メンテック 男性産婦人科医

男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #06

"メンテック"とは?:男性の健康を支える最新テクノロジーとサービス①

「メンテック」って何?

「フェムテック」(女性×テクノロジー)という言葉に対し、最近では「メンテック」(男性×テクノロジー)という分野も登場していることをご存知でしょうか。これは、男性特有の悩みをテクノロジーで支援・解決する分野で、「Male(男性)」と「Technology(テクノロジー)」を組み合わせた造語になっています。
メンテックが登場した背景には、男性特有の健康課題を語る・共有する上での難しさやハードルがあるとされています。というのも、男性は「ジェンダーバイアス」によって、自身の健康問題(特に性や生殖に関するもの)を周囲に打ち明けづらく、適切なケアを受けられないケースも少なくありません。また、男性の健康に特化して健康情報を提供される機会もかなり少ないと言えるでしょう。メンテックは、このような課題をテクノロジーの力で改善・解決していくことを目指すものになります。

日本ではまだ聞いたことがないという人も多い状況ですが、市場規模としては、フェムテック市場と同様に、メンテックも同等の成長曲線を描くのではないかとの予測が示されています。
男性の健康は女性の健康にも深く関わりますし、プレコンセプションケアや妊活ではまさに「共有する課題」になります。本記事では、男性が抱えやすい健康の悩みの種類と、近年のメンテック事例を紹介します。

どのような領域や課題があるの?

それでは、「メンテック」には実際にどのような領域があるのでしょうか。男性が抱えやすい健康課題ごとに、概要をまとめてみます。

1. 性・生殖機能

ED(勃起不全)、男性不妊、テストステロン低下など。受診の心理的ハードルが高く、匿名性を担保したオンライン相談やセルフ検査キットのニーズが大きい。

2. 毛髪・肌・外見

AGA(男性型脱毛症)、肌荒れ、ボディメイクなど。見た目の悩みは心理的負担の大きさにも関連する。

3. メンタルヘルス・ライフスタイル

男性はうつ傾向や不安について相談利用率が低いというデータもあり、使いやすさなどハードル低減が課題に。

4. 前立腺・泌尿器疾患

前立腺に関する病気や排尿障害など、加齢に伴い罹患率が上がる疾患。これらはいずれも「恥ずかしさ」「時間の制約」などから受診機会を逃しがちなテーマであり、新しいテクノロジーの利点が活かされやすい部分。

泌尿器科 オンライン診療
photo: PIXTA

性・生殖機能をサポートするメンテック事例

男性にとって最も人に言いにくいことのひとつが性・生殖機能の悩みではないでしょうか。ここ数年、海外ではオンライン診療と在宅検査キットを組み合わせたサービスが拡大しており、自宅にいながら専門医の診療と治療薬の入手が可能になってきています。

今後の日本での拡大や普及にも注目が集まることでしょう。

ED(勃起機能低下)のオンライン処方

米国発のサービスには、スマホでの問診→医師のオンライン診療→治療薬を匿名包装で自宅配送、というシンプルな導線でユーザー数を伸ばしているものがあります。

男性不妊のセルフ検査と精子バンク

Legacyという海外のサービスは、検体を郵送すると、精液量・精子運動率・断片化DNAなどの分析結果をアプリで確認でき、必要に応じて精子を凍結保存できます。日本ではスマホ顕微鏡で精子濃度を測るサービス Seem が先駆けとなりました(現在はサービス終了となっていますが、他のサービスもいくつか登場しています)。

テストステロン補充療法(TRT)

Hone Healthという海外のサービスは、在宅でできるホルモン検査キットとオンライン診療を組み合わせ、男性更年期障害へ必要に応じてテストステロン補充療法や生活習慣指導を提供するものです。

毛髪・肌・外見を整えるメンテック事例

見た目の変化は自己肯定感にも直結します。これまで「美容は女性のもの」とされがちだった分野にも、男性専用のプロダクトが次々と登場しています。

AGA(男性型脱毛症)のサブスクリプション治療

海外では、AGAに有効な内服薬や外用液を定期配送し、オンラインで医師に相談可能なサービスが存在しています。また、脱毛だけでなく ED や体重管理も一括サポートする“ワンストップ型プラットフォーム”サービスも登場してきています。国内でも、オンライン AGA 外来が急増してきています。

スキンケア & グルーミング

ニキビ治療の外用医薬品、ビタミン配合サプリメント、髭育成ローションなどを月額制で提供するサービスも海外では登場しています。ただ、サプリやローションなどはその有効性がはっきりしないものも少なくなく、利用には慎重さが必要だと思っています。

AGA オンライン診療
photo: PIXTA

サービス利用における注意点

1. 医薬品の適正使用

海外製品を個人輸入すると有効成分量が不明で危険なケースもありますし、万が一、副作用が出ても補償を受けられない可能性もあります。必ず医師の診療・処方を受けるようにしましょう。

2. 科学的エビデンスの確認

「天然成分でテストステロン倍増」といったような誇大広告に注意してください。できれば、臨床試験などデータの有無をチェックしたり、かかりつけ医に相談をしたりするようにしましょう。

3. プライバシーとデータ管理

性機能やホルモン値は高度な個人情報です。暗号化や第三者提供の方針を事前に確認しておきましょう。

4. 適切な受診を忘れずに

オンライン診療後であっても、定期的な対面受診が推奨される場合もあります。症状の変化を軽視せず、オンラインに依存しすぎないよう注意してくださいね。

 

女性と同様に、男性にもなかなか人に打ち明けづらい悩みや不調があり、特に性・生殖機能だったり男性更年期に関しては一人で抱え込みがちです。メンテックは「相談しにくい」「仕事で忙しく時間がない」という壁をテクノロジーで克服し、男性のQOL向上を後押しする可能性を秘めているでしょう。一方で、根拠の薄い情報や安易なオンライン処方のリスクも伴います。

メリット・デメリットをきちんと理解し、適切に活用していただくことが大事ですね。

重見大介

この記事の執筆医師

産婦人科オンライン代表

重見大介先生

産婦人科

産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。

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