
トンデモ産婦人科医列伝 #07
医療に頼りたいのに、頼れなかった──そんな失望が“トンデモ”市場を助長する?
どこを調べても、ほとんどが「医療機関で相談してみましょう」というアドバイスが出てくる。だからその通りにしたものの「異常なし」で、不調も悩みも一向に改善されない……。非常に悲しいことに、とてもよくある話だ。
今回は「性交痛」「生理痛」で診察を受けたが解決せず……という体験談だ。
同僚や上司すら驚く不調にも、産婦人科では「異常なし」
話をしてくれたのは、20代の莉緒さん(仮名)。10代のころから生理痛が重く、生理が始まると日常生活が困難になる。さらに、性交痛にも悩まされていた。素人が聞くだけでも、健康に問題がないとは思えない。
もちろん莉緒さんは、幾度となく産婦人科に足を運んでいる。しかし「異常なし」で終わってしまうのだ。鎮痛剤を服用するものの、わずかにマシになる程度だった。
「どんな痛みかというと、腹を継続的に蹴られているような……。生理が来たら、もう布団から起き上がれません。働き始めてからはなんとか頑張って出社しましたが、同僚も上司もびっくりですよ。”顔面蒼白じゃないか!”と、帰宅させられました」
周囲の人から見ても、日常生活に支障が出ているのが明白であるエピソードだ。現在は生理が来ると生理休暇を使っているという。
病院で相談するも「異常なし」と言われるのみなので、市販の鎮痛剤を飲み安静にするくらいしか、対処法がない。そうしているうちに痛みはさらに悪化し、ある日駅のホームで倒れてしまったという。生理痛と比例して、性交痛も増していった。

ピルを処方してくれない医師
そして、別のクリニックを受診。するとまた「異常なし」。延々とループしてスタートに戻る、何かのゲームのようである。一般に、生理痛がひどい場合は低容量ピルを服用することで、子宮の負担が軽くなり症状が緩和されるケースが多い。だから、莉緒さんもピルの処方を希望してみた。するとそのクリニックは、このシリーズでも登場してきたような、ピル否定派の医師だったのだ。
「”体に悪いから””まだ若いから”という、よくわからない曖昧な理由で、うやむやにされ、処方してもらえませんでした。性交痛については異常がないから、というだけでした」
誰もがそうだが、病院は体調が悪い中出向く場所である。そこで納得のいかない対応をされるのは、心底きつい。
こうした対応が起こる背景には、産婦人科医の間でも「生理痛は仕方ない」「器質的な疾患(子宮筋腫や子宮内膜症、ポリープなどの物理的な病変)がなければ治療の対象にならない」と思われていた時代が長くあったからだ。しかし今は、保険ピルをはじめとするホルモン療法の充実により、生理痛の根本治療のモチベーションは徐々に上がってきている。もしこれを読んでいる方で、診察で「仕方がないこと」と突き放されるようなことがあれば、体が辛いなか大変ではあるが、病院を変えることをおすすめしたい。
器質的な疾患のない「生理痛」「性交痛」が見過ごされるワケ
性交痛のほうはどうだろう。『夫のHがイヤだった』(Mio著・亜紀書房)という書籍でも、性交痛に悩む女性の話が出てくる。監修である宋美玄医師の説明によると、原因は次のようなものだ。
・コンドームが摩擦になり、痛みを増幅させているケース
・子宮内膜症によるもの(内膜が子宮以外のところにできることがあり、それが臓器同士を癒着させ、性交で圧迫されると痛みにつながる)
・膣の炎症
・子宮後屈(通常よりも後ろ側に傾いている。治療ではどうにでもできないので性交の体位を工夫して対処する)
さらに性器サイズの問題や、皮膚の伸びやすさに個人差があることが原因となる場合もある。
今回の莉緒さんの場合は当てはまらないが、更年期の性交痛は、毛細血管が細くなり濡れにくくなることや、粘膜の萎縮が始まり弾力が失われていくことによるものもある(これらはホルモンを補充する、保険適用の治療法がある)。
診察時、こうした説明があってもよさそうなものだが、莉緒さんには何のアドバイスもなかったという。それは、医療の現場でも性交痛はまだまだ難しい症状だとされていることが、大きいだろう。前出のように明らかな原因がわかる場合もある一方で、分からない場合も多いのだ。
一般に、治療が難しいケースの方が多いのではとも言われている。この問題について、宋医師はこう分析する。
「丁寧に診ても診療報酬に算定できることがほとんどないため、全体的に意識が低い状態になっているのではとないでしょうか。しかし、いずれも患者さんにとっては日常生活への影響が非常に大きな症状です。丁寧に診る医師が増える必要があると思います」
女性の悩みに入り込む“トンデモ”の罠

性の話がオープンにできる風潮になってきたり、フェムテックなどで婦人科領域の新しいとりくみが行われても、まだまだ課題は山積みで、性交痛はそのひとつかもしれない。「疾患は見つからない」と放り出された人の受け皿に、民間療法や怪しげなヒーリング方面が活性化してしまうのも、納得できる部分はある。
筆者はネットでよく、こんな宣伝を目にする。
性の悩みは女性性エネルギーを開花させると、劇的に変わる!
性交痛はトラウマとカルマが原因である。
そして、かなり高額なサービスへ誘導するお約束の流れ……。
最近では「モテ膣」を謡うエステサロンが、「性交痛改善のプロ」を謡っているのもあった。内容は、高周波電磁波で膣内を温めると「するすると潤滑液が出やすい状態になる」という主張だった。いや~、そんなシンプルな問題でもなかろうに(そもそも、分泌物量の問題だとは限らないのでは)。そうしたものの中には、女性側の”準備不足”と言わんばかりのものがあるのも、大変腹立たしい。しかしそれらを選択する女性たちは、まさに「藁にもすがる思い」なのだろう。とても身近なのに、対処法が難しい問題には、トンデモが入り込みやすい。
ネットで解説される対処法の中には、「相談しやすい先生を見つける」というものもあるが、莉緒さんの話からもそう簡単にいかないのがよくわかる。