女性が下腹部をおさえている

気になるキーワード「骨盤臓器脱」#03

もしかしたら骨盤臓器脱? 婦人科、泌尿器科、ウロギネ外来、診療科の違いは?

前回の記事では、骨盤臓器脱の具体的な治療や術後の注意点などについてご紹介しました。進行すると治療の選択肢も狭まってしまうので、心当たりのある方は、早めに受診して対策をスタートすることが重要です。

「子宮脱」などで検索すると、いろいろな診療科が出てきて迷ってしまうかもしれません。ここでは、骨盤臓器脱の診療を行ってくれる代表的な診療科「婦人科・泌尿器科・ウロギネ外来」の違いを解説してみます。

骨盤臓器脱は何科を受診すべき?——婦人科・泌尿器科・ウロギネ外来の違い

骨盤臓器脱の診療は、症状の中心が「子宮・腟」か「膀胱・尿道」か、「便の排出」かによって、得意とする診療科が少し違います。
どこを受診すべきか迷う方も多いですが、まずは婦人科泌尿器科で相談すれば、適切な方向に案内してもらえますので、安心して受診しましょう。

「ウロギネ外来」ってなに?

ちなみに、「ウロギネ外来」というのは「Urology(ユーロロジー:泌尿器科)」「Gynecology(ガイネコロジー:婦人科)」をくっつけた造語で、「Urogynecology」からきています。名前の通り、泌尿器科と婦人科の中間領域を専門とする診療科のことです。
骨盤臓器脱や尿失禁などは、女性特有の骨盤底機能障害、泌尿器と婦人科の両方の分野にまたがる疾患のため、両方の専門知識を持つ医師が総合的に診療することを目的として広がってきました。欧米に比べて日本ではまだ少数ですが、施設自体はあります。

女性の医療チーム
(photo:PIXTA)

各診療科の得意分野って?

婦人科

婦人科は女性の生殖器全般(子宮・卵巣・腟)を扱い、子宮脱や腟壁形成術、子宮摘出などの手術に強みがあります。性機能や妊娠の希望がある場合の相談も可能です。

泌尿器科(ウロギネ外来を含む)

泌尿器科は、膀胱瘤や尿失禁、排尿機能障害など尿路に関する症状の評価が得意です。尿流動態検査など、排尿に関する詳細な機能検査を行う設備を備えた施設もあります。

骨盤底センター

施設自体はあまり多くはありませんが、「骨盤底センター」を備えている病院もあります。骨盤底センターは骨盤底筋に関するトラブルに、婦人科医、泌尿器科医、大腸肛門科医、理学療法士などがチームで対応する専門施設です。尿・便・臓器脱を総合的に評価でき、複数の症状がある方に向いているといえます。

受診に準備は必要?

特に特別な準備は必要ありませんが、症状が出る時間帯や悪化要因に心当たりがあれば記録しておくと良いでしょう。また、分娩歴、既往歴、服薬中の薬、治療や生活面での希望など(子宮温存、仕事復帰の時期など)も問診で聞かれることがあります。また、検査などで下着を脱ぐことになりますので、脱着しやすい服装や靴で行くのがおすすめです。

シニア女性
閉経後の人生を違和感なくはつらつと生きるためにも、ぜひ早めの受診を(photo:PIXTA)

骨盤臓器脱に関する現場でよくある質問(Q&A)

ここでは、産婦人科の現場でよく寄せられる患者さんからの質問にお答えします。

Q1. 自然に治りますか?

重症度によります。それほど進行していない状態であれば、骨盤底筋トレーニングや生活習慣の改善によって症状が軽くなることがあります。しかし、進行例では自然に完全に元に戻ることは難しく、治療の検討が必要になります。

Q2. 運動はしても大丈夫ですか?

ウォーキングや軽いストレッチ、ピラティスなどの低負荷運動は可能ですが、重いウエイトを使う筋トレやジャンプなど腹圧が強くかかる運動は避けた方が良いでしょう。

Q3. 入浴は可能ですか?

出血や感染の兆候がなければ、入浴は全く問題ありません。手術後は医師の許可が出てからにしてください。

Q4. 性生活はできますか?

痛みや違和感がなければ可能です。手術をした場合は腟の回復を確認してから再開し、違和感がある場合は医師に相談しましょう。

Q5. 閉経と関係はありますか?

閉経後は女性ホルモン(エストロゲン)が減少し、腟や尿道周囲の粘膜が薄くなり、骨盤底が弱くなります。局所エストロゲン療法が有効なケースもあります。

Q6. 妊娠希望がありますが、治療は可能ですか?

妊娠を希望する場合は、まず保存療法を優先し、手術は出産後に行うのが一般的です。

Q7. メッシュを体の中に入れるリスクはありますか?

適切な術後管理を行えば有効な治療法ですが、医療行為ですのでびらんや感染のリスクはあります。事前に十分な説明を受け、選択しましょう。

Q8. 再発率はどれくらいですか?

術式や個人の生活習慣によりますが、再発は一定の割合で起こりえます。術後の生活習慣で予防を続けることが大事です。

Q9. 放置するとどうなりますか?

皮膚のただれや感染、尿路の合併症、排便障害が悪化するほか、活動性の低下による体力・メンタル面の悪化も起こり得ます。

まとめ|骨盤臓器脱と上手につき合い、快適な生活を取り戻すために

骨盤臓器脱は、骨盤底の筋肉や靱帯が弱くなり、膀胱・子宮・直腸などが腟側に下がる病気です。妊娠・出産や加齢、生活習慣が主な原因で、腟の異物感や下垂感、排尿・排便など排泄に関わるトラブルを引き起こします。基本的には出産経験のある女性によくある病気ですが、更年期と違ってあまり認知度が高くありません。

日常のありふれた姿勢にリスクが隠れていますので、できるだけ早めに知って、意識して正しい姿勢をとるクセをつけておくと、将来の悪化を最小限に抑えることができます。
軽症の場合には骨盤底筋トレーニングや生活改善、ペッサリー装着といった保存療法が有効ですが、進行例では手術が必要になることもあります。

「恥ずかしいから」と我慢せず、早めに婦人科や泌尿器科などの専門医に相談しましょう。適切な治療と日常生活の工夫で、多くの方が症状を改善し、快適な生活を取り戻しています。まずは知ることから始めましょう。

 

【参考文献】
骨盤臓器脱の手術 メジカルビュー社,2011
病気がみえる vol.9 婦人科・乳腺科 メディックメディア,2021
英国王立産婦人科医協会(RCOG)公式サイト

太田 寛

この記事の監修医師

産婦人科医師

太田寛先生

産婦人科

千葉県成田市リリーベルクリニック勤務。

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