
「量が多い」「貧血」は要注意、産婦人科医に聞く「子宮筋腫」発見のきっかけとよくある誤解
子宮筋腫は、成人女性のおよそ4人に1人が持つといわれるほど身近な病気です。しかし、「筋腫がある」と診断されても、その意味を正しく理解できている人は案外少ないかもしれません。子宮筋腫は、すぐに命に関わることは少ないものの、症状によっては生活の質を大きく下げることも。だからこそ、正しい知識と適切な向き合い方が大切です。
本記事では、子宮筋腫に気づくきっかけから検査、そして現代女性との関わりまで、知っておくべき重要なポイントを専門医の解説をもとに詳しく紐解きます。(この記事は全2回の第1回目です)
症状がなくても要注意。子宮筋腫とは
子宮筋腫とは、子宮を構成する平滑筋という筋肉組織に生じる良性腫瘍(できもの)です。命に影響を及ぼすことはほとんどありません。
子宮筋腫は、できた場所によって「筋層内筋腫」「漿膜下筋腫」「粘膜下筋腫」の3種類に分類されます。それぞれの特徴は以下の通りです。

受診のきっかけは「経血の多さ」と「貧血」。何年も気付かずにいることも
子宮筋腫自体には痛みなどの自覚症状が通常ないため、検診を受ける機会がなければ何年も気付かずにいることがあります。しかし、他の症状で婦人科を受診した際に、子宮筋腫が発見されることもあります。
「『月経量が多いこと』が受診のきっかけで最も多いです。『生理が重い』と表現する方もいますが、主に過多月経の訴えが多いです」
そう話すのは、子宮筋腫など腫瘍を専門とする産婦人科医の松岡和子先生。子宮筋腫の患者さんの診察に長年携わっています。
経血量が多い「過多月経」は、子宮筋腫の代表的な症状です。経血量の正常値は1回の月経あたり20~140mlとされています。乳酸菌飲料1~2本分に該当します。1回の月経中に140mlを超える出血がある場合を過多月経と呼びますが、経血の量を測定して診断することは困難です。
そのため、生理用品の交換タイミングが、過多月経かどうかを判断する一つのポイントになります。
「長年にわたり過多月経を経験している女性の多くが、その状態に慣れてしまい、本来なら多いといえる月経量でも『これが普通』と思い込み、過多月経であることに気付かないケースがあります。例えば、日中でも夜用のナプキンを1~2時間で交換する、タンポンや月経カップを使っていても頻繁に交換する場合は、過多月経に当てはまると考えてよいでしょう」(松岡先生)
そこで、客観的指標となるのが「貧血(鉄欠乏性貧血)」の有無です。健康診断で貧血を指摘されて受診したところ、子宮筋腫があることがわかった方も多いといいます。
「過多月経と同じように、ずっと前から貧血だと指摘されていたけれどそのままにした結果、貧血特有の息切れや倦怠感の症状があっても気付かないケースが多いです。その状態が何年も続いて、少しずつ貧血が重症化しているのに気付いていないことも珍しくありません。問診をしているうちに『そういえば貧血と言われたことがあります』と思い出す方もいます」(松岡先生)
大きくなった子宮筋腫が原因で起こる、さまざまな症状
過多月経と貧血に加えて、大きくなった子宮筋腫が各臓器に影響を及ぼし、以下の症状が出る場合があります。
・腰痛:子宮の後ろ側(背中側)にできた筋腫が、骨盤内などを通る神経を圧迫して、痛みを引き起こすことがあります。また、骨盤内の血管を圧迫し、血流を妨げることも一因といわれています
・便秘:筋腫が腸を圧迫することで生じることがあります
・頻尿:筋腫が膀胱を圧迫することで生じます
・不妊または不育症:粘膜下筋腫や、子宮の内部を変形させるくらい大きな筋層内筋腫は、受精卵の着床や発育の妨げになることがあります
・痛み:まれに、筋腫の組織が炎症を起こしたり(変性)、筋腫の根元がねじれたり(茎捻転)して、強い痛みを引き起こすことがあります
このように、子宮筋腫の位置、大きさ、種類、および症状の程度によっては、必要に応じて外科手術を行い摘出することが推奨されます。
現代人は子宮筋腫になりやすい?
子宮筋腫には、卵巣から分泌される女性ホルモンの一種、エストロゲンが関係していることがわかっています。子宮筋腫の多くは、エストロゲンの影響を受けて、ゆっくり大きくなります。
厚生労働省の患者調査によると、子宮筋腫の患者数は年々増加しており、2023年の調査では約27.4万人に達しています。これは、2005年の約7.9万人から3倍以上に増加しており、3年に1回の調査で毎回患者数が増加していることがわかります。
検査・診断技術の発展による影響もあると考えられますが、初潮が早くなり閉経が遅くなっている現代女性は、エストロゲンに曝露される期間が長くなり、筋腫ができやすくなっていると考えられています。また、月経回数そのものが増えるため、筋腫による月経障害も出やすくなります。
さらに、妊娠・出産経験がない、あるいはこれから妊娠を望む女性で「子宮を残したい」と希望する方の年齢が上がっていることも、子宮筋腫の治療に影響を与えています。
「特に都市部では顕著で、40歳を過ぎても妊娠を望む方が珍しくありません。43~44歳くらいが妊娠の限界だというのが一般的な産婦人科医の意見ですが、納得されない方も多いのが現状です。子宮を温存する期間が長くなるということは、筋腫との関わりが長くなることを意味します」(松岡先生)
どうやって詳しく調べるの?「エコー」と「MRI」の役割
子宮筋腫の検査では、主に「エコー(超音波検査)」と「MRI検査」が行われます。
エコー(超音波検査)でわかること
体内の臓器に超音波を当て、その反射波を画像にして映し出す検査です。筋腫の有無や大まかな大きさ、数、できた場所、筋腫が子宮の内側(内膜)に向かってできているのか、それとも外側に向かっているのかなどを確認します。
MRI検査でわかることと、推奨される場合
強力な磁場と電波で、体の内部を画像化する検査です。子宮筋腫がある場合、以下のような場合に推奨されます。
・初めて筋腫が見つかった方:今の症状の原因となりうるか、今後治療が必要になりそうかどうか、より詳細に診断するためにMRI検査を行います。特に、エコーだけでは判断がつきにくい時に実施します。
・筋腫が大きく、エコーではすべてを確認できない場合:エコーの画面に収まらないくらい筋腫が大きい(スケールオーバー)場合は、全体像を正確に把握するために用います。MRIは体の断面を正確に捉えられるので、筋腫の場所や他の臓器との関係性を問わず、全体像を把握できるのが強みです。
・患者さんの理解を深める場合:ご自身の体の断面図を見ることで、病状への理解が深まります。「MRI画像は、患者さんご自身が治療の必要性を認識し、方針を選択する上で非常に大きな助けになります」(松岡先生)
これらの検査結果をもとに、治療方針を決定していきます。筋腫が見つかっても、まずは定期的に状態を観察する「経過観察」となることが多いですが、すでに症状が重い場合は、ホルモン治療や手術が検討されます。
検査結果をもとに、治療方針を決定する
子宮筋腫は、本質的に良性であり、ゆっくりと進展する腫瘍であることは最初に述べた通りです。そのため、診断された際には、大抵の場合、「経過観察」が選択されます。通常、半年から1年の間に、筋腫の状態および患者様の全体的な健康状態を評価し、定期的なフォローアップを行います。
診断時点で筋腫がすでに大きく成長している場合、および貧血、頻尿、しこりによる違和感などの症状が生活に重大な影響を及ぼしている場合には、ホルモン療法または外科的介入が必要となることもあります。
まとめ:まずは検診から。定期的に婦人科のエコー検査を受けよう

子宮筋腫への適切な対応の第一歩は、定期的な検診です。健康診断に婦人科検診を追加することで、年に一度は定期的に検診を受けることが推奨されます。
松岡先生は、「婦人科検診の追加は自費となることが多いですが、受けておくのが望ましいです。また、できるだけ検診を受ける医療機関を固定し、経時的な変化を確認してもらうことが重要です」と述べています。同じ施設またはクリニックで検査をすることで、毎回の比較が可能となり、より正確な状態の把握につながります。かかりつけの婦人科を持つことは女性の安心感につながります。子宮筋腫の定期検診を契機として、かかりつけの婦人科を探すことも良い方法です。
子宮筋腫は珍しくない病気ですが、正しい知識と適切な対応が求められます。極端な対策を避け、医師と相談して生活スタイルに合った治療方針を決定することが重要です。
次回は、子宮筋腫のよくある誤解を解きつつ、治療についてじっくり解説します。
【参考文献】
・”産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編2023”. 日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会
・"今日の臨床サポート|子宮筋腫". エルゼビア
https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1720, (参照 2025-06-27)
・"今日の臨床サポート|過多月経". エルゼビア
https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1705, (参照 2025-06-27)
・”がん情報サービス”. 国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/index.html, (参照 2025-06-27)
〈監修者プロフィール〉
松岡 和子(まつおか・かずこ)
杏雲堂病院 産婦人科医。滋賀医科大学医学部卒業。日本産科婦人科学会専門医・指導医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医・指導医。婦人科腫瘍を専門とし、子宮筋腫や卵巣腫瘍など良性・悪性腫瘍の診断と治療に長年従事。腹腔鏡手術をはじめ、患者一人ひとりの状況とライフプランに寄り添った、丁寧な医療を提供している。
山本尚恵
医療ライター。東京都出身。PR会社、マーケティングリサーチ会社、モバイルコンテンツ制作会社を経て、2009年8月より独立。各種Webメディアや雑誌、書籍にて記事を執筆するうち、医療分野に興味を持ち、医療と医療情報の発信リテラシーを学び、医療ライターに。得意分野はウイメンズヘルス全般と漢方薬。趣味は野球観戦。好きな山田は山田哲人、好きな燕はつば九郎なヤクルトスワローズファン。左投げ左打ち。阿波踊りが特技。