男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #17
価値観や権利とセクシュアリティを考える 〜包括的な教育解説シリーズ(2)〜
子どもが安心して成長するためには、知識だけでなく「人との関わり方」を学ぶ機会が欠かせません。とくに思春期は、友人関係・恋愛・SNS利用などが一気に広がり、うれしい経験もあれば、誤解やトラブル、傷つくことも起こりやすい時期です。
そして、反抗期が重なってくる時期にもなります。
だからこそ家庭では、「正解」を教え込むよりも、気持ちの尊重・安全を守る・相談できる関係性などを日常の中で育むことが、将来のリスク予防にもつながるはずです。
本シリーズ記事では、今の時代に求められる包括的な性教育について、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(文献1)をベースに分かりやすく解説していきます。
(編集部注:国際セクシュアリティ教育ガイダンスの日本語版はこちらからご覧いただけます)
本ガイダンスには、8つのキーコンセプトが含まれ、いずれも思春期に学び、考えるべきものになっています。
今回は、「キーコンセプト2:価値観・人権・文化とセクシュアリティ」です。
今回の内容の全体像
キーコンセプト2では「価値観・人権・文化とセクシュアリティ」を扱っています。
トピックとして、
2.1 価値観、セクシュアリティ
2.2 人権、セクシュアリティ
2.3 文化、社会、セクシュアリティ
の3つで構成されています。
ここで目指すのは、子どもが将来、さまざまな情報や価値観に出会ったときに、
1.自分の大切にしたいこと(価値観)を自分の言葉で考え、
2.他者の権利と尊厳を守り、
3.文化や社会の影響を考慮しながら、
4.安全で健康的な選択ができる力を育てること
です。
保護者ができるのは、知識の提供以上に「対話できる安全な環境」を用意することだと言えるでしょう。
【家庭でできること】
・「価値観(大切にしたいこと)」と「ルール(安全のための約束)」を分けて話す
・意見が違っても、まず「そう考えた理由」を聴く
・家庭外の相談先(学校、地域窓口、医療機関など)を普段から話題にする
① 価値観:押しつけずに「ものさし」を育てる
ガイダンスでは、個々人の価値観は、個人・家族・コミュニティの中でつくられる「大切なことへの強力な信条」であり、幼少期のうちから平等、尊重、受容、寛容といった価値観を言語化できるようになることが目標に掲げられています。
そして、価値観や信念が人生や関係性を決定づけていくことを理解する、とも書かれています。
思春期に入ると、子どもは親や保護者とは異なる価値観を持ち始めるため、「自分の価値観」と「親の価値観」を区別し、違いによって起こる対立を解決する方法を試すことも学習目標に含まれます。
9〜12歳の学習目標には、性やセクシュアリティについて、保護者の価値観を聞くこと、そしてジェンダー役割への期待と平等に影響する価値観について学ぶことも含まれています。
12〜15歳ではさらに一歩進んで、セクシュアリティと生殖の健康のさまざまな問題について自身の価値観や信念、態度を知り、それらがどのように他者の権利に影響するかを理解することが含まれます。
加えて、自身と異なる価値観や信念への寛容さや尊重することの重要性を認識することも重要とされています。

ここで保護者が意識したいのは、「価値観の違い=悪いこと」にしないことです。
たとえば交友関係、恋愛観、表現の仕方、身体や見た目の捉え方など、子どもは家庭外の影響も受けて価値観を組み立てていきます。
保護者として大切なのは、危険を減らすための境界線(安全)を示しつつ、子どもが自分の考えを言葉にできる余地(自立)を残すことなのでしょう。
【家庭でできること】
・「うちが大切にしているのはxx(尊重・安全など)だよ。それについてどう思う?」と対話を重ねる
・対立が起きたら、結論を急ぐよりも「何が心配なの?何が嫌?」をお互いに言語化するよう努める
・価値観の話では、「一度の説教」より、短い会話を何度も重ねる方が重要
② 人権:からだと心の境界線を守る考え方
「誰にでも人権がある」ことを出発点に、人権の意味を理解し、誰もが持つ人権は尊重されるべきだと認識し、その支持を表現することが掲げられています。
年齢が上がる(9〜12歳)と、国内法や国際協定(世界人権宣言、子どもの権利条約など)に子どもの権利が明記されていることを知る重要性がガイダンスに示されています。
中学生になる頃には、全ての人の人権には「性と生殖に関する健康に影響を与える権利」が含まれ、外部や他者からそれが侵害される可能性があることを認識してもらいましょう。さらには、そうした侵害を受けやすい人々がいることを理解し、権利を尊重する姿勢を示すことが求められています。

家庭で伝えることはシンプルです。
「あなたのからだと心は、あなたのもの」であり、嫌なことは断ってよいし、断られたら尊重する。困ったら助けを求めてよい。
これは、子ども自身が自分と他者の境界線を守り、対等な関係を築くための基盤として非常に重要なものとなります。
【家庭でできること】
・日常で「嫌なら嫌と言っていい」「相手の嫌も尊重する」を具体例で確認する
・スマホや交友の管理は「監視」ではなく「安全を守るため」という目的を説明する
・子どもが何かを打ち明けたら、叱る前に「話してくれてありがとう」と必ず心理的安全性を確保する
③ 文化・社会:影響を受ける前提で「見抜く力」を育てる
「文化・社会」のパートでは、子どもが自分の感情やからだを理解するのを助ける情報源として、家族、仲間、コミュニティ、そしてSNSを含むメディアなどがあることを挙げています。
また、文化・宗教・社会がセクシュアリティの理解に影響し、時代によって信条や慣習が変化してきたこと、多様な信条があることを認識しつつ、人権への尊重を示すことが示されています。
例えば、以下のようなことを具体例にして伝えるとわかりやすいかもしれませんね。
昔は「男の子はズボン、女の子はスカート」とほぼ強制的に服装が決まっていることが多かったけれど、今は自分が好きで動きやすい服を自由に選べるようになっている。時代が進むにつれて「自分らしさ」を大切にする考え方に変わってきた。
あいさつでハグ(抱っこ)をしたり、ほっぺにキスをしたりする国もあれば、お辞儀をする国もある。性に関することも同じで、大切にしているルールは場所や宗教によって違う。どれが正解というわけではなく、「いろんな考え方があるんだ」と知ることが大切。
思春期以降は、社会的・文化的・宗教的要因が「自分は何が受け入れられ、何が受け入れられないか」に影響し、それが時間とともに変化しうること、そして規範に問題意識をもつことも学習目標に含まれてきます。
保護者としては、SNSや周囲の空気に子どもが流されてしまったときに、責めずに立ち止まれる場をつくることでしょう。
「みんなも言ってるから」「普通はこうらしい」といった言葉を口にしたら、それをすぐ正面から否定するより、「その“普通”は誰が決めたと思う?あなたは正直にどう感じるの?」と問い直してみる練習が役立つのではないでしょうか。
【家庭でできること】
・「同調圧力の言葉(普通・みんな)」が出たら、事実と感情を分けて一緒に整理する
・メディア情報は「正誤」だけでなく「目的(誰が得する?)」「影響(気持ちがどう動いた?)」で一緒に振り返ってみる
・性別による役割の決めつけを家庭内で減らし、対等な分担を日常的に見せる

④年齢別:家庭で伝えておきたいこと
同じテーマでも、伝え方は子どもの年齢や発達段階で変わります。
ポイントは「一回一回は短めに・具体的に・日常で何度も繰り返す」ことです。
・5〜8歳
価値観=自分が大切にしたいこと
人権=みんなにあるもの
文化=住む場所などによっていろんな考えがある
・9〜12歳
セクシュアリティに関するからかい・ネットの影響
境界線とプライバシーの意識、重要性
・12〜15歳
同調圧力の怖さと、それに疑問を持つこと
対等な関係性と、お互いの同意の大切さ
社会規範への批判的思考
・15歳〜
価値観の違いがあった場合にどう対話するか
自身の性的行動や性の健康に影響を与える要因を知る
【家庭でできること】
・子どもの反応をみながら「ちょっとした会話を、具体的に、何度も繰り返す」を意識する
・一度で全部伝えようとせず、日常の出来事をきっかけに少しずつ更新していく
・親が答えに詰まったら「一緒に調べよう」でOK(はぐらかしたり否定するより良い)
よくある不安Q&A
最後に、私も親御さんからよく質問を受ける内容について、Q&A形式で整理してみます。
ぜひ参考にしてください。
Q:性教育として教えたり話したりすると、性的な関心が早まるのでは?
A:ガイダンスでは、子どもや若者が早期に包括的な情報を必要としているという専門家の見解をもとに、年齢・発達に応じて段階的に学んでいく構造となっています。そのように進めることで、「ネガティブな性的行動を増やすことはなく、むしろ減らすことができる」ことがこれまでの研究でわかっています。
Q:家庭の価値観と違う話しが出たら?
A:価値観は家庭や保護者ごとに異なります。ただ、平等・尊重・受容・寛容といった価値観を自分なりにしっかり考えることが重要だとされています。身近な例を出して、平等じゃないとどういうふうに感じるか、自分の気持ちを友達が尊重してくれなかったらどう思うか、好きなものが友達と違っていても怒ってはいけない理由などを、ぜひ一緒に話してみましょう。
Q:親としてうまく説明できないのではと不安、どうすれば?
A:全てに対して完璧な説明ができなくても大丈夫です。むしろ「一緒に考えてみようか」「xxさんに相談してみようか」という態度や姿勢を示すこと自体が、子どもにとって大きな安心や支えになります。ぜひ、大人も学ぶ良い機会だと捉えていきましょう。
以上、包括的な性教育における「キーコンセプト2:価値観・人権・文化とセクシュアリティ」について知っておきたいポイントを紹介しました。
価値観は人生の選択において大きな影響を与えると同時に、家族と子どもの価値観が異なることもあり、その違いと向き合う力を育てる必要があります。
また、人権は、誰にでもあり尊重されるべきもので、性と生殖に関する健康に関わる権利も含まれます。
文化・社会は、家族や仲間、そしてSNSを含むメディアなど多くの情報源を通じて理解に影響します。
ぜひ、本記事をご家庭や学校等でご活用いただければ嬉しいです。
*私のニュースレターでも性教育の参考になる記事を配信しています。ご興味があればぜひ読んでみてください。
性教育シリーズ(10) 〜マイクロアグレッション〜
参考文献
WOMEN, U. N., et al. International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach. UNESCO Publishing, 2018.















