
トンデモ産婦人科医列伝 #04
ノンデリ!? 天然!? すれ違い!? 微妙な温度差から暴言までの迷言集
今この人、何て言ったんだろう……。社会生活の中では、にわかに受け止めがたい発言を投げかけられるのは珍しくないことではあるものの、真剣に向き合ってもらいたい医療の現場でそれを言われると、驚きもショックもひときわ大きくなりがちである。
今回は、診察や検査の現場で「どうするんだこれ」と、真顔になってしまうようなことを言われ、そして困惑したエピソード集をお届けする。出るとこ出れば大問題になりそうなものから、ささいな違和感までを、詰め合わせてお届けしよう。
●エピソード1「あなたには、スピリチュアルな霊能力がある!」(ない)
現在50代のEさんは、90年代よりアーティスト活動をしている、華やかな存在感を放つ女性だ。だから、俗世の人とは違う特別な何かを感じていても、不思議はないのだが……。その謎発言が飛び出したのは、彼女がピルの処方を求めて、ある産婦人科を訪ねた時の話である。
「診察ではまず、精神科の通院歴についてお話ししたんですよね。それが関係しているのかはわかりませんが……。話をしていた男性医師が、脈絡なく突然言うんですよ。”あなたには、スピリチュアルな能力がある!” いや、ないし。興味もないし」
ははは……そうなんですかね~? と、失礼のない程度に受け流してみたが、医師のスピリチュアルトークはとまらない。しまいには、その医師が信仰しているという某新宗教のお守りを、半ば無理やり渡されたという。なんと、ありがた迷惑な話である。
診察中の雑談というのは、場合によっては楽しいこともあるが、こうした思想強めトークは、はっきり言って迷惑だ。Eさんは結局、その件で通いづらさを感じ、他のクリニックに変えた。そこで発生するのは、新たなクリニックを探す労力や、度々支払うはめになる初診料だ。「考え方の違い」ではすまされないように、思える。
●エピソード2「裸になる仕事でもしてんの?」
生理不順と少量の不正出血。それだけの主訴で、担当の医師はこう言った。
「それ、流産」
医師からそう告げられたMさんは、当時30歳の会社員。妊娠初期の流産は、自覚症状がなく気づかないケースがそれなりにあるとはいうが、これだけの要素で「流産」と言い切るものだろうか……? 結局その後の検査で、内膜症からの卵巣嚢腫だったことがわかった(流産どこ行った)。
絶対に間違ってはならぬ! 不確かなことは口にしてはならぬ! とは言わない。しかし「流産」と聞いてショックを受けるのは普通の感覚であるから、あんまり気軽に言わないでいただきたい。しかも、デリカシーのない発言はさらに続いた。
「卵巣嚢腫の治療は、開腹手術になるといわれました。開腹手術となれば大ごとですし、体にメスを入れるのは、誰だって怖いものです。だから、それはショックだとつい口に出してしまいました」
すると、医師はこう言った。
「君、裸になる仕事でもしているの?」
「肌の露出が多い仕事でもない限り、気にする必要なかろう」という意味……? 着飾る人に向かって「誰に見せるんだ」とバカにする類の、モラハラみも感じてしまう。デリカシーのないことを言わないと死ぬ、デスゲームにでも参加してますか? 体に傷がつくのを嫌がる女性は、脱ぐ仕事! って、どんな世界線を生きているのか、興味すら抱いてしまいますね。

●エピソード3 イケメン見舞客が来ると「彼氏⁉」と連発
卵巣嚢腫の手術で入院することになった、30代の会社員・綾乃さん。担当の医師は、20代くらいに見える若い女医だったが、これがまあびっくりするほど塩対応なのだという。
「自分で気づかないところで、何か失礼なことしたかな……」
そう心配になるほど、受け答えはつっけんどん、内診は力任せで乱暴だった。
「内診のたびに、痛みと出血。それまで他のクリニックで内診を受けたことは何度もあるけど、なかなかそうはならないと思うんですけど……」
しかし職場の近くで立地的に便利だったので、手術をそのまま受けることにした(余談だが、彩乃さんはなかなかの肝が据わった女性なのだ)。指導医にあたるベテラン医師も立ち会うとのことだったので、手術そのものは不安はなかった。ところが「なんだこれ?」と首をかしげだしたのは、手術後の入院中だ。
これまで親身なふるまいが1ミリも見られなかったのに、とある時だけ、今までみたことのない愛想をふりまき、綾乃さんのベッドに飛んでくるのだ。そのイベントが発動する条件は、イケメンの同僚が見舞いに来た時に限った。
「イケメンの同僚が帰ったときだけ、ベッドにすっ飛んでくるんですよ。そして、まくしたてるんです。”今の、彼氏⁉ 彼氏⁉”。お忙しいでしょうに、一体どこで見ているんでしょう……。そして、彼氏だったらどうだっていうんでしょう……。違うと否定すると、”ふーん、そうなんだ!”とすぐ消えるのですが、ただただ謎でしたね」
恋バナがお好きだったのか、よっぽどお好みのタイプだったのか……。その熱意を、日頃の診察にも反映してほしい。ちなみに筆者も、そういう謎の振る舞いが多い医師は数人知っているので、レアケース! とは言いにくい。げんなりした顔の彩乃さんと「たまにいるよね……」と、頷きあうのだった。
●エピソード4 「若いっていいねえ~!」どう考えてもセクハラな乳がん検診
最後は映画『ゆりかごを揺らす手』を思い出す体験談だ。同作は冒頭で、セクハラ事件が起こる。妊婦であるヒロインが、産婦人科医の診察時の手つきや表情に違和感を覚え、「セクハラだ」と訴えるのだ。視聴した当時は医師のセクハラ行為よりも、決定的な証拠にかける微妙なラインでも、堂々と声を上げる点に圧倒された記憶がある。これが訴訟大国アメリカか~と。
一方、体験談を寄せてくれた美香さん(30代)が体験したのは、同作もびっくりな露骨なセクハラと言えるだろう。
「20代の時、乳がん検診を受けたときのことです。男性医師に20分くらい触診されていたので、なげえ……とすでにイライラしていたんですよね。でもそんなのは序の口。手を離して“若いっていいよねえ!”。その、ひと仕事終えてふう~みたいな言い方……満足げに言うんじゃねえ!!!!」
お怒りはごもっともである。その後、エコー検査で影があるとのことで、別のクリニックで再検査を受けたところ、問題なかったそうだ。
どれもこれも、「それ、診察に関係ありますか?」と小一時間問い詰めたい。コミュニケーションのつもり……とは思いたくない、脳がバグりそうな体験談、同業の皆様のご感想をぜひお聞かせいただきたい。
山田ノジル
フリーライター。女性誌のライターとして美容健康情報を長年取材してきたなかで出会った、科学的根拠のない怪しげな言説に注目。怪しげなものにハマった体験談を中心に、取材・連載を続けている。著書『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』(KKベストセラーズ)ほか、マンガ原作や編集協力など多数の作品がある。 X:@YamadaNojiru