
crumiiスペシャル対談 #1
大事なのは「楽しく読めること」産婦人科医やっきー先生がやって来た! デマに負けない正しい知識の伝え方とは?
SNSに溢れる医学デマ。特に女性のヘルスケアに関する情報は、根拠のない「自然派」思想や商業的な宣伝が混在し、正しい判断を困難にしています。
そんななか、産婦人科医として正確な情報をユーモラスに、ときに猟奇的なしつこさで発信し続けるやっきー先生が、新著のイベントで東京に来るらしい!ここぞとばかりにお話を伺ってきました。
ブログ、Letter、note、X、Instagram…あらゆる媒体を使いこなすシロクマ産婦人科医
半年間、命を削って書いた単著『産婦人科の質問箱 アレはホントにマジなのか』がついに発売開始となりました!
— 産婦人科医やっきー (@yacky_sanfu) September 23, 2025
おかげ様でさっそく紀伊國屋書店で医学書の週間1位、Amazon産婦人科カテゴリで1位を獲っています🐻❄️
産婦人科医として知っておいてほしい知識を詰め込みました。https://t.co/jemnhAWWxS
新幹線でやって来た、クマじゃないやっきー先生。どうやら本当に実在していたらしい。見た目がクマっぽいわけじゃないのに、ぽわんと物腰の柔らかい雰囲気がアイコンそのまんまです。
編集部:まずは出版おめでとうございます。情報発信活動についてお聞きしたいのですが、やっきー先生は発信を始めてどのくらいになりますか?
やっきー先生(以下、やっきー):ブログ自体は2022年からやってますが、去年の6月からLetterで本格的に発信を始めて、1年3ヶ月くらいになります。Letterだと今、登録者が3万人弱ぐらい、サポートメンバーが300人ぐらいですかね。更新は大体10日〜2週間に1回ぐらいのペースでやっています。今年の3月からはnoteも始めました。
宋先生(以下、宋):Letterとnoteってどう使い分けてるの?
やっきー:Letterは医学の解説に特化した記事を書いてます。医療者が見ても納得してもらえるくらい、内容の正確性にはこだわってますね。これに対してnoteはまさに『雑記帳』という扱いでして、日記や昔の思い出の話なんかを書いたり、ブログやLetterの無料で読める部分ではとても書けないような内容を書いたりといった使い方もしています。
男性産婦人科医として発信することの難しさ
宋:とはいえこの業界、男性の産婦人科医って風当たりが強かったりするじゃない。男性産婦人科医として発信する大変さはある?
やっきー:まさにそれ、今日重見先生と語ろうと思ってたんですけど、男性産婦人科医って時点で、良く思わない人は絶対いるんです。だからこそ、医学的に妥当性のある内容を発信しよう、というスタンスでやってます。やっきーというキャラクターが好き放題言えるキャラなので、その代わりちゃんとしたことは言います、っていう感じですね。
宋:めっちゃわかるー、まともに淡々というの、大事。私も昔、婦人科特定疾患管理料ができた時に、「女性に生まれただけで罰金かよ」みたいに言われたことがあるんだけど。
でも実際は、男性に多いメタボにも管理料がついてるし、これは国が丁寧に見ろという指示なんですよと。婦人科の保険点数が低くて採算が取れないから誰も診ようとしない、逆に女性を守るものなんだよということをブログに書いて説明したことがある。今もう放ったらかしにしてるけど、かつてのブログ。笑
産婦人科の道に進んだ理由は?
編集部:そもそも産婦人科を選んだのはなんでだったんですか?もともと決めていた?
やっきー:いや、ぶっちゃけ全然考えてなかったですね。医師になったときにいくつか候補にしてた科の中には入ってなかったです。
国家試験合格後の初期研修で色々な科を回っていたときに、総合的におもしろくてハマっちゃった、というのが正直なところですね。これといったエピソードがあるわけじゃないんですけど。オペもできる、分娩も携われる、診療としての幅の広さや、生理痛の改善とか、疾患を抱えてマイナスになっている人を普通に戻すだけじゃなくて、目に見えてハッピーにできるので。
偽医学を笑い飛ばせ!ユーモアで伝える正しい医療知識
宋:SNSやnoteでは、トンデモ医学情報に面白おかしくツッコミを入れまくってるけど、あのネタってどうやって見つけてくるの?
やっきー:ひとつは普通にSNS見ててたまたま観測したりとかですね。普段からトンデモアカウントばかりリサーチしてると、アルゴリズムが教えてくれるんで、それを拾ってます。あと最近は読者の方々のタレコミとかもあります。先生こんな人いるんですけど!みたいな通報が来ますね(笑)。
宋:取り扱うかどうかを決めるポイントは?
やっきー:シンプルにイジって面白いかどうかと、その時ヒマかどうかですね(笑)。最近だと、こんにゃくを温めてタオルに巻いて下腹部に当てると「子宮のデトックス」ができるって発信してる人がいたりして、面白すぎてこういうのはめっちゃいじりがいがあります。いや、素直に食おうよ、こんにゃくなんだから(笑)。
産婦人科の仕事と情報発信の両立
宋:とはいえ、医療情報って裏取りも必要だし、職場も総合病院ということはお産もやってるんでしょ? めちゃくちゃ忙しいんじゃないかと思うけど、情報発信に使う時間はどうやって確保してるの?
やっきー:そうですねー、うちはお産もそれなりにとってますが、周産期医療センターとかじゃないので、職場環境がかなり恵まれてるというのが大きいですね。当直はありますけど、産婦人科の医師がそもそも少ない病院なので、患者さんに迷惑をかけないように外来は身の丈に合った人数で回してます。勤務スケジュールによってはまともな時間に帰れることもありますし、深夜の時間帯にまとめて執筆や調べ物に割く時間を頑張って作ってます。
やっきー先生が、新著で伝えたいこと。
宋:せっかく来てくれたので、新著「産婦人科の質問箱 アレはホントにマジなのか」について聞きたいんだけど、これ、南山堂っていう出版社から出してるけど、南山堂ってバリバリの医学系出版社だよね?
やっきー:そうなんです! 医学系出版社だけど、編集さんが私の発信に理解のある方で、価格も含めて一般向け書籍になるよう頑張っていただいたんですよ。
とにかく今、女性にこれだけは勘違いして欲しくない、知っておいて欲しい、と思うことを徹底的に詰め込んであります。
宋:確かに、満遍なく網羅的に書いてあるよね。私も診療でよく聞かれるし、ピルが低用量化してきた歴史とか、製薬企業の事情、検診のコスパなんかにも触れてあって読みやすいし、患者さんすごく安心できると思う。
やっきー:おーありがたいですね。自分の専門は女性医学なので、臨床の現場でも、生理痛が楽になって良かったとか、そういう患者さんの声を聞けるのが嬉しい瞬間かな。
この本で大事にしたのは、女性医学分野のピルの話、それと月経のコントロール。それからワクチンの話全般ですね。偽医学の餌食にならないようにしてほしいんです。偽医学とスピリチュアルは相性がいいので。
宋:この本で一番伝えたいことは? 私も経験あるのでわかるけれど、本の執筆って正直めちゃくちゃ労力かかるやん? 今回はnoteとかLetterがベースだと思うから、ゼロイチじゃないとは思うけど。
やっきー:いやいや、それでも十分大変でしたよ! まずは楽しんでもらって、そのついでに医学の知識を持って帰ってもらえればと思って。
これは私の普段の医療発信のスタンスでもあるんですが、「まずは記事を楽しんでもらって、そのついでに医学の知識を持ち帰ってもらう」という意識をこの本には詰め込みました。誰にでも興味深く読んでいただける内容になっていますので、まずは楽しんでほしい、というのがこの本で一番伝えたいことです。
面白いことも読者の反応があってこそ。表現としての情報発信
宋:いやあ、すごいな、エネルギー。情報発信のモチベーションになっているのは?
やっきー:やっぱり需要があることと、医療の世界には正しい知識を分かりやすく伝える人が足りない、という危機感もありますね。
宋:わかる。実際、メディアもこれだけ多様化している中で、ネット上の声によるミスリードを検知して修正する人が必要だと思う。それで政策が動いてしまうほど、今は政治家もSNSの声に敏感になっているし。
例えば、子どもたちの世代に、少しでも今より良い未来を残したい、とか、特に強い原動力になってるものはある?
やっきー:もちろんそれもひとつです。でもそれだけじゃないかなぁ。昔から表現するのが好きで、物書きになってみたいっていう願望はあったんですよ。でもそういうのって、反応があるからこそ面白いと思うんですよね。
SNSだと、読者の方からのタレコミや質問に答えることで、コミュニケーションと自分の表現の両方が成立するじゃないですか。
そういう欲求と自分が提供できる専門性が結びついて、うまく回ってるって感じですかね。
宋:いいね。仕事を面白がれるの大事。crumiiでの活動にも、引き続き協力をお願いします! 今日はありがとうございました。
やっきー:こちらこそありがとうございました!
SNSに氾濫する医学デマに対抗し、正確で分かりやすい情報発信を続けるやっきー先生。
見た目は確かに人間だったけど、中身は優しいシロクマさんそのもの。
マンガ「ふたりエッチ」の72巻分の営みを数えて検証し、主人公が不妊症かどうかチェックするレベルの変態性を兼ね備えた、おもしろくていい人でした。
この日は重見先生との対談や、産婦人科医仲間との飲み会も控えているそうで、ウキウキ宿泊先へ。
その活動の集大成ともいえる新著は、女性の健康について正しい知識を身につけたい全ての人におすすめ。皆さんもぜひ読んでみてくださいね!!

著者:産婦人科医やっきー
医学的根拠に基づいた産婦人科の疑問への回答集。ピル、月経、ワクチンなど女性の健康に関わる重要なトピックを、やっきー先生の軽快な語り口で分かりやすく解説した、偽医学に惑わされない知識が身につく一冊。