男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #16
「人間関係を学ぶこと」は性教育の土台 〜包括的な性教育解説シリーズ(1)〜
子どもが安心して成長するためには、知識だけでなく「人との関わり方」を学ぶ機会が欠かせません。とくに思春期は、友人関係・恋愛・SNS利用などが一気に広がり、うれしい経験もあれば、誤解やトラブル、傷つくことも起こりやすい時期です。
そして、反抗期が重なる時期でもあります。
だからこそ家庭では、「正解」を教え込むよりも、気持ちの尊重・安全を守る・相談できる関係性などを日常の中で育むことが、将来のリスク予防にもつながるはずです。
本シリーズの記事では、今の時代に求められる包括的な性教育について、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(文献1)をベースに分かりやすく解説していきます。
(編集部注:国際セクシュアリティ教育ガイダンスの日本語版はこちらからご覧いただけます)
本ガイダンスには、8つのキーコンセプトが含まれ、いずれも思春期に学び、考えるべきものになっています。
今回は、「キーコンセプト1:人間関係」です。
①家族には多様な形があることを知る
多くの子どもにとって、家族は生まれたときから「自身の世界の中心」にあるもので、最初に「関係性について学ぶ場」です。
ガイダンスでは、ふたり親、ひとり親、拡大家族、核家族、後見人がいる家庭など、家族の形が多様であることを知り、違いを尊重し、その尊重を表現することまでを学びとして位置づけています。
家庭で大切なのは、「家族はこうあるべき」という枠に当てはめることではなく、「それぞれの“家族”に価値がある」という前提をつくることです。親が多様性を肯定的に語れるほど、子どもは友人や他者の家庭事情(離婚、別居、死別、再婚、養育者の違いなど)にも配慮しやすくなるはずです。
また、思春期以降は妊娠、性被害、性的関係、健康問題など「センシティブな情報」が生じてきます。
そういった情報を開示することによって、人との関係性や家族の役割が変わり得ること、そして困ったことや困難に直面したときに頼れる先があることを理解しておくことが重要だと、ガイダンスには記されています。

【家庭でできること】
・「うちはこうだけど、他の家では他の形もいろいろあるんだよ」と、家族の多様性を伝える
・子どもの秘密とプライバシーを尊重しつつ、「危険なとき、困ったときは大人(親や先生など)に言ってね」と普段から伝えておく(怒らない、否定しないことも重要)
・学校、保健室、自治体窓口、医療機関など「家族の外にある相談先」を一緒に確認しておく
②友情や恋愛などでの「健康的な関係」を知る
人間関係には、友情、親子、恋愛など、さまざまな愛情の形が含まれます。そして、愛情はいろいろな方法で表現できます。
友情は「信頼」「共有」「尊重」「共感」「連帯」に基づくという整理もでき、これらを理解し、実際に言語化してみることがガイダンスにおける学びの目標に含まれています。
保護者の役割は、子どもの交友関係や恋愛を評価・ジャッジすることではなく、「健康的な関係なのか、不健康な関係なのか」を見分ける基準やサインを一緒に考えてみることです。
健康的なサインの例:対等である、境界線が尊重される、安心感がある、意見の違いを話し合える、秘密を強要しない
不健康なサインの例:監視・束縛される、脅される、侮辱される、同意のない接触がある、性的画像を要求される
また、「愛情を示すために性的な行動が必ずしも必要ではない」という点は、思春期において全ての子どもに必ず知っておいてほしい重要事項です。(相手に嫌われたくないから、嫌だけど性行為に応じる、という10代の子どもは決して少なくない印象です)
「嫌だと言ってよい」「相手の“嫌”も尊重する」ことを、家庭における日常の会話でも確認していけると良いですね。

【家庭でできること】
・「その人といると安心?怖いって感じることもある?」など、素直な感情を手がかりに関係性を見つめ直す質問をしてみる
・恋愛や性の話題を「禁止」ではなく「相談してよい話」として扱う
・オンライン上のやり取り(LINE、SNS、画像共有など)でも、同意と安全を必ず守ることの大切さを伝える
③違いを理由に相手を傷つけないために
「お互いの違いを認め、尊厳と尊重をもって向き合う」ことは、人間関係の根幹です。
性教育が推奨される最初の対象である「5〜8歳」の段階から、全ての人はそれぞれに価値があり尊重される権利があること、安易な「からかい」が人を傷付けることがあること、寛容さや尊重をきちんと伝える方法を学ぶことが、ガイダンスで示されています。
そして、年齢が上がるにつれて、スティグマ(偏見)や差別、いじめ・ハラスメントが相手の尊厳を傷つけること、社会的・経済的状況、健康状態、人種、出自、性的指向、ジェンダーアイデンティティなどの違いを理由に「人を攻撃し傷付ける」ことが増えてしまうことなども知っておかねばなりません。
家庭では、正論で子どもを諭すことだけを意識するのではなく、日々の会話における言葉選びを慎重にしていただきたいなと思います。
・ニュースや学校の出来事をきっかけに「その言い方・やり方は誰かを嫌な気持ちにしてない?」と考える機会を作る
・誰かが嫌な思いをするような「からかい」を「ノリ」「笑える」と流させない
・困りごとを話してきた子どもを責めず、解決策を一緒に考える
こうした積み重ねが、違いを理由に相手を傷つけない人間性の土台になるでしょう。
【家庭でできること】
・家族内で差別的な冗談や決めつけが出たら、その場で指摘し、一緒に考え直してみる
・何かに悩んだり困ったりしている友だちについて、一緒にどう力になってあげられるのか考える
・多様な背景(障がい、病気、性の多様性など)を特別視せず、自然に話題にする
④将来について考える:パートナー、結婚、子を持つこと
誰かと長期的な関係性を持つことや結婚、そして親になることは、人生の大きな選択であり分岐点です。
ガイダンスでは、さまざまな家族構成と結婚観があり、結婚は別居・離婚・死別などで終わりを迎える場合もあること、そして、それぞれにそれぞれの価値があることが言及されています。
思春期以降は、結婚を含む「人との長期的な関係性」には多くの責任が伴い、愛情、寛容、平等、尊重などが重要になること、さらに親になる道もさまざま(意図した・意図しない妊娠、養子縁組、里親、生殖補助技術、代理親など)であり、親になるかならないか、いつなるかは本人が決めるべきだとされています。
そして家庭内では、結婚や出産を「当然の義務」として扱わず、選択肢と責任をセットで伝えていくことが大切です。
「子どもを持つ・持たない」「結婚する・しない」いずれも尊重されるべき人生設計であり、相手の人生も自分の人生も同じように大切に扱うことが、誰かとの長期的な関係を良くすることにつながるはずです。
(でないと、結婚すること・子を持つことが「呪い」となって、子どもを一生苦しめることにもなりかねません)

【家庭でできること】
・将来の話題は「こうしなさい」ではなく「あなたはどうしたい?」から始める
・家事や育児の分担を性別で決めず、家庭内で「対等な関係」を見せる(夫婦で同意した上での役割分担があれば、その理由を説明することが学びになるはず)
・妊娠・出産・不妊治療などセンシティブな話題ほど、当事者の意思とプライバシーを尊重する
⑤年齢別:家庭で伝えておきたいこと
同じテーマでも、伝え方は子どもの年齢や発達段階で変わります。
ポイントは「一回一回は短めに・具体的に・日常で何度も繰り返す」ことです。
▶︎5〜8歳
家族の形はいろいろ、友情にはさまざまな形があり、ジェンダーや障がいの有無、健康状態は友だちになるうえで障壁にならない、という土台を作ります
▶︎9〜12歳
仲間関係が広がり、からかい・いじめ・SNSが現実問題になってきます
「それを聞いた・された相手はどう感じるか?」を軸に考えることが大切です
▶︎12〜15歳
恋愛や性的な話題が現実味を帯びてきます
健康的/不健康な関係性のサイン、同意の概念、画像共有のリスク、困ったときの相談先を具体的に伝えましょう
▶︎15歳〜
保護者は「管理者」ではなく「サポーター」として、困ったときに戻れる場所であれるといいですね
プライバシーを守りつつ、危険が及ぶときはいつでも助けになる存在であることを伝えましょう

【家庭でできること】
・「質問がない=困っていない・悩んでいない」ではないので、雑談の中で「対話のきっかけ」を作る
・一度に全部話そうとせず、短めの会話を何度も重ねる
・親自身が迷ったら、学校・自治体・医療機関など外部の力を借りることを選択肢に入れる
⑥困ったサインに気づけるように
ここまで、国際的なガイダンスをベースに、性教育の土台である「人間関係」についてどう考えるか・伝えるかを書いてきました。
いかがだったでしょうか。
関係性の学びにおいて、「理想の話」ももちろん大事なんですが、それだけで終わらせず、困ったときの現実的な対処法や動き方まで伝えていくことがとても重要です。
そして、たとえば
・スマホを極端に隠すようになった
・外出や交友関係を制限されている様子
・自己否定が強まる
・不眠や食欲低下が続く
・やけにお小遣いをねだってくる
といった変化は、いじめやデートDV、性的被害、ネット上の脅迫(性的画像を盾にした脅し、いわゆるセクストーション等)のサインである場合があります。
もちろん、単に思春期における心身の揺らぎによるもので危険なことがない場合もあるため、勝手に決めつけることはせず「最近しんどそうに見えるけど、何かあった?」「少し心配してるんだけど、何か困ってることある?」と軽い感じで聞いてみる方が良いでしょう。
大切なのは、子どもに「親に話した結果、怒られる・否定される・何かを制限される」と思わせないこと。困ったことや辛いことに直面したときに、助けになってあげられる一番身近な関係性でいたいものですね。
以上、包括的な性教育における「キーコンセプト1:人間関係」について知っておきたいポイントを紹介しました。
ぜひご家庭や学校等でご活用いただければ嬉しいです。
*私のニュースレターでも性教育の参考になる記事を配信しています。ぜひご参照ください。
性教育シリーズ③ 〜好きな人とは必ず性行為するの?〜
参考文献
WOMEN, U. N., et al. International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach. UNESCO Publishing, 2018.















