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怒るメガネの女性医師

宋 美玄のニュースピックアップ

産婦人科診察での盗撮に怒り どうすれば防げるか?

 

「四国こどもとおとなの医療センター」の産科医長の男(44)が携帯電話を使って女性患者の下半身を撮影した容疑で逮捕されたという衝撃的なニュースが報じられました。その医師は、那覇市の商店街で女子高校生のスカート内を盗撮しようとしたとして現行犯逮捕され、警察が押収した携帯電話を調べて今回の容疑が発覚したとのことです。

このニュースを聞いて、産婦人科診察自体に不信感を抱いたり、受診を不安に思ったりする方がいらっしゃることは当然と思います。だからこそ、本当にロクでもないことをしてくれたなというのが産婦人科業界にいる多くの人たちの反応です。

「ここでは性的に傷つけられない」という大前提を壊した罪

産婦人科という診療科は、もともと患者さんたちが強い緊張や羞恥(しゅうち)心を抱えながら受診する場所です。診断や治療のために、身体のきわめてプライベートな部分の診察を医療従事者に委ねるには、「ここでは性的な意味で傷つけられない」という信頼に基づいてのことです。その信頼が崩れてしまえば、産婦人科診療そのものが成立しなくなります。

患者さんが今後、必要な受診すらためらうようになれば、病気が見逃されたり、妊活や避妊が思うようにできなかったりして健康を害したり、からだの自己決定権が守られなくなったりするでしょう。また、真面目に診療を続けている多くの医療者にとっても、積み重ねてきた信頼が、1人の性犯罪者のために損なわれることになります。

悪意を持った人が人々を狙うイラスト

「ほとんどの医師は大丈夫」という言葉では、患者の不安は拭えない

産婦人科では女性のプライベートな部位を診察するため、産婦人科医は患者を性的な目で見ることはないのか、性的に興奮したりしないのかという疑念が時々SNSでは沸き起こります。それに対し、多くの医師が「そんなことはない」と答えてきました。実際にほとんどの産婦人科医は、患者さんを診察する時に全く性的な感情が湧くことはありません。淡々と職務をこなすのみです。

ですが、ほとんど全員がそうであったとしても、ごく少数の不適切な人間が存在するだけで、深刻な状態です。患者さんからすれば、「ほとんどの医師は大丈夫ですよ」と言われても不安が完全には払拭(ふっしょく)されないでしょう。信頼を損なう行為が一度でも起こり自分がそれに当たれば、「めったにない例外でした」で納得する人はいません。

胸の前でバツを作る女性医師

性善説を捨て、「システム」で患者と医師を守る

犯罪防止のために必要なのは、医師の倫理観を信じることだけでなく、性善説を前提にしないシステムを整えることです。たとえば、医師(特に男性)が内診台で診察する際には女性スタッフが同席することを原則にする、診察時に今何を行っているかを患者サイドにも知られるようにする、不安などを感じたときに患者が遠慮なく意思表示できるようにするというものです。そうした体制は、患者を守るためだけでなく、医師自身を無用な疑念から守ることにもつながります。

内診室は特殊な密室です。内診台の多くは、羞恥心を緩和するためにお腹のあたりにカーテンが設置されていますが、何をされているのか見えないことに不安を覚える人もいるため、カーテンを設置しない医療機関も増えてきました。

私のクリニックでは、患者さんが選べるように開閉可能にしています。また、カーテンは薄く透ける材質になっていて、閉めた状態でも何人の人がいてどんな状態かそれなりにわかるようになっています。このように、たとえ医療従事者の中におかしな人が紛れ込んでいても極力犯罪を起こしにくいようなシステムにすることはある程度可能です。

性別だけで安全かどうかの判断はできない

また、このニュースで「女性医師じゃないと信用できない」という声も聞かれました。でも、私の持論では、医師の性別だけで安全だといえるわけではないと思います。なぜならば、性別だけでは女性患者が性的対象になるかどうか分からないからです。

SNSで言及したことはあるのですが、私は過去に2回、別々の女性医師から性被害にあったことがあります。そのうちの1人は産婦人科医でした。診療現場で患者さんに性暴力を行っているかどうかは知る由もありませんが、「女性医師であれば安心」という論調を見ると、「女性同士の性暴力もゼロじゃないよ」と思ってしまいます。あえて産婦人科にかかる患者さんを不安に陥れたいわけではないのですが、性別だけで断定するのは違う、特定の性別ではなく性暴力を憎み排除するべきだということは常に思っていることです。

内診で恐怖や驚きを感じる女性

今回の事件に対して、産婦人科医療側の1人としては、容疑者の医師を糾弾し、非難の声を上げることしかできません。そして、これまでと同じように、患者さんが安心して産婦人科を受診していただけるよう、受診の体験がトラウマにならないよう誠心誠意、日々を積み重ねていくしかありません。

当メディア『crumii』のコンセプトの一つは、「婦人科受診をトラウマにしない」ことです。医療現場やそれ以外での性暴力についても取り上げていきたいです。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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