泌尿器科

〈専門医に聞く、泌尿器科の新常識①〉

男性の“かかりつけ医”!? 泌尿器科ってどんなところ?

「泌尿器科」と聞くと、
「高齢の男性が行くところ」「なんだか痛そうな検査をされそう…」
というイメージをお持ちの方も少なくないでしょう。

しかし、そのイメージはもう過去のもの。現代の泌尿器科は、性別を問わず「おしっこ」の悩みに応える専門家であると同時に、男性が一生涯付き合える“かかりつけ医”としての役割を担い始めています。

今回は、鹿児島県で泌尿器科「福元クリニック」「福元メンズヘルスクリニック」の医師として日々診察にあたり、男性のお悩みに寄り添っている福元和彦先生に、泌尿器科の「今」について伺いました。この記事を読めば、泌尿器科へのイメージがきっと変わるはずです。

泌尿器科って、そもそもどんなところ?

泌尿器科は、尿が作られて排出されるまでの一連の通り道(尿路=腎臓、尿管、膀胱、尿道)とそれに関わる臓器、そして、前立腺や精巣などの男性生殖器を専門的に診察する診療科です。おしっこに関する不調や、男性特有の症状、性感染症など、幅広い病気に対応します。
具体的には、以下の図にあるような症状や病気が対象となります。

泌尿器科 診察対象 排尿 前立腺 尿路感染症 精巣 尿路結石 性感染症

「おしっこ」に関する悩みは、性別を問わず泌尿器科が専門です。泌尿器科というと、「男性、特に高齢の人がかかる診療科」というイメージがありますが、女性にも発症しやすい膀胱炎は、泌尿器科で診てもらう必要があります。

「私のクリニックには『女性ですけど、受診していいんですか?』という問い合わせの電話も多いですが、もちろん大歓迎です。男女問わず悩みを相談できる場所なのですが、やはり“男性専門”というイメージが根強いのは感じますね」と福元先生は語ります。

【男性にとっての泌尿器科】若い世代からシニアまで、一生の味方に

しかし、泌尿器科はもはや高齢者だけのものではありません。実は、女性にとっての婦人科のように、男性特有の悩みに専門的に応えられるのが、泌尿器科なのです。
また、ひとくちに「男性特有の悩み」と言っても、その内容はライフステージごとに異なります。

「10代~30代は、友人や家族に相談しづらい、性や性感染症に関する相談や治療が中心。40代~50代になると、働き盛りで心身の不調が出やすい年代。前立腺の炎症や男性更年期障害、ED(勃起不全)などの悩みが増えてきます。60代以降は、頻尿や尿の勢いが弱まるといった症状が特徴の、前立腺肥大症や前立腺がんの検査・治療が多いです」(福元先生)泌尿器科 男性特有の悩み 性感染症 男性更年期 ED 前立腺肥大症 前立腺がん

 

このように、泌尿器科は男性の生涯にわたる健康をサポートする、心強い存在です。福元先生のクリニックのように、“男性のかかりつけ医”を目指して開業する若い泌尿器科医も増えているといいます。

【女性にとっての泌尿器科】「おしっこの悩み」を解決してくれる場所

女性にとっても泌尿器科は、無関係ではありません。冒頭でもお話ししたように、「おしっこ」に関する悩みは、性別を問わず泌尿器科が専門。膀胱炎や尿漏れなどに悩む場合は、泌尿器科へ相談するのがよいそうです。

「女性の場合、産婦人科と泌尿器科、どちらに行けばいいか迷うケースもあると思いますが、膀胱炎などの尿路のトラブルは、泌尿器科での診察がよいでしょう。また、咳やくしゃみで尿がもれる『腹圧性尿失禁』も泌尿器科の専門です。産後や更年期以降の女性に多い悩みですが、治療によって改善できるケースも多いので、ぜひ気軽に相談していただきたいですね」(福元先生)

泌尿器科 女性
photo: PIXTA

ただし、性感染症については女性の場合、「婦人科に相談したほうがいい」と、福元先生は語ります。

「男性の性感染症の治療は泌尿器科で行いますが、女性は婦人科を受診されることをおすすめします。性器周辺の内診が必要になることもあるからです。あくまで私の感覚ですが、泌尿器科で女性器の内診を積極的に行うことはしません。そのため、女性は性感染症が疑われる場合、泌尿器科よりも婦人科を受診されることをすすめています」(福元先生)

性感染症の検査・治療において、男女が受診先を分けることは「自分の体に責任を持つ」というSRHRの考えにもつながると、福元先生は続けます。

「カップルの一人が性感染症と診断されたら、もう一人にも感染しているおそれがあるため、同時に検査・治療を行う必要があります。パートナーの分も薬を処方する医師やクリニックもありますが、ご自身の体のことです。自分の体に責任を持つためにも、それぞれが専門の科を受診すべきです」(福元先生)

「痛い」「恥ずかしい」はもう古い? 医療の進歩で負担は減少

ところで、泌尿器科の受診をためらう大きな理由として、「検査が痛そう」「恥ずかしい」といった不安がある人は少なくないでしょう。中でも「直腸診」と「膀胱内視鏡検査」は、福元先生いわく、「泌尿器科が嫌がられる検査のツートップ」とのことです。
「直腸診」は前立腺のがんや炎症などを調べる方法です。肛門から人差し指を挿入して肛門とその周辺の臓器を触診して診断します。「膀胱内視鏡検査」は、血尿の診断でよく用いられます。尿道から細いカメラを挿入し、膀胱内や尿道、前立腺の様子を確認します。両方とも大事な検査ですが、痛みや羞恥心による抵抗があり、これらが嫌で泌尿器科の受診を避けるという人は少なくないようです。

しかし、昨今は昔と大きく変わってきているようです。男性にとって痛みや恥ずかしさを伴う検査が行われる頻度は減っていると、福元先生は話します。

「昔は前立腺の病気を調べるために直腸診が多く行われていましたが、最近は超音波(エコー)検査の性能がすごく良くなったので、私はほとんど行いません。また、前立腺がんは血液検査のマーカー(PSA)でわかるため、直腸診が診断のポイントとしてそこまで重要視されることもなくなりました。 同様に、膀胱の内視鏡も、まずはエコーでしっかり観察し、異常があった場合に初めて検討します。若い先生ほど、痛みを伴う検査は少なくなっている印象ですね」(福元先生)

もちろん、病状によってはこれらの検査が必要になることもあります。しかし、その際は必ず十分な説明(インフォームド・コンセント)が行われます。

「なぜこの検査が必要なのかをしっかり説明し、ご本人が納得した上で進めます。無理強いは絶対にしません。内視鏡検査では、麻酔のゼリーを多めに使ったり、患者さんと一緒にモニター画面を見ながら説明したりと、不安や苦痛を和らげる工夫を心がけています」(福元先生)

患者さんの安心につながる取り組みは、泌尿器科でも進められています。

パートナーを「男性のかかりつけ医」へ導くには

女性にとって産婦人科がそうであるように、男性にも気軽に健康を相談できる“かかりつけ医”が必要です。その役割を、泌尿器科は十分に担うことができます。

「当院では保険診療のほかに、自由診療である医療脱毛も行っています。その理由は、若い男性が泌尿器科を知り、受診するきっかけになれば、と思っているからです。脱毛をきっかけに来院した人が、いつか性感染症の相談に来て、結婚前には精液検査に来る。そんなふうに、若い人たちの人生に寄り添えるかかりつけ医でありたいんです」(福元先生)

では、パートナーに受診をすすめたい時、女性はどのように関わればよいのでしょうか。

「多くの日本人男性はシャイでプライドが高い。だから、不調やイライラを抱え、困惑している時、ストレートに『病院に行ってきたら?』と伝えるのは避けた方がいいでしょう。それよりも、『最近イライラしてるみたいだけど、男性更年期っていうのもあるらしいよ』と情報提供したり、『こういう病院があるみたいだから、一緒に行ってみない?』と寄り添う姿勢を見せたりするのが効果的です」(福元先生)

声をかけるタイミングは、男性ホルモン値が高く、冷静な判断がしやすい「平日の朝」がおすすめ、とのこと。

「男性ホルモン(テストステロン)は一日の中でも大きく上下します。 朝が一番高く、夜にかけて下がっていきます。 集中すると上がり、休むと下がる『オンとオフの切り替え』の役割を果たすホルモンでもあります」(福元先生)

夜はホルモン値が下がり感情的になりやすいうえ、お酒の影響も受けやすく、話が長引いてしまったり、ケンカしやすくなったりすることも。出勤前の限られた時間であっさり伝えるほうが、男性も冷静に受け止めやすいそうです。パートナーのプライドを尊重しつつ、タイミングを見計らって、温かく声をかけてみてはいかがでしょう。

デリケートな悩みも、専門家である泌尿器科へ

このように、泌尿器科は男性の生涯にわたる健康をサポートする、心強いパートナーとなり得る存在です。
そして、その役割の中でも特に重要でありながら、あまり知られていないのが、「男性の性の悩み」の専門的な相談場所であるということ。

次の記事では、EDや男性更年期障害といった、よりデリケートな悩みについて、泌尿器科がどのように向き合い、パートナーとして何ができるのかを、さらに詳しく掘り下げていきます。

 

〈プロフィール〉

福元 和彦

川崎医科大学医学部を卒業後、同大学付属病院での研修を経て、2010年に川崎医科大学泌尿器科学の臨床助教に就任。2015年より同大学大学院にて生理系尿路生殖器病態生理学を専攻する。現在は故郷の鹿児島に戻り、「医療法人友心会 福元クリニック」の理事長と、男性の性機能に特化した「福元メンズヘルスクリニック」の院長を兼務。泌尿器科、性機能、抗加齢医学の専門医として、ED、AGA、射精障害からブライダルチェックまで、男性特有の悩みに幅広く応えている。

 

山本尚恵
医療ライター。東京都出身。PR会社、マーケティングリサーチ会社、モバイルコンテンツ制作会社を経て、2009年8月より独立。各種Webメディアや雑誌、書籍にて記事を執筆するうち、医療分野に興味を持ち、医療と医療情報の発信リテラシーを学び、医療ライターに。得意分野はウイメンズヘルス全般と漢方薬。趣味は野球観戦。好きな山田は山田哲人、好きな燕はつば九郎なヤクルトスワローズファン。左投げ左打ち。阿波踊りが特技。

太田 寛

この記事の監修医師

産婦人科医師

太田寛先生

産婦人科

千葉県成田市リリーベルクリニック勤務。

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