男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #18
「ジェンダー」についてどう伝えていく? 〜包括的な教育解説シリーズ(3)〜
子どもが安心して成長するためには、知識だけでなく「人との関わり方」を学ぶ機会が欠かせません。とくに思春期は、友人関係・恋愛・SNS利用などが一気に広がり、うれしい経験もあれば、誤解やトラブル、傷つくことも起こりやすい時期です。そして、反抗期が重なってくる時期にもなります。
だからこそ家庭では、「正解」を教え込むよりも、気持ちの尊重・安全を守る・相談できる関係性などを日常の中で育むことが、将来のリスク予防にもつながるはずです。
本シリーズ記事では、今の時代に求められる包括的な性教育について、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(文献1)をベースに分かりやすく解説していきます。
※編集部注:国際セクシュアリティ教育ガイダンスの日本語版はこちらからご覧いただけます
本ガイダンスには、8つのキーコンセプトが含まれ、いずれも思春期に学び、考えるべきものになっています。
今回は、「キーコンセプト3:ジェンダーの理解」です。
年齢別にどこまで話す?「ゴール」から考えてみよう
ジェンダーとは、社会によって作り上げられた「男性像」「女性像」のような男女の別を示す概念を指します。日本語では「社会的性別」と訳されます。
同じ「ジェンダー」というテーマでも、年齢によって目指す理解のゴールは異なります。
ガイダンスでは、たとえば低年齢(5〜8歳)で「セックスとジェンダーの違いを説明できる」ことを挙げています。
その上で、学年が上がるほど「社会の規範がジェンダー役割をどう形づくるか」へと広がります。

年齢別にどこまで話すかのゴールは、以下のようなイメージを持ってみてください。
・5〜8歳
決めつけに縛られない
ジェンダーに伴うからかい・暴力は良くないことを理解する
・9〜12歳
ジェンダーアイデンティティの意味を理解する
ジェンダー不平等やジェンダーステレオタイプの怖さを知る
・12〜15歳
ジェンダー規範は人生に大きく影響することを理解する
ジェンダーによる恋愛や性的行動への影響を知る
・15〜18歳以上
自他のバイアスに対抗する
親密なパートナーからの暴力について知る
「難しいことを完璧に教える」よりも、その年齢において必要な安全と尊重を守ることが目的だと考えてみましょう。
①「セックス」と「ジェンダー」を分けて考える
まず大切なのは、「身体的特徴としての性(sex)」と「社会や文化の中で期待される役割・ふるまい(gender)」を区別することです。
5〜8歳の段階から、セックスとジェンダーの違いを説明できることが学習目標として示されています。
家庭でのポイントは「規範は絶対ではない」と伝えること。
例えば「泣くのは弱い子」「リーダーは男性がやるもの」「家事は女の人がやるのが普通」などの決めつけは、子ども自身にも、周囲の子にも考えのゆがみを生みますし、さまざまなストレスや負担をかけます。
選択肢を広げるような関わりが、将来の自己肯定感やチャレンジの土台になるはずです。

【家庭でできること】
・「〜だから」を言い換えてみる(例:「男の子なんだから〜」→「あなたはどうしたい?」)
・家庭内の役割を性別で固定しない(家事・送迎などを性別ではなく状況で割り振る)
・子どもの「好き」を肯定する(服装・遊び・学びなどの選択を大人がからかわない・変だと決めつけない)
②ジェンダーの不平等に気づき、対等な関係性を学ぶ
ガイダンスは、5〜8歳でも「ジェンダーに関係なくすべての人に平等の価値がある」ことを学び、ジェンダーを理由に不公平・不平等に扱うことは人権に反する、と認識する目標を示しています。
9〜12歳では、ジェンダー不平等や力の差が家族・友人・コミュニティ・社会の中に存在し得ること、そして関係性の中の不平等が深刻な影響(ジェンダーに基づく暴力など)につながり得ることを理解する、とされています。
「平等」は抽象的に聞こえますが、実は日々のやり取りの中で身についていくものです。
意見を言う権利、断る権利、相手を尊重しながら交渉する力。家庭で「対等さ」を考える習慣が身につくと、子どもは学校やSNSでも同じ視点を持ちやすくなります。

【家庭でできること】
・親子の会話で「順番」「意見」を平等に扱う
・「お願い」「断り」「交渉」を練習する(例:「今はxxだから嫌だな」と理由をはっきり伝える、「こうしてくれるととても助かるんだけどな」と依頼する)
・不平等を見つけたら一緒に言語化してみる(例:「これ、どっちかの人が損してると思わない?」)
③ステレオタイプ・バイアスと多様性
ステレオタイプ(固定観念)やバイアス(偏り)は、多くの場合、無意識に起こります。だからこそ、子どもに「正しい答え」を言わせるより、「気づいて修正できる力」を育てることが大切です。
15〜18歳以上の学習目標として、男性・女性に限らず多様な性的指向やジェンダーアイデンティティをもつ人々へのジェンダーバイアスの例を把握すること、自他のバイアスが他者に悪影響を与えうることを理解し対抗することが書かれています。
同時に、「同性愛嫌悪(ホモフォビア):同性愛や同性愛者のコミュニティに対する嫌悪感や偏見」や「トランス嫌悪(トランスフォビア:トランスジェンダーに対する嫌悪感や偏見)」(注:ガイダンス日本語版の表記をそのまま使用しています)が当事者を傷付け悪影響を与えること、そして暴力・強制・差別のない状態で「愛したい人を愛する」ことができるべきだ、ということの理解も含まれます。
家庭では、子どもが誰かをからかったり排除したりする言葉を「冗談」で済ませないこと、そして子ども自身が傷ついたときに安心して話せる空気をつくることを意識してみましょう。

【家庭でできること】
・侮蔑する言葉やからかいを許さない(「それは人を傷つける言葉だよ」と明確に伝える)
・メディアにおける表現を一緒に考えてみる(例:「理想の男性・女性像」はどんな人を排除しているか話し合う)
・大人の「言い直し」を見せる(例:「今の言い方は私の決めつけだったかも、訂正するね」と伝える)
④ジェンダー役割は「意思決定」に影響する
ジェンダー役割は、恋愛・性・将来設計の意思決定にも影響します。
ガイダンスは、ジェンダー不平等や力の差が、性的行動、コンドームの使用、性と生殖に関する健康・医療関連サービスへのアクセスなど、「安全な方法を選び実行する能力」に影響することを理解しよう、という目標を掲げています。
また、恋愛関係はジェンダー役割やステレオタイプによってネガティブな影響を受けることがあり、虐待や暴力がそれらと強く結びつく場合がある、とも述べられています。
家庭では、性の話題を「怖いこと」ばかりにせず、相手の尊厳を守るコミュニケーション(同意、断り方、相談の仕方)として扱うことが重要だと考えます。

【家庭でできること】
・「対等な関係とは何か」を具体例で話す(束縛・監視・脅しは対等ではない)
・「同意はいつでも撤回できる」ことを伝える(途中で嫌になったら止めてよい)
・困った時の相談方法を一緒に確認しておく(学校・医療機関・地域の窓口など複数で)
⑤ジェンダーに基づく暴力をしない・させない
ジェンダーに基づく暴力は、身体的暴力だけでなく、
・言葉
・脅し
・無視
・無理やりな性的行動の要求
・センシティブな画像の拡散
など、さまざまな形で起こり得ます。
ガイダンスは5〜8歳でも、ジェンダーに基づく暴力とは何か、さまざまな場で起こり得ることを伝え、それが不当であること、そして信頼できる大人にどう相談するかを身につけさせる重要性を挙げています。
さらに、ジェンダーやジェンダーステレオタイプに対するひとりひとりの考え方が、差別や暴力も含めて他者をどう扱うかに影響する、と明記されています。
「被害に遭わないように」だけではなく、「起きたときに、どう守り、どう支えるか」、そして「被害を与えないためには」までをセットに考えることがとても重要になります。

【家庭でできること】
・何かの被害を伝えてくれた際にまず本人の安全・安心を優先する(頭ごなしに怒らず、「守る」「信じる」ことを先に伝える)
・SNS上の暴力も歴とした暴力だと教える(脅し・晒し・拡散は「遊び」で済まされない)
・自分の言葉や考えが、友人や相手にとって暴力になっていないか一緒に考えてみる
よくある不安Q&A
最後に、私も親御さんからよく質問を受ける内容について、Q&A形式で整理してみます。
ぜひ参考にしてください。
Q:ジェンダーの話をすると、子どもが混乱しないの?
A:目的は「正解を教える・覚える」ことではなく、「決めつけで誰かを傷つけない」「困ったら助けを求める」ことです。まずは日常の言葉の言い換えや、からかいを止めることからでOKです。
Q:子どもが差別的な言葉遣い・態度をしたら強く叱るべき?
A:線引きは必要ですが、人格否定になると「学ぶための機会」にはなりませんし、自身の中に抱え込んでしまう恐れがあります。「その言葉は人を傷つけると思うけど、どうしてそう思ったの?」と理由を聞き、別の言い方や姿勢を一緒に考えるほうが良いでしょう。
Q:家庭の価値観と学校の説明が違うと感じたら?
A:まずは「子どもの安全」と「人権の尊重(差別・暴力を許さない)」を土台に置きましょう。その上で、家庭では家庭の言葉で補足し、必要なら学校に意図や方針を確認して、対立するのではなく「すり合わせ」をしていくことが建設的だと考えます。
以上、包括的な性教育における「キーコンセプト3:ジェンダーの理解」について知っておきたいポイントを紹介しました。
ジェンダーの学びは、誰かを「特別扱い」するためではなく、すべての子どもが「決めつけ」や「力の差」に押し潰されることなく、自分と他者を尊重できるようになるための基礎作りです。
家庭での小さな言葉の選び方や、対等な関係を練習する習慣が、子どもの人生にとって大きな財産になるはずです。
ぜひ、本記事をご家庭や学校等でご活用いただければ嬉しいです。
*私のニュースレターでも性教育の参考になる記事を配信しています。ご興味があればぜひ読んでみてください。
性教育シリーズ(6) 〜ジェンダーバイアス〜
参考文献
WOMEN, U. N., et al. International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach. UNESCO Publishing, 2018.















