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座る 妊婦

宋 美玄の炎上ウォッチ #18

不妊治療は「一律禁止」したほうがいい?

 

ある女性がXに投稿した「代理母制度は禁止すべき。体外受精も不妊治療も反対。クローン研究は禁止するべき。生殖には人間の手を入れるべきではない」という趣旨の投稿が炎上を続けています。代理母、体外受精、不妊治療、クローン研究は、いずれも生殖や生命倫理に関わるテーマですが、それぞれ当事者や社会課題が異なり、一緒くたに語れるものではないですが、それぞれについて賛否が沸き起こりました。

代理母とIVF(体外受精)、
異なる問題を一緒くたにすることの危うさ

代理母制度については、代理母は第三者の身体を介する仕組みであり、妊娠・出産に伴う身体的負担とリスクが現実に存在します。商業的な理由から普及が進むと、富裕層の女性が経済格差を利用して、負担が弱い立場の女性から搾取する構図になると指摘されています。さらに、生まれてから児の障害がわかったり、離婚したり、国による法律の違いなどから、子どもは誰が養育すべきか、誰が育てる権利を持つか、などの紛争が起こっている事例もあります。「生殖」という側面に対する賛否もありますが、制度的社会的問題も論点としては大きいでしょう。

 

代理母と並列してIVF(体外受精)や不妊治療全般まで一括りに否定した点には、反対するコメントが多く見られました。代理母の問題は、カップル以外の第三者を巻き込むため複雑になりますが、一般的な体外受精は、妻の卵子と夫の精子を体外で受精させ、子宮に戻す不妊治療ですので、第三者の関与はありません。(配偶子提供など特殊な場合を除きます)代理母とIVFを同列に挙げて論じることに違和感を覚えた人も多かったようです。今や出生児の10人に1人は体外受精によるという時代で、当事者の数は代理母の比ではありません。
 

体外受精などの不妊治療で子どもを授かった人や自分が生まれた人にとって、「不妊治療は一律反対」という言葉は、生殖うんぬんよりも家族の存在そのものを否定されたように聞こえるでしょう。これまでに体外受精などの不妊治療で生まれた人たちで、現在は普通に社会の一員である人も多く、否定する対象があまりにも多いと言えます。

色々な不妊治療で授かった赤ちゃん 男女

体外受精・顕微授精の医学的リスクとは?

実際のところ、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)には、どのような医学的リスクがあるのでしょうか。周産期のリスクについては、これまでの研究の蓄積によると、妊娠では早産、低出生体重、赤ちゃんが小さめになることなどが自然妊娠より統計的に増えやすいことが繰り返し示されてはいます。ただし、この差を「治療そのものが危険である」とするのは早計です。

 

体外受精や顕微授精ではこれまで多胎が起こりやすかったということがありますが、不妊治療よりも多胎妊娠であること自体が早産や低出生体重の頻度を増やします。そのため近年は単一胚移植を重視し、多胎を減らす方針がガイドラインでも示されています。また、「不妊となった背景が影響している可能性」も指摘されています。不妊の原因には子宮内膜症や多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など多様なものがあり、母体高年齢や基礎疾患もあります。体外受精や顕微授精自体にリスクがあるとは断定しづらいです。

 

また、赤ちゃんの先天異常のリスクについてです。体外受精や顕微授精児で「やや多い」とする研究が複数あります。ただし、この「増加」がどこまで不妊治療の手技によるものかは、研究手法によります。周産期リスクと同様に、妊娠しづらいという背景そのものが先天異常のリスクに関連する可能性があるからです。実際、親側の要因で補正すると先天異常のリスクに有意差がなくなったという結果の研究もあります。ここで重要なのは差があるとする研究でも、何倍も差があるのではなく、「やや多い」という程度のものが多いということです。
増える可能性はあるが、危険だと断定する話ではないという慎重な表現が重要です。

現代では『リスク』が『危険』とイコールなわけではない

また、反論の中には「不妊治療よりも高齢出産の方が、リスクが高い」として、炎上元には書かれていない高齢出産をバッシングするものも見られました。不妊治療の中には高年齢で行っている人も多いですし、正直「めちゃくちゃな論理」を否定するためにこれまた相当数の当事者がいる「高齢出産」を持ち出してきて「不妊治療」を擁護するのはあまり得策ではないように感じました。

周産期リスクや先天異常のリスクは年齢と共に少しずつ上昇していきますが、日本においては周産期センターなどで水準の医療を受ければ母子共に安全に出産できる方がほとんどですし、全ての先天異常が年齢と共に増えるのではなく増えるのはトリソミーという染色体異常で、NIPTなど出生前検査で少なくとも知ることはできます。

笑顔で赤ちゃんを抱くお母さん

不妊治療が全く行われなければ日本に生まれてくる子供は1割減りますし、高齢出産に至っては約4分の1減ることになります。観察した範囲内になりますが、自分が不妊治療をして出産をした方で「不妊治療を禁止すれば良い」という人や、自分が高齢出産した人で「高齢出産は一律しない方がいい」という人は見かけませんでした。自分が当事者ではないことに対して、安全域から石を投げるような人ばかりの議論というのは、新しい視点や学びも少なく、殺伐としたものしか感じられません

当事者不在の議論より、一人ひとりの幸せを願う丁寧な議論を

妊娠の方法同じであっても、母体の妊娠経過や生まれてくる子供の健康や個性は一人一人違います。ひとまとめにして切り捨てるのは相当特殊な条件がないと妥当性はないでしょう。好悪で言っていい問題ではありません。
crumiiでは、子供を産むハードルがどんどん上がっている今の時代に、望まれて生まれてくる赤ちゃんみんなの幸せを願うような議論をしていきたいと思います。

 

https://academic.oup.com/humupd/article-abstract/19/4/330/609666?redirectedFrom=fulltext&utm

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22559061/

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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