泌尿器科 男性特有の悩み

〈専門医に聞く、泌尿器科の新常識②〉

ED、男性更年期……男性の“性の専門家”としての泌尿器科

前回の記事では、泌尿器科が男性の生涯に寄り添う“かかりつけ医”としての役割を担っていることをお伝えしました。そして、その役割の中でも特に重要でありながら、あまり知られていないのが、「男性の性の悩み」の専門的な相談場所であるということです。
男性は、年齢を重ねるにつれて、誰にも言えない「性の悩み」を抱えることがあります。それは非常にデリケートで、男性の自信や尊厳に深く関わる問題です。
泌尿器科がそうした悩みにどう向き合っているのか、そしてパートナーである女性に何ができるのかを、今回も泌尿器科「福元クリニック」「福元メンズヘルスクリニック」の医師として日々診察にあたり、男性のお悩みに寄り添っている福元和彦先生に詳しく伺いました。

なぜ男性は、悩みを打ち明けられないのか

例えば、ED(勃起障害/勃起不全)や男性更年期障害など、性の悩みを抱えている男性は決して少なくありません。しかし、「多くの男性が悩んでいるにもかかわらず、誰にも相談できず、一人で抱えてしまっている」と福元先生は話します。福元先生のクリニックを訪れる男性のほとんどが、誰にも相談せず、一人で悩み、インターネットで調べてようやくたどり着くのだとか。それはなぜなのでしょうか。

「男性は、社会的・文化的背景から『弱いところを見せられない』という心理的傾向を持つことが多いのです。『男らしさ』に縛られていて、武勇伝は話せても、自分の悩みはなかなか口に出せません。特に性の悩みは、『男として失格だ』と思われたくないという強いプレッシャーにつながります」(福元先生)

そんな彼らの固く閉ざされた心の扉を開くため、福元先生は診察室で「元気に挨拶し、まずは患者さんにメインで喋ってもらうこと」を心がけていると言います。

「自信を失っている方に、少し笑いを交えながら『自信、失ってるでしょ?』なんて声をかけると、フッと表情が和らぐことがあります。性の悩みに絶対的な答えはありませんから、『僕が言うことも答えじゃないですよ』と伝え、ご自身の言葉で話してもらえるような雰囲気作りを大切にしています」(福元先生)

たかが勃起、されど勃起

さて、ここからは具体的な悩みに触れていきます。まずは、泌尿器科で相談される男性の性の悩みとして最も多いとされる、「ED」についてです。
EDは、「勃起障害」や「勃起不全」とも呼ばれ、「満足な性行為を行うのに十分な勃起が得られないか、または維持できない状態が持続または再発すること」と定義されています。

女性にとっての性行為は、挿入だけがすべてではなく、「勃起しなくても気にする必要はないのでは」と思う人も少なくないでしょう。
しかし、男性にとって「勃起」は、「自らの自信と尊厳に直結する重要な反応」と福元先生は話します。そのため、一人で抱えてしまい、症状が深刻になってから相談してくるケースもあるといいます。

治療によってそれを取り戻すことは、失われた自信を回復し、夫婦のスキンシップを増やすきっかけになります。
「特に、子どもが巣立った後の夫婦にとって、スキンシップを取り戻すことは、二人の関係性をより良くするために非常に重要といえます」と福元先生は話します。

心因性と器質性、EDの二つの原因

EDには、大きく二つの原因があります。福元先生いわく、「比較的若い人に多い」のが、「心因性のED」だとか。

「最近は、スマホで情報を調べすぎた結果、不安になり心因性のEDを引き起こす若い人もいます。ヒトはデリケートで、ちょっとしたストレスや体調不良で性交がうまくいかないことが多々あります。そんな一度の失敗がトラウマになり、『次もダメだったらどうしよう』というプレッシャーから、ますますうまくいかなくなる悪循環に陥るのが、心因性のEDです。昨今、初体験の年齢が上がっていることも一因といえます。知識が先行してしまい、過度な緊張から失敗してしまうケースも少なくありません」(福元先生)

泌尿器科 男性特有の悩み
photo: PIXTA

一方で、中高年になると、身体的な問題が原因である「器質性のED」が多くなるといいます。

「年齢とともに誰にでも起こる『動脈硬化』が大きく関係しています。血管が硬くなると、勃起に必要な血液をペニスに送り込むことができなくなるのです。高血圧や糖尿病といった生活習慣病は、この動脈硬化を加速させます」(福元先生)

男性器の血管は、脳や心臓の血管よりもずっと細いという特徴があります。つまり、EDは、将来の脳梗塞や心筋梗塞の前触れであるともいえるのです。多数の医学論文でも、「EDはほかの病気の予兆になる」と報告されており、全身の血管の健康状態を示す重要なサインなのです。

“老害”や“イライラ”の正体? 男性更年期

昨今、増えているのが「男性更年期」に関する相談だといいます。
女性の更年期はよく知られていますが、男性にもあることは、まだあまり知られていません。男性ホルモン(テストステロン)の低下によって、心身にさまざまな不調が現れるのが「男性更年期障害(LOH症候群)」です。
2022年に厚生労働省が行った調査※1によると、医療機関を受診し、更年期障害と診断されたことのある男性は、40代で1.5%、50代で1.7%でした。一方、更年期障害の可能性があると考えている割合は40代で8.2%、50代で14.3%だったことがわかっています。

「特徴的なサインは、イライラや攻撃性ですね。いわゆる“老害”と呼ばれるような、我慢ができなくなる状態も、加齢によるテストステロンの低下が原因の一つと考えられています。また、何事にも興味がなくなるのもサインです。休日にショッピングモールのベンチでずっと居眠りをしているような男性は、要注意かもしれません」(福元先生)

女性の更年期が閉経の前後10年間、およそ50歳前後に起こるのに対し、男性の更年期は40代~70代のいつ起こるかわからないとされています。これもまた、男性更年期障害に気付きにくくなる一因といえます。

なお、男性ホルモンには、一日の中でも大きく変動するという特徴があります。

「朝が最も高く、夜にかけて下がっていきます。また、仕事などで集中すると上がり、休むと下がる。オンとオフを切り替えるホルモンなんです。だから、夜にお酒が入ると、ホルモン値が低い状態なので喧嘩しやすくなるんですよ。朝から喧嘩している男性って、あまり見ないでしょう?」(福元先生)

ホルモン値を調べる血液検査で、テストステロンが足りているかどうかがわかります。治療の必要があると診断されたら、注射などでホルモンを補充すると、症状が改善されることがあります。思い当たる症状があれば、泌尿器科を受診してみましょう。

※1 厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」 基本集計結果 (2022年7月26日)

信頼できるクリニックを見つけるには?

いざ受診を考えても、どのクリニックを選べばいいか迷ってしまうこともあるのでは。福元先生に、クリニック選びのコツも伺いました。

「まずは、ホームページなどでしっかりと情報発信をしているクリニックがいいでしょう。また、デリケートな悩みを相談するには、医師との相性も大切です。ご自身やパートナーの年齢と近い先生のほうが、悩みを共有しやすいかもしれません。もちろん、悩みの分野に合った専門医であるかどうかも重要なポイントです」(福元先生)

これらのヒントを参考に、信頼できる泌尿器科医を探してみてはいかがでしょう。

パートナーとしての関わり方

さて、パートナーの不調に気付いた時、女性はどのように関わればよいのでしょうか。福元先生に、具体的な対応例を伺いました。

泌尿器科 男性特有の悩み パートナー
photo: PIXTA

基本は「寄り添う」

基本的には、寄り添う姿勢を見せましょう。その上で、「テレビでこういう情報を紹介してたよ」「こういう病院があるらしいよ」と具体的な情報を提供するのもおすすめです。受診を促すきっかけになります。

声をかけるタイミングは「平日の朝」

夜は男性ホルモンが低下して感情的になりやすいうえ、時間があると話が長引いてしまうことも。平日の朝に、出勤前の限られた時間であっさり伝えるほうが、男性も冷静に受け止めやすいでしょう。

場合によっては同行もアリ

例えば、妊活の問題が絡む精液検査や、無精子症といった深刻な診断を受ける可能性がある場合、パートナーの同席は大きな力になります。

「深刻な結果を一人で受け止めるのは非常につらいことです。ご夫婦で一緒に説明を聞くことで、ショックを乗り越え、次の不妊治療へと前向きに進んでいけるケースは多いですよ」(福元先生)

パートナーとの関係や悩みの内容に応じて、参考にしてみてください。

より良く生きるために、泌尿器科の力を借りてみては

「男は『男らしさ』に縛られて生きている人が多い。でも、強い男ばかりじゃない。それを解放してあげたいと、いつも思っています。もし悩んでいるなら、一人で抱え込まないでください。泌尿器科の扉を叩く一歩が、新しい人生に繋がるかもしれません」(福元先生)

福元先生はそう話します。性について悩むことは、決して恥ずかしいことではありません。同じような悩みを抱えている人は、案外いるものです。泌尿器科医は、男性の性の悩みの専門家として、さまざまな相談を受けています。思い切って相談すれば、明るい未来が開けることもあるでしょう。それはきっと、男性やそのパートナーにとって、健康と未来について考える大切なきっかけの一つになるはずです。


福元 和彦

川崎医科大学医学部を卒業後、同大学付属病院での研修を経て、2010年に川崎医科大学泌尿器科学の臨床助教に就任。2015年より同大学大学院にて生理系尿路生殖器病態生理学を専攻する。現在は故郷の鹿児島に戻り、「医療法人友心会 福元クリニック」の理事長と、男性の性機能に特化した「福元メンズヘルスクリニック」の院長を兼務。泌尿器科、性機能、抗加齢医学の専門医として、ED、AGA、射精障害からブライダルチェックまで、男性特有の悩みに幅広く応えている。

 

山本尚恵
医療ライター。東京都出身。PR会社、マーケティングリサーチ会社、モバイルコンテンツ制作会社を経て、2009年8月より独立。各種Webメディアや雑誌、書籍にて記事を執筆するうち、医療分野に興味を持ち、医療と医療情報の発信リテラシーを学び、医療ライターに。得意分野はウイメンズヘルス全般と漢方薬。趣味は野球観戦。好きな山田は山田哲人、好きな燕はつば九郎なヤクルトスワローズファン。左投げ左打ち。阿波踊りが特技。

高橋孝幸

この記事の監修医師

高橋孝幸先生

産婦人科

医師・医学博士・日本産科婦人科学会専門医・指導医大阪市立大学卒業後、慶應義塾大学大学院にて医学博士号を取得。患者さんに寄り沿った医療の提供に努めており、子宮頸がんやHPVワクチンに関する情報提供についても一般の方に向けて正確で優しい形の啓発に努めている。

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