がん剤治療は3週間に一度が多いのですが、トリプルネガティブタイプの場合は2週間に一度のペースで行うため、白血球の回復を促す必要があるとのことでした。

「翌日からは副作用でダウンしました。最初は倦怠感から始まって発熱し、胃がムカムカするといった症状が4日間ほど続きました。特につらかったのは3日目と4日目でした。人それぞれ違うと思うんですが、私は吐き気よりインフルエンザのような倦怠感とめまい、節々の痛みで動けなくなりました。トイレにも四つん這いで通ったくらいです」

5日目になると、目が覚めてすぐ副作用が軽くなっていることに気づいたCHOCOさん。ただ、すぐに元気になるという感じではなく徐々にだったこと、ふらつきが残ったりしたこともあり、スタジオを閉めると決めてよかったと思ったそうです。

抗がん剤投与から12日後の8月12日のこと。お風呂に入っていたCHOCOさんは脱毛が始まったことに気づきました。なんだか頭がチクチクし、とにかく髪を触れば触るほど抜け落ちるので掃除が大変だったそうです。

8月15日からは、抗がん剤治療の2クール目がスタート。初回と同じく3〜4日目につらさのピークがあり、5日目に回復の兆しが見えるといった感じ。そうして回復するや否やCHOCOさんが真っ先にしたことは「断髪式」でした。

「夫にバリカンで丸坊主にしてもらい、子どもに動画を撮ってもらいました。もうどんどん抜ける量が増えるので困っていたし、さっぱりして気が楽になりました。ただ坊主になっても髪は抜けるので、よくカーペットクリーナーをコロコロと頭にかけていました(笑)」

そして、せっかくなのでさまざまなウィッグを楽しむことに。ウィッグには、約5千円程度のファッション用、8千円〜1万円くらいの医療用がありますが、やっぱり医療用のほうが着け心地がよかったとのこと。

「医療用は肌にあたるメッシュの部分がソフトで生え際が自然だったり、着け心地も軽くてとても工夫されていて、すごくよかったです。医療用だとファッション用に比べて地味なものしかないかと思ったんですが、おしゃれなものもありました」

日々是好日 フリーランスカメラマン 乳がん ウィッグ 医療用ウィッグ
『日々是好日』より引用  ©︎小川かりん

ただ、いずれにしても、意外と頭皮がむれてかゆくなったり、においが気になることもあったので、内側にはメッシュキャップをかぶるのがおすすめだそうです。

「私は、友人の尼さんが勧めてくれた『CoCoLo』の医療用帽子・薄手ガーゼコットンインナーキャップを愛用していました。また真夏はウィッグではなく、頭にターバンを巻いてエスニックファッションを楽しんだりも。蒸れないのでおすすめです」

「アピアランスケア」で前向きに

その後、8月28日からは抗がん剤治療の3クール目を開始。がんが小さくなっていたこともあり、インフルエンザのような副作用のあるジーラスタをやめて3週間おきの投与に変え、抗がん剤で免疫が落ちる期間は人混みを避けて感染症にかからないよう気をつけることにしたCHOCOさん。

ジーラスタをやめたことで、3クール目は副作用が軽く、割と元気に過ごせていましたが、また次の問題が。それは抗がん剤を打っている右腕の静脈炎です。

「右腕の静脈炎が悪化して、一時期は指もまともに動かせないほどパンパンに腫れ、家事をするのもつらい状態に。それ以外にも味覚障害や体力の低下、口の渇きもひどくなってきて、爪は黒ずみ、眉毛やまつ毛まで抜けてしまったんです」

前向きなCHOCOさんは、つめにはマニキュアを塗ったりシールをはったり、眉は眉ティントと極細ライナーで描いたりしたそうです。こうした外見の変化による苦痛を軽減するケアを「アピアランスケア」といいますが、明るい気持ちになれたといいます。

それでも、抗がん剤治療は回を重ねるごとに副作用がきつくなり、右腕は静脈炎でシャワーが当たったくらいでも痛みを感じるようになり、どんどんと気力を奪われる思いがしたそう。しかし、家族とぶつかりながらも支えられて、気力を保つことができたといいます。

一方、仕事はというと、9月いっぱいでスタジオを閉め、10月からは以前勤めたことのある会社に接客担当のアルバイトとして勤務することに。気心の知れた人たちと働けること、経済的な不安がなくなったのがありがたかったそうです。

こうして前半4クール、後半6クールの抗がん剤投与を12月14日に終えたCHOCOさん。1カ月後には、手足の痺れが軽減し、髪もうっすら伸び、味覚障害がなくなりました。

「つらかった抗がん剤治療が終わり、年末年始は久しぶりに味覚が戻って美味しいものを堪能できてとても嬉しかったです。ただ、後半の抗がん剤投与は検査数値がよくなかったために12回の予定が6回で終わったので、少しだけ心配でした」

次は手術です。2024年1月16日に入院、17日には左胸に「乳房全切除術」が行われることになりました。手術前、どのような気持ちだったかというと……。

「じつは私ずっと医療ドラマが大好きで、ちょっと不謹慎なんですが、全身麻酔を受けてみたかったということもあって、じつは手術自体は抗がん剤治療と違って怖いとは思っていなかったんです。むしろ、ワクワクする気持ちで入院しました」

旦那さんと息子さんはCHOCOさんを心配しながらも「はしゃがないように」と笑いながら注意をしたほど。一方で、やはりCHOCOさんのご両親はすごく心配していました。

「両親から頻繁に連絡が来たのですが、なぜか当初も手術前も当事者である私が慰める側になってしまって……(笑)。これは結構つらかったですね。年齢的に仕方ないのでしょうけど、本当は私が慰めてもらいたかったです」

手術当日。約2時間ほどで手術は無事に終わり、気づいたらベッドに戻っていたCHOCOさん。医師から転移は見られなかったと聞きました。

日々是好日 フリーランスカメラマン 乳がん 手術 術後
『日々是好日』より引用  ©︎小川かりん

「手術した部分は痛みましたが、思ったほとではありませでした。ズキズキと痛む程度。また、これは個人差が大きいと思うのですが、私はあまりバストにこだわりがなかったので喪失感もあまりありませんでした。もともと大きくなかったせいもあるかもしれません」

術後の回復は順調で、1月23日に退院。2月9日には病理検査の結果が出て、主治医からがんの痕跡が確認できない「完全奏功」と聞き、心からホッとしたといいます。

「もちろん、がん細胞がなくなったとは限らないので、これからも10年程度の経過観察が必要です。しばらくは半年ごと、そのうちに1年ごと、ということになります。長い付き合いなんですよね。ただ、日常生活へ戻れることを嬉しく感じました」

コミックエッセイ『日々是好日』公開へ

CHOCOさんは、退院2週間後からアルバイト先での仕事を再開。体力や握力が落ちていたので、少しずつ運動したりして、今では撮影の仕事も再開できました。

「何人ものお客さんが『待ってました!』と撮影を依頼してくださって、本当につらい治療をして元気になってよかったと思いました。スタジオはなくなったけど、カメラ機材があれば撮影の仕事は続けられます」

そして、2025年2月7日からは、友人で漫画家の小川かりんさんと共作した『日々是好日(にちにちこれこうじつ)〜39歳フリーランスカメラマン乳がんになる』という乳がん闘病コミックエッセイの公開をスタート。

「乳がんだとわかったとき、いろいろ調べたんですが、わかりやすい体験談がなかったんです。そこで、かりんちゃんと一緒にリアルな治療の流れや様子、お金のことまで網羅した漫画を作りました。同じ乳がんになった女性の参考になれば……という思いです」

じつは、小川かりんさんは病院に同行していたそう。だから、CHOCOさんが体調が悪かったり、つらい気持ちだったりして覚えていないことも、メモや録音という形で残されていて、よりリアルな内容になったといいます。

「しかも、かりんちゃんがコミックエッセイという形で描いてくれたおかげで客観性も加わり、より読んでいただきやすくなったと思います。また、各回ごとにエッセイでの補足もあります。どのくらいお金がかかったかも書いてあるのでぜひ参考にしてください」

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『日々是好日』より引用  ©︎小川かりん

最後に読者のみなさんへのメッセージをお聞きしたところ、次のように話してくれました。

「家族や親族に乳がんになった人がいなくても、乳がんになることはあります。実際、私もそうでした。これまで大丈夫だったから、自分だけはがんにならないだろう、といった正常性バイアスには注意してください。40歳からは2年に一度のがん検診を必ず受け、それ以外ではセルフチェックをして、少しでも異変を感じたら必ず早めに病院を受診することが大切だと思います。ぜひ早期発見、早期治療を心がけてくださいね!」

 

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<Instagramもぜひチェック!>
CHOCOさん https://www.instagram.com/choco_phototime/
小川かりんさん https://www.instagram.com/ogawacarin/

 

小西孝明【監修者】

外科専門医、乳腺認定医、医学博士。千葉大学を卒業後、日本赤十字社医療センターの外科で臨床経験を積み、東京大学大学院では医療ビッグデータを用いたがんや外科治療に関する臨床疫学研究により博士号を取得。より良い医療を患者さんに届けるため、現場の視点を重視した研究によるエビデンス創出、さらに患者さん・医療従事者に向けた正確で分かりやすい医療情報の発信に力を入れている。趣味は鉄道旅行。

 

大西まお

編集者、ライター。出版社にて雑誌・PR誌・書籍の編集をしたのち、独立。現在は、WEB記事のライティングおよび編集、書籍の編集をしている。主な編集担当書は、宋美玄著『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK』、森戸やすみ著『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』、名取宏著『「ニセ医学」に騙されないために』など。特に子育て、教育、医療、エッセイなどの分野に関心がある。

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