
こわがらないで更年期 #02
更年期の「カラダが!ナツにな!る!」のを防ぐ?41歳で閉経した医療ライターが「 HRT(ホルモン補充療法)」を解説
更年期にあらわれる不調の多くは、治療で改善できます。今回ご紹介するHRT(ホルモン補充療法)は、更年期の治療法の一つで、ファーストチョイス(第一選択)とされています。HRTの概要と治療の実情を、一足先に更年期を迎えたライターが、実体験を交えてお伝えします。
なぜ更年期症状に効く?ホルモン補充療法 の仕組みと効果
HRT(ホルモン補充療法)は、その名の通り、更年期で大きく減ってしまう女性ホルモン(主にエストロゲン)を補う治療法です。
更年期には、下記の図のように女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌量がガクッと減少します。

エストロゲンは、肌や髪の潤いやツヤを保つ、骨を丈夫にする、血管や心臓を元気にするといったように、健康面全般に必要不可欠な働きをしています。更年期には、エストロゲンの分泌量がこれまでと変わるため、体にさまざまな症状があらわれます。そうした更年期症状を改善するのが、HRTの目的の一つです。更年期で多くの人が抱えやすい、顔がカーッと熱くなって、汗が吹き出してしまう「ホットフラッシュ」の症状も、HRTで抑えることができます。
短期的な症状の改善だけでなく、長い目で見たときにもHRTは効果を発揮します。例えば、エストロゲンが減ると骨の形成とカルシウム吸収のバランスが崩れて骨がもろくなり、骨粗しょう症を発症することがあります。HRTによってエストロゲンを補充すると、骨量を維持することができ、骨粗しょう症を予防します。そのほか、コレステロール値の上昇を防いだり、血管の弾力性を保ったりする働きもあり、動脈硬化や心筋梗塞などの予防にもつながります。
人によっては「女性ホルモンを薬で人工的に体に入れるなんてこわい」と感じるかもしれませんが、HRTには多少の副作用(この後、解説します)はあるものの、配合されるホルモンの量は調整されていて、基本的には安心して使用することができます。
HRTは、女性が長い人生を元気で過ごすために大切な治療法なのです。
のむ、貼る、塗る……自分に合った選択ができる
日本で使用できるHRTの薬は、のみ薬、貼り薬(パッチ)、塗り薬(ジェル)の3タイプがあります。
それぞれ一長一短があり、例えば、のみ薬は、毎日1回のむだけで手軽ですが、子宮体がんを防ぐために服薬を休む期間(休薬期間)があったり、薬の成分を肝臓で分解する際、肝臓に負担がかかったりします。貼り薬は、おなかに貼ったパッチを週に数回貼り替えていきますが、皮膚がかぶれてしまうことも。塗り薬のジェルにはアルコールが入っているので、アルコールでかぶれてしまう人は使えません。
このように各タイプの特徴を理解しつつ医師と相談して、自分に合ったタイプの薬を選べると、より快適にHRTができます。
ただし、不正出血、乳房の張り、おりもの、下腹部の痛みなどの副作用が起こることがあります。
また、重度の肝臓疾患、乳がんおよび既往歴のある人、血栓性静脈炎などがある人はHRTができないという注意点もあります。
HRT:私の場合
私はHRTを始めてから、ホットフラッシュと気持ちのイライラが落ち着いたのが、非常にありがたかったです。
前回もお伝えしたように、更年期症状に悩まされていたときの私は、ちょっと動くだけで顔から汗が吹き出し、メイクをしてもすぐ崩れてしまうような状態でした。また、PMS(月経前症候群)のイライラがずっと続いているかのように、家族に当たり散らすような日々でもありましたが、これらの困り事がHRTを始めて少しすると、魔法にでもかかったようにスーッと落ち着いたことを今でも覚えています。
ただ、副作用もありました。私はBMIが高いため、のみ薬を使ったHRTができず、貼り薬(パッチ)を使っていました。が、肌かぶれと色素沈着がひどく、パッチの丸い形状がおなかのあちこちに残ってしまっていました。加えて、約2週間ダラダラ続く不正出血が月に一度起こっており、しかもその状態が1年ちょっと続いてもいました。
いくらホットフラッシュとイライラの症状が落ち着いても、これではプラマイゼロどころか、むしろマイナスです。そこでクリニックを変え、治療法もジェルに変えたところ、これがバッチリ。今では日々快適に過ごせています。
私のように、治療法によって合う・合わないがあるので、ちょっとダメだなと思ったら、遠慮せず医師に相談して治療法を変えたり、場合によってはクリニックを変えたりするのもひとつの方法だと思います。
HRT以外で、更年期の不調を楽にできるものは?
ところで、さきほど紹介したように、重度の肝臓疾患、乳がんおよび既往歴のある人、血栓性静脈炎などがある人は、HRTをすることができません。そのような人たちは、更年期につらい症状があっても我慢するしかないのでしょうか? いいえ、そんなことはありません。例えば漢方薬で、症状を軽減できることもあります。
そこで次回は、更年期症状に有効な漢方薬についてご紹介します。
【参考文献】
『【読む常備薬】図解ただしく知っておきたい子宮と女性ホルモン』宋美玄著(河出書房新社)
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会「産婦人科診療ガイドライン―婦人科外来編 2023」
山本 尚恵
医療ライター。東京都出身。PR会社、マーケティングリサーチ会社、モバイルコンテンツ制作会社を経て、2009年8月より独立。各種Webメディアや雑誌、書籍にて記事を執筆するうち、医療分野に興味を持ち、医療と医療情報の発信リテラシーを学び、医療ライターに。得意分野はウイメンズヘルス全般と漢方薬。趣味は野球観戦。好きな山田は山田哲人、好きな燕はつば九郎なヤクルトスワローズファン。左投げ左打ち。阿波踊りが特技。