気になるキーワード【学会】#2
学会を運営する「学術団体」とは?情報の信頼性と学会の正体を解説
前回の記事では、イベントの方の学会(学術大会・学術集会)をメインに解説してきましたが、この学会を運営している学術団体(組織)としての学会は、ある専門分野の医師や研究者が集まる「組織」です。後編の記事では、組織としての学会について詳しく解説してみます。
団体としての学会の役割(例:日本産科婦人科学会)
産婦人科でいえば、日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本周産期・新生児医学会のように、分野ごとにさまざまな学会があります。
産婦人科関連の学会でいうと、代表的なものは以下のような感じです。
日本産科婦人科学会 :産婦人科全般の医療(学術研究・専門医制度の運用が主)
日本産婦人科医会 :産婦人科全般の医療(政策提言・地域医療支援等)
日本周産期・新生児医学会: 分娩や赤ちゃんの医療(産婦人科医や小児科医)
日本生殖医学会 :不妊治療に関する医療
日本婦人科腫瘍学会 : 婦人科系(子宮や卵巣)の腫瘍やがんにまつわる医療
日本産科婦人科内視鏡学会: 子宮や卵巣の手術に関する医療
日本女性医学学会 :更年期の医療が中心
日本産科麻酔学会 :無痛分娩など産科に関わる医療麻酔

女性の医療を支える様々な「学会」
こうした学術団体は、だいたい次のような役割を担っています。
| ・医学の情報をまとめて発信する(学会誌など) ・研修や教育の仕組みを整える(専門医制度・研修の基準など) ・医療の現場で参考にされる「診療の指針(ガイドライン)」作りに関わることがある ・データベースや調査研究を行い、医療の質向上につなげる |
実際に、複数の専門委員会が調査研究や連携などの活動を行っています。学会員で構成される委員会が中心になって活動していて、日本産科婦人科学会でいうとこんな感じに分かれています。
ちなみに、医師が現場でよく利用している産婦人科診療ガイドライン(産科編、婦人科外来編)も、2つの学会が発行しているものです。crumiiで記事を書くときにも、もちろん参考にしています。これ、冊子で買うと高いですが、PDFなら誰でも無料で見られます。
最新の重要な医療情報の通知
また、重要な役目として、所属する医師に対して、重要な医療情報のアップデートの通達などもしています。医療の世界には、「以前はこういう治療が当たり前だったけど、より良い治療が確立されて最近はやらなくなった」、「過去には重視されていたけど、あまり意味がないことが分かったからスタンダードじゃなくなった」などのアップデートがあります。これらをきちんと会員である医師に通知するわけです。
最近だと、産後まもない赤ちゃんをRSウイルスから守る妊婦さんのワクチン「アブリスボ(R)」が発売され、赤ちゃんへのメリットが大きいのでその推奨などが、産科婦人科学会、小児科医学会から通知されました。2025年11月19日の厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会)で、2026年4月よりアブリスボが「定期予防接種」となることが決まっています。このワクチンはこの春から、定期接種になり全ての妊婦さんが無料で打てるようになる予定です。
政策の制度設計にも関わる
学術団体は、その分野の医療に関わる統計情報などを有していますので、行政の要請に応じてその情報を提供したりもします。
(そのはずですが、最近の産婦人科界隈の政策論は現場感覚からすると改悪が多く、現場の産婦人科医を追い詰めるものばかりで、本当に中の人が入ってくれているのか気になるレベルです…)

学会は医療界だけのものではなく、文系の学会も存在する
ちなみに、学会ときくとお医者さんだけのものというイメージがあるかもしれませんが、心理学、社会学、教育学、歴史学など、あらゆる学問分野に『学会』は存在します。『日本心理学会』や『日本社会学会』など、文系の先生たちも日々、研究成果を発表し合っています。
番外編|「学会」にもいろいろある?
「学会」と名前がつけば、すべて同じ権威があるわけではありません。何千、何万人という学会員を抱える大規模な学会から、規模の小さい勉強会・サークルのような学会まで、ピンキリもあります。実をいうと、誰でも明日から「日本〇〇学会」を名乗って団体を作ること自体は(法的に登記などの手続きをすれば)可能だったりするのです。 大きく分けて3つのタイプがあることを知っておくと、ニュースや広告に踊らされなくなります。
1. 公的・権威ある学会|メジャーリーグ級の学会
歴史が長く、会員数が数千〜数万人にのぼる学会は、「日本医学会」などの大きな連合体に加盟しています。 この規模の学会では、診療の目安となるガイドライン作成に関わったり、専門医制度(研修や試験など)の運用に関わったりすることがあるのが特徴で、信頼度は高いといえます。「日本の医療のスタンダード」になる可能性が高い情報を取り扱っています。
例: 日本内科学会、日本産科婦人科学会など。
2. 専門領域に特化したニッチな研究会|真面目な勉強会クラス
1のメジャー学会よりもう少し規模が小さく、特定の病気や治療法に特化したり、「社会科学(心理学、福祉、教育など)」の分野を「深く・狭く」研究する集まりです。
メジャーな学会では扱いきれない細かなテーマや、新しい領域を掘り下げる役割を担っているのが特徴です。信頼度は基本的に高めですが、会によって差があります。非常に熱心で最先端の知見を出している会もあれば、まだ研究途上で固まりきっていない会もあります。
3. サークル・ビジネス寄りの学会|注意が必要なケースも
会員が極端に少なかったり、特定のクリニックや企業が運営を主導していたり、特定の健康食品や高額な自費診療を強く推奨している団体は注意が必要です。
このタイプは、研究発表そのものよりも、仲間内の情報共有や、特定の治療法を「権威づけして宣伝する」目的で活動している場合があります。
「〇〇学会で発表!」という言葉だけで信用せず、実態が単なる身内の発表会になっていないか、一段立ち止まって確認することが大切です。

「学会で発表」は「お墨付き」とは違うので注意を。
さてこの「学会発表」、どのくらい権威性があるのかというところが誤解されやすいのでお伝えしておこうと思います。商品によっては「◯◯学会で発表された!!」と大々的にプロモーションされていることがあり、そんなにすごいのか、と誤認してしまう人がいます。「学会で発表」というのは、素晴らしいことに変わりはないのですが、それだけで科学的に認められたとか、成果が証明されたとか、学会が認めた、といったお墨付きを示すわけではないことに注意が必要です。
学会発表は「途中経過の共有」のことも多い
学会発表は、論文より早く新しい治療や研究の情報が出ることがあります。つまり、新しい動きが見える一方で、まだその検証が十分でない段階のこともあります。例えば、現段階での対象人数がとても少なかったり、比較がなかったり(たまたま良かった可能性が残る)、観察期間が短い(長期の安全性がまだ確認できていない)などの限界があることもあり、これらの学会発表は、別の場所で同様の検証をする「追試」や論文化で、少しずつ固まっていきます。
このため、「学会発表=確定情報」とは限らない、という前提を知っておくのが大切です。
発表は主に申告制
学会が登壇者にセッションをリクエストするものも一部あるのですが、学会発表の多くは自己申告制で、こんな研究成果があるので発表したい、という企画書のようなものを登壇者が提出し、学会側が審査をします。この審査に通って採択されれば、学会で発表することができます。
実際に研究の成果が事実としてはっきりするには、論文を書いてそれが認められる必要があるので、「学会発表」というだけでお墨付きにはならない、ということを知っておきましょう。

学会に関するよくある疑問Q&A
Q. 学会って旅行みたいなもの?
A. 見た目は出張っぽいのですが、多くは仕事として参加しています。聞きに行くだけならまだ気楽ですが、発表者や運営の立場になると、委員会、研修など、やることは意外とぎっしりです。
Q. 学会に行くと病院の診察は休みになるの?
A. 病院の体制によりますが、休診や代診になることはあります。ただ病院の側も診療が回るよう調整していることが多いので、急ぎの症状があるときは遠慮せず相談してください。
Q. 一般の人も学会に参加できる?
A. 学会によっては「市民公開講座」など一般向けの企画があります。一方、学術集会そのものは医療者向け中心で、参加条件は学会ごとに異なります。
まとめ|医師の学会は勉強会+発表会+作戦会議みたいなもの
学会は、医師が最新知識を学び、データを出し合い、議論して、医療の質と安全性を上げるための場です。ガイドラインなどを通じて医療の「標準」がアップデートされたり、新しい治療の位置づけが変わっていったりして、日々の診療にも少しずつ反映されていきます。医師たちは、以下のような理由で学会に参加します。
・最新の研究や治療をアップデートするため
・自分たちの治療成績や研究を発表し、改善点を見つけるため
・他の病院・研究者と情報交換して、医療の質を底上げするため
・診療のスタンダードな流れ(教育・研修・ガイドライン等)につながるため
「学会」と名がつけば何でも同じような権威があるわけではなく、規模や透明性には差があり、学会発表もそれだけで「お墨付き」になるわけではありません。
基本的には専門家向けのイベントですが、学会によっては学術集会に一般参加者を受け入れているところもあり、参加費は医療従事者より安め(数千円程度)に設定されていることが多いです。興味があれば、学会そのものに参加してみるのも面白いかもしれませんよ。















